第二話「株はトイレで買うな」
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日曜の昼下がり、森本真(30)はトイレにいた。
用を足していたわけではない。株を買っていた。
「今しかねぇ……この銘柄、インフルエンサーが『買いだ!』って言ってたし……ガンホー再来って言ってたし……俺、やるしかねぇ!!」
彼はトイレで息むようにしてスマホの「買い注文」ボタンをタップした。
「全力っ……っ!!(ポチィッ!)」
画面の中で「購入完了」の文字が光る。大便器に反響する効果音が虚しく響いた。
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翌朝──
奇跡は起きた。
「う、嘘だろ……前日比+42%!?俺……やった、のか?」
会社のデスクで涙をにじませながら、ガッツポーズを決める森本。
営業成績が振るわず、上司から冷凍庫のような視線を浴びる中、彼のスマホだけが春だった。
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金曜日──
「さらに+18%……これが“勝ち組”ってやつか……!」
缶ビール片手に、夜のスーパーでニヤつく森本。
投資界隈でよく見る“煽り屋”のX(旧Twitter)アカウントを見ながら、彼はこう呟いた。
「“押し目待ちに押し目なし”……ってな。俺、もう勉強とかいらなくね?」
完全に調子こいていた。
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月曜日の朝──
「ん?」
株価は、前日比−5%。
「ま、まぁこれくらいは誤差よ、誤差。むしろ買い増しチャンス」
火曜日、−12%。
水曜日、−18%。
木曜日、−24%。
金曜日──
「……上場廃止……?」
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真の家・その夜
彼はカーテンを閉めきった部屋で、1万円のマッサージクッション(分割払い)にうずくまっていた。
TVではバフェット特集が流れている。
> 「株式市場は、せっかちな者から、忍耐強い者への資産移転装置である」
「……俺はトイレで買って、風呂場で泣いた男だよ……バフェット先生、なんでもっと早く教えてくれなかったんすか……!」
画面の中のバフェットは穏やかに笑っていた。
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今回の学び(真メモ)
SNSでバズってる銘柄は、すでに“焼け野原寸前”かもしれない。
勝った時ほど冷静になれ。
トイレで買うな。せめて机で考えろ。
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