第二十一話 「黄金か死か? ゴールデンクロス VS デッドクロスの戦い」
「――おい森本。まーた赤だぞ、画面全部。」
「…うん、これね、俺なりの“逆張りチャンス”ってやつなんだよ。」
カフェの片隅、MacBookの前で森本は妙なドヤ顔をしていた。けれどその画面には、真っ赤なチャート、そしてずらりと並ぶ“含み損”の列。まるで火事現場でコーヒーを飲んでいる消防士のような危うさだった。
向かいの席では、カレンが呆れを通り越して笑い出していた。
「逆張り以前に、あなたそれ、デッドクロスって知ってて買ったの?」
「……え? 何それ、クロスってあの? ゴールデンな?」
「ゴールデンクロスとデッドクロス。初心者でも見逃せない、移動平均線のシグナルよ」
◆ 投資家たちの戦場、それは“線”の交差だった。
「まず、移動平均線ってのは過去の株価の平均値を滑らかにしたもの。短期線と長期線があるわけ」
カレンがホワイトボード代わりに森本のノートを引き寄せると、ペンで図を描き出した。
「ゴールデンクロスってのは、短期移動平均線(例えば25日)が、長期移動平均線(75日)を下から上に突き抜けるとき。これは上昇トレンドへの転換を示唆してて、多くの投資家が買いのサインと見るの」
「逆に、デッドクロスはその反対。短期線が長期線を上から下に突き抜ける。これは下降トレンドに入る合図。売り逃げの警告ね」
「なにそれ……“黄金の道”と“死の谷”みたいじゃん」
「その通り。英語でもGolden CrossとDeath Cross。どっちを信じるかで運命が変わるのよ」
◆ 森本、またしても死亡フラグ。
「つまり俺が、デッドクロスしてる銘柄を“下がってるからチャンス!”って買ったのは――」
「ナイフを落とす瞬間に素手で掴みにいってるようなもんね。**“落ちるナイフは掴むな”**って格言、知らない?」
ズブズブと沈む株価チャートを見て、森本は頭を抱える。
「ぐぬぬぬ……もう、チャートなんて信じない!」
「ふふ。でも、チャートも万能じゃないわ。ゴールデンクロスでも、騙しのシグナルってこともあるし。移動平均線は“遅行指標”だから、実際の価格変動より遅れて反応する。だから過信は禁物」
「何それ、いちいち難しいな…」
「“分析は確率、判断は自己責任”ってこと。どこまで頼るかは人それぞれ。でも知ってるか知らないかで、戦える武器が違うの」
◆ 名言でぶっ叩かれる森本
そんな森本に、カレンがとどめを刺すようにスマホ画面を見せてきた。そこには投資家の名言が。
> 「市場は時に非合理、でも合理的にそれを利用できる者が勝者となる」
――ポール・チューダー・ジョーンズ(著名ヘッジファンドマネージャー)
「……非合理なのは俺の方だったな……」
「気づけたなら、今日があなたのゴールデンクロスよ」
◆ ゴールデンな未来を描けるか?
後日。カレンに指導を受けながら、森本は“トレンドの初動”を慎重に観察するようになった。
「よし、今度はちゃんとゴールデンクロスを確認して……でもRSIも見る。ボリンジャーバンドも……!」
その姿は、ちょっとだけ投資家らしくなってきた。赤い画面にビビることなく、冷静に市場を読み、動こうとしている。
そして今日も、彼のノートの片隅にはこう書かれていた。
「死と黄金の交差点で、俺は勝つ」
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