第六十話 任命
大会が終わった。結果はもちろん敗北だ。心が折れかけているメンバーがいるのだ、そこから勝つのは不可能だろう。部長はこれで引退。申し訳ない結果になってしまった。
「部長、すいませんでした」
「篠崎は悪くないさ。あそこは部活というよりガチ勢の集まりみたいなとこだからな。部活でやっている俺達がここまで上がれたのはお前のおかげでもあるんだ。ありがとう」
そう言って部長が頭を下げる。そこまでされるようなことは何もやっていないと部長に頭を上げてもらうように伝える。
「とりあえずそろそろ他のチームも終わっているころだろう。全員が集まったら今後の方針を決定するミーティングを行う」
そう言って朝集合した場所へと向かい歩き出す。花と桜の話を聞くのはその後でもいいだろう。それまで二人には桜のお兄さんのところにいてもらおう。
集合場所に戻るとすでにみんなが集まっていた。ロッキンもポッピンも真ん中ぐらいの成績だったそうだ。結果を話したあとはみんなで円になり座り込む。
「さて、今回の結果はブレイキンが惜しいところまで行ったのだが、やはり常勝のあいつらには勝てなかった。今後の方針だが、三年の俺達は引退となる。新部長は石田にお願いするが異論があるやつはいるか?」
やはり石田先輩が新部長か。先輩なら異論どころか推薦するぐらいだ。他のみんなも同じ意見なのか誰も反論する者はいなかった。
「では石田が新部長だ。副部長は石田に任命を任せる。ここからはお前が仕切るのだ」
「うっす。新副部長なのですが、俺の考えでは一年から選ぼうと思っているのですがいいですか?」
「構わない。俺も次は一年から副部長をお願いしようと思っていたのだ」
「それでしたら、副部長は遼、お前に任命するよ」
「え?えぇぇぇぇぇっ!? 俺ですか!?」
周りを見渡すと何故か誰も反論しない。他の一年のメンバーは自分じゃなくてよかったって顔している。
「うむ、篠崎なら俺も同意だ。新副部長は石田と二人で頼むぞ」
部長まで……。もう断ることができないじゃないか。副部長って何するんだ。部長の補佐?みたいな感じだけどそもそも部長達が何かをしているのをあまり見たこと無いんだよな。とりあえず任命されてしまったから頑張らないとな。
「それで今後の方針なんですが、学園祭は部長達も出てくれるんですよね?」
「受験勉強もあるから学園祭は出れるやつだけ出る。何か考えがあるのか?」
「今回の学園祭はジャンル分けせずにフリースタイルで行こうかと思っています」
それは賛成だ。ちょうどさっきロッキンとポッピンも勉強したいと思っていたんだ。石田先輩は俺の心を読んでいるのかな?
「いいんじゃないか? そのほうが盛り上がりそうだ」
「では学園祭は三チームのフリースタイルで対抗戦で決定します。チーム分けは月曜日にやります」
対抗戦ってどういうことだ? この前みたいな順番にやっていくのではないのか?
あとで聞いたのだが、学園祭には投票システムがあるらしく、自分のスマホから楽しめた出し物を投票するアプリをゲーム研究会が作成するようだ。アプリ作れるってすごいやつが揃っているんだろうな。
「それと後夜祭なんだけどこれは先輩方には出ないでもらいます。これも部内から出たいやつが出るようにするので月曜日に話し合おう」
この学園は後夜祭まであるのか。確か学園祭は誰でも入れるけど後夜祭は学園祭が終わった後に学園生徒だけで行われるものだったはず。学園の生徒でも参加不参加は自由だとか。ちなみに学園祭は土日の二日間行われ、月曜日と火曜日が振り替え休日となる。
「とりあえず今日話せるのはこれくらいかな。先輩方、今までありがとうございました!」
石田先輩が頭を下げるのと同時に俺を含めた他のメンバーもお礼を告げ頭を下げる。先輩方がこちらこそありがとうと言葉をくれた後、みんな顔を上げる。
何だかとても青春している。ダンス部に入ってよかった。先輩達がいなくなるのは寂しいがこれからは俺も副部長として頑張らなければならない。
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その後解散となり、元部長に桜のお兄さんのメンバーが集まる場所に連れて行かれた。近くに花と桜もいてここで待っていたのかと思いもう少し待ってとジェスチャーを送る。
「お、来たか。篠崎君、さっきはすまないことをしたな」
「いえ、勝負事でしたし。チームの皆さんもいろいろと勉強させていただきました」
「君は伸びるよ。一年であそこまでできるやつはなかなかいないからな。これからも頑張ってくれ」
お兄さんが肩を叩く。軽く叩いたつもりだろうがものすごい力が強くて痛い。その後はお兄さんのチームの方々からいろいろと声を掛けられたりアドバイスをもらいお礼を告げた。
バトル中は恐怖を感じたがみんないい人達ばかりだった。ロッキンをやっている一年の子とも話して、今度合同練習をしようと言うお誘いもあったので前向きに検討すると伝えておいた。この子はボーイッシュな感じで桜よりは大きいが小柄な部類の割りにかっこよさを感じる子だった。
「この後桜と話すんだろう?」
メンバーと話した後お兄さんが小声で尋ねてきた。桜はかわいいから学校でも人気らしくダンス部の部員も狙っている人が多からずいるらしい。お兄さん的には部員には絶対渡さないと言うことだ。俺もどうなるかわからないんだけどね。
「俺は話の内容を聞いたからほとんどを把握しているけど、君も少しは彼女達のことを考えてくれ」
脳筋じゃなかったのか?俺が今どんなことを考えているのかがある程度わかるらしい。年の功ってやつなのかな。
お兄さんの忠告を受け取り桜たちの待つ場所へ向かう。俺の闘いはどうやら終わっていないようだ。いや、これがほんとの闘いなのかもしれない。心を決めないとな。




