第六十二話 花、無言、バスにて
IFの物語を連載してみましたのでこちらもぜひご覧ください!
本編では書かれなかった展開ですので、お楽しみいただけるかと思います!
バス停に着くとお兄さんが待っていたので今度こそ名前を聞こうと思ったのだが、桜とお兄さんが乗るバスが到着した。
「私はまたしばらく忙しいから次会えるのは学園祭の時ね。今度私達を避けるようなことしたらあんたの童貞を無理矢理にでも奪ってやるからね」
バスに乗る前にとんでもない捨て台詞を吐いて二人は去っていった。童貞奪うなんて女の子が言っちゃだめだよと思い苦笑いと共に乾いた笑い声が響いた。
そして、またお兄さんの名前を聞きそびれた。いつになったらわかるのだろうか。別に困ることではないのだが……
「桜はもう少しかわいらしい言動できんのか」
「遼さんの童貞は私が奪うので安心してくださいね」
「……花、女の子がそんなこと言ったらだめだからね。自分で言って恥ずかしそうにしているじゃないか」
花は耳まで赤くして恥らっている。ヤンデレ化した時も似たようなこと言ってたけど、きっとあれはそっちの感情が恥じらいを凌駕していたのだろう。うん、そういうことにしておこう。あんな花よりも恥らっている花のほうがかわいい。ヤンデレは……ほんとに勘弁してほしい。
恥らっている花を見て楽しんでいるとバスが到着したので二人で乗り込む。花は隣の座席に座ろうとしたのだが、一瞬何かを考えて通路の反対側の席に座った。
バスには運よくか俺達と運転手しかいない、おそらく距離を置くという話を聞いて気を利かせたのだろう。
バスは二人を揺らしながら走る。無言。聞こえるのはバスのエンジン音とタイヤがアスファルトを走る音。気まずい雰囲気がバスの中を包む。
俺から何か話す? いや、あからさまに避けないとは言ったが距離を置くのは進行中だ。俺から話しかけるのは負けた気になる。
しばらくこの状況が続いたので空気に耐えられなくなり何か話そうと思ったら花が口を開いた。
「りょ、遼さんは桜とどこまで進んでいるのですか!?」
聞くことがそれ!? すごい答えにくいんですけど! せめて今日のダンスのことにしてほしかった……。
「花が知っていること以上は何も無いが……」
「それはキスまでってことですか?」
うむ、添い寝ってどうなるんだろう。明らかにキスより難易度が高いイベントになる気がするのだが、素直に話すと俺は家に帰れないかもしれない。
さらに言えば、桜の全裸も見ている。花の豊満なおっぱいも見たのだが、全裸とまではいかない。いや、ふくらみのボリュームが段違いなのだが……。黙っていても何かを隠していると思われてしまうのでこのことも言わないことにした。
「桜とは何回キスをしているんですか?」
「んー三回かな? でも最初の一回は俺達が幼いころだから再会してからは二回かな」
これぐらいは話してもいいだろうと思ったのだが、花を窺ってみると死んだような目で俯いて何かを呟いている。こういうの見ると他人の振りをしたくなるが花が呟いている言葉が聞こえてしまう。
「三回、私は二回なのに桜は三回……私は二回なのに……」
「花!? 最初の一回はノーカンだから花と同じく二回だよ!」
すかさずフォローを入れるのだが、聞こえていないのか同じ言葉を繰り返している。どうしたものかと考えていると花は顔を俯いたまま首だけをぐるんとこちらへ向けた。目は焦点があっていない、ホラー映画が現実で起きているかと錯覚するようだ。
「私も桜と同じ回数キスしてもいいですか?」
顔をこちらに向けたまま口元だけ笑う花。こんなの見せられたら断りたくたくなる。普通の時でも断るのだが、今感じているのは恐怖でしかない。かわいさの欠片すら見当たらない。とりあえず何か言わなければ死ぬ。間違ったことを言っても死ぬ!
