第八十二話 学園祭二日目:アニマル喫茶
二年生のフロアにやってきた。一年生のフロアとは違い結構人がいるようだ。昨日とは違う視線が俺達に突き刺さる。引いてるような感じではなく、どちらかと言うと羨望の眼差しのようだ。
昨日は理事長がいたから和やかな雰囲気だったけど、これじゃ執事がメイド二人を引き連れてこれからご主人のとこへ向かうみたいじゃないか。
「私達注目されているわね」
「これだけ見られていると少し恥ずかしいです」
「これは仕事だ。委員長が宣伝も立派な仕事と言ってたじゃないか。何か声を掛けてやれば?」
「え、私ですか!? 遼さんの方が適任だと思いますが……」
「花、周りを見なさい。どう見ても男子生徒が私達を見ているわよ。ここでアピールしなきゃいつするのよ」
花はうぅーと唸った後決心したのか、真剣な顔をして周りの生徒に見回す。桜もやる気なのか花とは背中合わせに立ち位置を変えた。そして二人は大きく深呼吸をして……必殺営業スマイル炸裂。
「一年フロアでメイド喫茶やってまーす。かわいい女の子いっぱいですよー」
「今ならなんと理事長がセットのタイムサービス中! 先着限定なのでお早めにー」
二人ともぴょんぴょん跳ねながらそのセリフの語尾にハートマークが着きそうななかなかいい宣伝だ。それだけのセリフでかなり効果があった。
周りがざわざわし男子生徒が移動を始めた。どうせ花のおっぱいに目を惹かれたに違いないが、いい集客効果に違いない。もちろん俺は花のおっぱいしか見ていなかった。だって跳ねているんだぞ? 花じゃなくておっぱいが。
「ふふん。きっとみんなあたしに夢中だったわよ」
勘違いするな。みんな花のおっぱいに夢中だったぞ。でもかわいいぞ。
「いい宣伝になったでしょうか?」
誰が見てもよかったよ。もっと跳ねてもよかったんだよ。てかもっと跳ねてくれ。
人が少なくなったので周りが見渡しやすくなった。どれだけの人がうちのメイド喫茶に向かったか気になる。みんなには頑張ってもらおう。
「アニマル喫茶はこの辺りで間違いないのよね?」
「もう少し先かな? 人も少なくなったし行こうか」
「あそこじゃないですか?」
花が指す方を見ると教室で使う机と椅子に猫が座っていた。性格には猫耳を着けた女子だ。遠目からでもわかるが結構かわいい先輩だ。近くまで行くとアニマル喫茶の看板がかかっていることから間違いない。
「あのーアニマル喫茶ってここですか?」
「はい! お客様……じゃなくてご主人様いらっしゃいにゃん」
にゃん……だと。この先輩見た目がかわいいだけでなくそんなかわいい語尾まで着けているなんて男心を分かっていらっしゃるようだ。
「猫カフェみたいな動物と触れ合う喫茶店かと思っていました」
「うーん、それをやりたかったんだけど衛生面で良くないらしくてこういうことになったのにゃん」
「この衣装結構凝ってるわね。私達お腹が空いたんですけど食事のメニューもありますか?」
「もちろんだにゃん。ささどうぞどうぞ。案内するにゃん」
猫先輩(仮称)に中へ案内されて三人で席に座る。そこまで客がいないからきっと猫先輩は暇だったのだろう。
中はうちのメイド喫茶のようだが、かわいい感じではなく、落ち着けるような装飾をされている。うちよりも装飾がかなり凝っていて参考になることが多い。これが上級生の実力なのか。
「さっきの人もそうでしたけど他の方もかわいらしいですね」
花の言う通り猫だけでなく、犬耳やうさ耳、パンダや熊のきぐるみを着ている人もいる。うちとは違い様々な個性があって見てて飽きない。
そしてきぐるみは仕方ないがそれ以外の人の格好が際どい。うちのメイド服の様に一部分を強調した作りではなく。短いシャツにミニスカートといったかなり露出度が高いものになっている。服を着ない動物ってことでなのだろうか。
花みたいなおっぱいが大きい子があんな格好したら鼻血もんだ。そういう人がきぐるみを着ているのかもしれない。事件が起きちゃうからね。
だがやはり露出と言えばおっぱいなのだ。エロそうな女豹のお姉さんよ、細くてスタイルはいいが、おっぱいが足りんぞ! もっと乳を揺らせるような子を用意しとかんか! バニーガールのお姉さんよ、詩織ちゃんのバンドのヴォーカルの人もそうだったが、貧相な胸でそんな格好で恥ずかしくないのか!
