第八十六話 学園祭二日目:爆裂魔法
後夜祭の前半が始まり体育館は笑いに包まれていた。テレビに出る芸人の真似ではなく自分達で考えたコントだが、クオリティが高くて楽しい。
司会と理事長のやりとりも前もって段取りを組んでいたのか、スムーズにスケジュールが進行されていた。聞いている人を飽きさせないトークで後夜祭を盛り上げる。
「そういえば鈴ちゃん、学園祭の時に連れていた執事君は誰なの?」
司会が俺に対して爆裂魔法をぶち込んできやがった。使えるのは一度きりのはずだからこれ以上はこないはずなので耐えよう。平や詩織ちゃんがニヤニヤして、花と一成は苦笑いをしている。
「あれは我の執事にしたのじゃ。今度は学園で我と共によく見ると思うぞ。この後ダンス部に出ると思うから注目じゃ」
「ダンス部で出るなんて要注目ですね! 皆さん聞きましたか? ダンス部に執事君が出ますよー! それで結局誰なの?」
「あれは篠崎初の弟じゃよ」
俺の位置から舞台は遠いが、理事長の顔がニヤリと笑うのがはっきりと見えた。これ以上は個人情報を漏洩しないでくれよ。
「教育実習で来ていた篠崎初先生の弟ですとー! あの容姿端麗の方の弟ということなら納得できるかっこよさですね!」
会場のみんなが納得しているのが見て分かる。近くにいる人たちはこっちを指差しながらざわざわし始めてきた。あまり注目しないでほしい。
「それでは次のグループで前半最後のグループになります! この後の中盤では噂の執事君が出るのでお楽しみに!」
そうして前半最後のコントが始まった。コントの内容は面白かったのだが、さっきからこちらをチラチラ見る人が増えてきて落ち着かない。
「篠崎、かなりこっち見られているぞ」
「俺のせいだろうが、我慢してくれ」
「んー、男子は花ちゃんを見ているみたいだよ」
「え? 私見られているのですか?」
「執事とメイドが並んでいて、理事長の言葉が効いたんだろう。そりゃ注目されておかしくないだろ」
一成の言う通りだろうが、前にいる三年の先輩が以外は舞台よりもこっちを気にしているのはコントしている方に悪すぎるだろ。頑張っているんだから。
男共が花に見惚れるのはわかるけど見すぎな気がする。視線から察するにみんなおっぱいに目が行っている。こんな巨乳の持ち主がこの学園にいたのかと言わんばかり凝視している。男ならそのおっぱいを見たいのはわかるのだが、見すぎだクソ野郎ども。
舞台のコントを楽しみたいのだが、どうしたもんか。この際場所を移動しても状況は変わらないだろうし、我慢しよう。もう少しで準備で離れることになるし。みんなにも悪いが我慢してもらう。
みんなからの視線を気にしている間に舞台ではコントが終了したみたいだ。内容なんて頭に入っていない。面白かったと思うのだが、全然覚えていない。出演者には失礼なことをしてしまったな。
「これにて前半は終了でーす! いやーたくさん笑わせてもらいましたね!」
「腹を抱えて笑ったのは去年の後夜祭以来じゃったぞ。毎年どんどん質が上がってきて楽しいの」
「これは来年も楽しみですね! あ、私今年で最後だった!」
「そうじゃの。三年は最後じゃが悔いのないように楽しんでおるかー?」
前の先輩方が叫びだす。さっきから叫んでばっかだからきっと楽しんでいるのだろう。それかただ叫びたいなのだろう。どちらにせよ後夜祭は盛り上がっている。
「それじゃ俺は準備で舞台裏に行ってくるよ」
「まだ早くない? バンド部が先だから時間あると思うけど」
「始まる前にミーティングもあるし、いちお俺副部長だしね。準備とかあるし」
「また執事服で踊るんですか?」
それは嫌だけどどうだろうか。舞台裏には理事長もいるだろうし、執事服で踊ることになるだろう。
踊りにくいからできれば避けたいのだが……
みんなに別れを告げて舞台裏に向かう。俺が通るたびに視線を感じるのだが、気にせず歩く。やはりこのかっこうは目立つ。早く着替えたいのだがもう少しの辛抱だ。
舞台裏に着くとバンド部が準備をしていたので邪魔をしないように部室のほうへ向かう。部室にはまだ誰もいなかったので軽めに柔軟しておく。やはり執事服のままだと少し動きにくい。