「いやー、花とはこの前濃厚なやつやったし。あれでいいじゃないか?」
「……確かにそうですね。それでいいでしょう」
だんだんと目に生気が戻っていく。もしかして花は何かに憑かれるのではないかと思うほどの変わりようである。ヤンデレ恐るべし。
実は桜とも濃厚なキスをしたことを知られたらまずいので桜には口止めしておかなければならない。花には嘘はついてはいないけど真実を話していないだけだ。知られた時に何が起こるかわからない。
花が元に戻った数分後、バスが学園前に到着したので二人で降りる。これ以上は墓穴を掘りそうな気もしたのでここで解散となった。と言うより今の花といるのは怖すぎるので解散させてもらった。
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家に着くころには外は暗くなっていた。昼間は真夏のように暑かったが、やはり日が落ちると肌寒く感じる。
「ただいまー」
家に帰るといつも通り藍が出迎えに来る。今日はちゃんと服を着ていた。いつもこの格好で出迎えてほしいものだ。
「おかえりー。大会どうだった?」
「優勝まであと一歩ってとこだったけど桜のお兄さんのとこにやられたよ」
「おしかったんだね。見に行けばよかった」
昨日隣で全裸で寝ていたことは絶対に触れない。いつも通りの休日のように昼まで寝てダラダラしていたんだろう。少しは外に出て運動しないと太ってしまうぞ。太った藍なんかお兄ちゃん見たくないよ。
二人で玄関からリビングへ向かうとソファで姉さんがテレビを見ながらタバコを吸っていた。いつもの光景。この姉もダラダラしているくせに太らない。元デブからしたら羨ましさと妬ましさの合わさった感情がこみ上げてくるがそれを姉に向けるとボコられるのがわかっているので何も言わない。
「遼、夕飯は?」
「今帰ってきたばかりだし今日は疲れてるんだ。母さん達は?」
「今日も遊びに行ったぞ」
「なら藍が作る。遼兄ぃはお風呂入ってきていいよ」
藍が作るのなら風呂に入ってくることもないだろう。今日は姉さんもいるし大丈夫とは思うが寝るまで油断はできないな。
ゆっくりとお湯に浸かり今日あったことを考える。ダンスのこと、副部長に任命されたこと、花と桜のこと。
ダンスはみんなが褒めてくれた。間違いなくうまくなってはいるのは自分でもわかるのだが、何か足りない、小骨が喉に引っかかったような感じがする。違和感ではない、物足りなさ。学園祭でフリースタイルをやることになったのだが、そこで何か解決するといいのだが。
副部長の件はこれから石田先輩と頑張ればいいのだが、実務に関しては何もわかっていない。これは説明があると思うから今は考えなくてもいいだろう。
そして花と桜のこと、距離を置くと決めたのだが、やり方が露骨過ぎて花を不安させ、桜に気を遣わせてしまった。やり方を間違えた、せめて一成と平には相談するべきだった。もう少し俺はみんなを頼ってもいいのかもしれない。一人で解決できることなんて限られているのだから。
今日二人と話して、前のドス黒い感情はほとんどなくなった。まだ気がかりなことはあるのだが、ひとまずこの件に関しては解決したと言ってもいいだろう。
距離を置くことはしばらく継続する。以前のように傷つけないためではなく、今は一歩引いて二人を見てみたいと感じている。今まで二人との距離は近すぎた。少し距離を置くことで感じることがあるかもしれない。……あるといいのだが。
「遼兄ぃ、ご飯できたよー」
藍が夕飯を作るまでとはかなり長く風呂に入っていたようだ。風呂から出て体を拭きながらもう一つの事を思い出す。
藍のことだ。二人とは和解したのだから藍には説明しなければならないのだが、それで納得してくれるのだろうか。納得させないといけないのだが、藍はかなり強情だ。一体誰に似たんだか。
納得させることができなかったら毎晩部屋に侵入されてしまう。それだけならいいのだが、藍は変に知識を多く持っている。それを実行したいお年頃なのかやたら積極的だ。兄妹なのだから越えてはいけないラインがある。何度も片足突っ込んでいるんだけどね……
この件に関しては姉さんに対処してもらうのが一番いいかもしれないので後で相談しようと思い、藍が用意してくれた夕飯を食べに行くのだった。
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さて、本作を書き始めて一ヶ月と一週間となりますが、累計PV数が六万、ユニーク数が九千を超える結果となりました。処女作で異世界モノではない割にはいい結果だと個人的に思っています。
これも駆け出しの私の作品を読んでくれる読者の皆様と宣伝に協力してくださる皆様のおかげです!
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