「遼はメイドとアニマルコスどっちが好み?」
「どっちも好きだぞ。一番好きなのはおっぱいだ」
「遼さんそれコスプレじゃありませんよ」
「さっきも思ってたんだけどあんた私達と離れている間に変態度が増していない?」
「お前らに何も隠す必要がなくなったからだよ。喜ぶべきことだぞ?」
これからは何も隠すことはしないし、俺も気持ちをはっきりと言える様にしないとまたあんなことになってしまうからね。何でも言える関係って大事だよ。
そう考えてたんだが、二人は喜ぶどころかドン引きして呆れたようにため息をついた。どうやら俺の考えの一割も伝わっていないようだ。以心伝心できる関係はまだ遠いな。
急に後ろから誰かに抱きつかれ、体が前のめりになる。危うく机に頭をぶつけるところだった。感触と目の前にある腕を見て緑のきぐるみを着た誰かだ。
「よう、こっち来てくれたんだな」
「石田先輩ですか?」
背中から重みが無くなり、振り返るとワニ……のきぐるみを着た石田先輩が立っていた。きぐるみを着ているってことはこのクラスだったのか。
「かわいいメイドさん二人も引き連れてモテモテだなお前」
「先輩も……かわいいですよ」
「おいその間なんだ」
二人がポカーンとしていたので、石田先輩のことを紹介する。二人とも昨日のダンスを見ていたので納得したようにあの時の人かと頷いた。確かに先輩はかなり目立っていたな。
「先輩、こっちが同じクラスの瀬戸内花。こっちは友達の中田桜です」
「瀬戸内花です。よろしくお願いします。遼さんとはまだお友達です」
「中田桜です。遼とはまだ友達です」
「遼、お前二股かけるのか?」
「そんなことしないですよ。この子達とはまだ友達の関係です」
「お前まで"まだ"なんて言いやがって。このリア充め」
俺自身も二人に影響されているのだろうか? まあ嘘をついているわけではないし気にしないでおこう。
「それより飯食べに来たんだろ。早く注文しないと時間がもったいないぜ」
「じゃあ先輩のオススメで」
「私もそれでお願いします」
「あの、私もそれでいいでしょうか?」
石田先輩がめんどくさそうな顔をするが、この人は基本的に面倒見がいい人なので嫌がっているわけではないはずだ。少し待ってなと裏へ下がっていった。
「そういえば桜、行きたい所があるって行ってたけどどこなんだ?」
「このフロアにあるんだけどそこは絶対外せないわ」
「どこに行くの?」
「お化け屋敷よ」
桜が小悪魔な表情になったとほぼ同時に花の顔が青ざめていったのが目に見えてわかった。やっぱり女の子はそういうのが苦手なのか。桜が少し変わっているだけなのだな。
「それって私も行かなきゃダメですか?」
「みんなで行くから楽しいのよ。それとも花だけ一人で私と遼が入っているとき外で待っておく?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる桜とむくれた顔の花が視線が交差する。CGと効果音があるならバチバチやりあっているに違いない。
「わかりました。私も行きましょう」
「別に無理しなくていいのよ」
「そうだぞ花。他のとこもあるからそこに行こう」
「いえ、それでは桜に負けた気になるので行きます」
桜はそれを聞いてさらに口元を吊り上げた。その顔怖いからやめぃ。
「それじゃご飯を食べた後はお化け屋敷で決定ね」
俺は別に構わないが花は本当に大丈夫だろうか。少し心配だから様子はお化け屋敷では様子を見ておこう。倒れでもしたら周りに迷惑をかけてしまう。
そんなことを考えていると料理が運ばれてきた。三人ともオムライスだ。先輩決めるのがめんどくさかったんだね。三人でおいしくいただきました。