舞台ではバンド部の準備がちゃくちゃくと進んでいく中、司会と理事長がその間ステージの繋ぎを行っている。中盤で行われるバンド部とダンス部の紹介をしているようだ。変な紹介をしないか心配だったがよくある部活紹介のようで安心した。爆裂魔法はもう打てないはずだしね。
「お、遼早いな。さすが副部長」
地面に顔を付けるほど体を曲げていた俺は声がした方に顔だけ向けると石田先輩が来ていた。さすが副部長と言われたが先輩も部長だから早く来たのだろう。
「部長も早いですね」
「お前から部長と呼ばれるのは気持ち悪いからやめろ」
なんてひどい先輩だ。でも長い付き合いだし言いたいこともわかる。花に今さら篠崎さんといきなり呼ばれ方が変わると鳥肌が立つかもしれない。怖い怖い。
舞台ではバンド部のセッティングが終わったらしくそろそろ始まるみたいだ。司会と理事長が舞台裏に下がってくる。石田先輩がこちらに歩いてくる理事長の姿を見たのか部室の中に姿を隠した。そんなに理事長怖いと思わないでほしいな。権力者だけど。
「理事長お疲れ様です」
「おぉ貴様か。それに理事長じゃないじゃろ。もう一人おらんかったか?」
石田先輩が見えていたのだろう。ビビッて隠れているし触れないでおくかそれとも晒しだすか。晒すのはやめておこうか。
そしてお嬢様とまだ呼ばれたいのか。そうなるとまた口調変えないといけないな。
「さっきから私だけですよ。バンド部の誰かを見たのではないですか?」
「そうかの? 貴様一人ならよいがの。そうじゃ、今回も執事服で踊るのじゃぞ」
「お嬢さま、これ以上私が目立つ必要はないのでは……」
「何を言っておる。もうこの学園に貴様を知らぬ生徒はおらんぞ。気にすることはないのじゃぞ」
そりゃ一日目はずっと理事長に付きっきりだったし執事服で踊るし、さっきは俺の紹介みたいなことをされるし。これで知らないと言う方が珍しいだろう。
舞台ではバンド部の演奏が始まったのだが、ダンス部のメンバーがまだ集まらない。理事長がいることに怖気付いているのだろうか。石田先輩も隠れたし。いっそ理事長に聞いてみるか?
「あの、お嬢様。お伺いしたいことが…….」
「鈴ちゃん、このあとのことなんだけど……」
俺の言葉を遮るように舞台袖から女性が一人やってきた。爆裂魔法を放つあの子のコスプレをした司会の人だ。遠くからでは分からなかったが高校三年とは思えないぐらい幼い顔立ちだ。
「ん? 君は噂の執事君かい?」
「不本意ながら噂になってる執事君です。一年の篠崎遼と申します。以後、お見知り置きを」
「おぉ、本物の執事みたいだぁ。あ、鈴ちゃんとお話中だったかな? この後の打ち合わせをしたいから少し借りてもいいかな?」
「別に構わないですよ? 早く連れて行ってください」
「む、我が邪魔みたいな態度じゃの。まぁよい、ちゃんと執事服で踊るのじゃぞー」
理事長は司会の人にズルズルと引きづられながら部室のある舞台裏とは反対側の方へと姿を消した。
見た目もそうだが今の光景は理事長たる威厳が全く無かった。ただ姉にごねる小学生にしか見えなかったぞ。
「遼、理事長は行ったか?」
「はい。昨日もそうでしたけど、先輩方は理事長が怖いのですか?」
「去年いろいろあったんだよ。まぁ当時の部長が原因なんだけどな。お前ら一年が知らないのは仕方ないよ」
深くは聞かない方がいいかもしれない。先輩方のトラウマをえぐるようなことはしたくないしね。
理事長が去ってから数分後ダンス部のメンバーが続々と集まってきた。理事長が去るのを待っていたかの様な集まり方だがまぁ仕方ない。
集まったのを確認したらみんな着替えて柔軟体操をして体をほぐす。もちろん俺は執事服のままだ。
柔軟体操が完了したらミーティングを始める。チーム毎に細かい話をした後全体でまとまった話を部長である石田先輩から告げられた。さぁ、ショータイムの始まりだ。
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