第五十九話 ストロングスタイル
「私ね、遼を諦めるわ」
桜がなぜこんな事を言っているのかさっぱりわからなかった。二回戦が終わって、次の作戦を練る話し合いを前に桜と花が俺の前に立ちふさがり、少し話がしたいと言った内容がそれだ。
俺を諦めるってことは桜とは会えなくなるのかな? それは嫌だけど今は大会に集中しないと。あと一回勝てば優勝なのだ。
「話はそれだけ?」
「そうよ」
今日は大会に集中するから話したくなかったのでこんなこと言われたらベストコンディションでいられなくと思ったのだが、それに対し案外冷静でいられた。ほんとに桜が好きだったのか?それともただ単にダンスをする為に集中力が高まっているのか?
「それなら俺は行くから。詳しいことは後で聞くよ」
「りょ、遼さん!?」
「すまない。終わったらちゃんと時間を取るから」
「……約束よ」
二人にはかなり冷たい態度になったかもしれないが、今は次の打ち合わせをしなければならない。先に行った部長達を追いかけるように二人の横を走りぬけた。
去り際に俯いた二人の顔を見たのだが、戸惑いを隠せていないのが見て分かるほど動揺していた。引き止めるとでも思ったのだろう。それをやるとしても大会が全て終わってからだ。今は目の前のことに集中しなければならない。
二人との時間を長く取らなかったため部長達にはすぐ追いついた。部長が早く追いついたことに少し驚いていたが、そのまま気を引き締め直しミーティングを始めた。
「次の対戦相手なのだが優勝常連校だ。特にやっかいなのがストロングスタイルの中田だ。あれを見せられたら俺ですらお手上げだ。人間技じゃない。そんなの見て驚かないやつはいないと思う」
そこまで桜のお兄さんはすごいのか。ストロングスタイル、動画では見たがCGやワイヤーを使っているとしか思えなかった。実際にあんな動きをリアルでされたら確かにびっくりするだろう。
「対策はあるんですか?」
「ない。強いて言うならばあれを見せられても驚かないことだ」
対策のしようがないなんてやっかいにもほどがある。ほんとに勝てるのか不安になってきた。
「次は篠崎がメインでアピールしていけ。俺達は基本的にサポートに回る。ポイントで勝つにはそれしかない」
「部長はそれでいいんですか?」
「……勝つためだ」
部長の最後の大会だから個人的には部長に楽しんでほしいと思っていたのだが、部長という肩書きのせいかチームのために動いてくれる。会社だとすごい上司なのだろうが、まだ高校生がそこまで考えなくてもいいのでは?と思ったのだが考え方は人それぞれだ。それに意見する立場でもない。
「では行こう。勝つぞ!」
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ステージに上がるとチームで分かれる前に桜のお兄さんに呼ばれた。改めて近くで見てもこの人の筋肉はすごい。ボディービルダーのような見せる筋肉ではなく、しっかりと引き締められ使われるところがしっかり鍛えられた無駄の無い体だ。
「さっき桜に呼ばれたか?」
「はい、少し話をしましたが……」
「はぁ、すまないなこんな時に。せめて終わってからにしてほしいよな」
「大丈夫ですよ。俺はちゃんと集中できているみたいなので支障はでないですよ」
どうやらお兄さんは話の内容を聞かされていたみたいだ。さっき三人で話していたのはその内容だったのかもしれない。
「それなら楽しもう。今日はこの前説明できなかったストロングを見せてあげよう。今日はまだ封印していたがこの前のお詫びも兼ねて全力でさせてもらおう」
「……お手柔らかにお願いします」
そんな宣言されたら苦笑いしかできない。お兄さんと握手を交わしチームの元へ戻ると部長が笑って代表挨拶か? と茶化してきたのでストロングを解放するそうだと伝えるとものすごい嫌な顔をされた。
「あいつ、ここまでは余裕とか言っていたからな。ここでは出し惜しみしないってことか」
部長がそこまで言うと曲が流れ出した。先制攻撃と言わんばかり走り出し先ほどと同じように相手チームギリギリの位置でバッファローで威嚇をする。相手チームの表情は驚いているどころか感心したかのような余裕の表情だ。さすがは強豪校、この程度朝飯前ってとこか。
そのままステップ技と繋げていくが相手はそれに対して挑発の言葉を投げてくる。なんだかむかつく。冷静にならないといけないと一度下がることにする。
そして相手チームが出てくる。桜のお兄さんはまだ出ない。ステップ、フットワークをこなしてパワーに入る。エアートラックスからウィンドミル、トーマスフレア、2000(トゥーサウザンド)。そしてご指名を受ける。
今の人がやってたのは俺が一回戦のソロを再現していた。完全なる俺に対しての挑発だ。それに俺よりも完成度が高い。馬鹿にされている感じがするぞ。なるほど、これがダンスバトルか。熱くなりすぎたらだめだ。表面だけでも冷静さを保っていないと相手に飲まれる。
指名を受けたので前に出て得意なアクロバットで攻める。バク転の連続からバク宙、バッファローを成功させた。体操選手さながらの動きに対しても関した様子で余裕の相手チーム。結構頑張ったので心が折れそうになるがそれでも続ける。ひたすら技を続けているので顔に余裕がなくなっているはずだ。一度下がると今度は桜のお兄さんが出て来た。
「篠崎、心を強く持てよ。あいつはお前の心を折りに来るぞ」
余裕を失っていたので部長が声を掛けてくれる。いよいよストロングスタイルを目にできる。楽しみの気持ちもあるが今は恐怖のほうが大きい。部長の顔にも余裕がなくなっている。
桜のお兄さんが行ったのはただの倒立、かと思ったらどんどん脚を下ろしていき地面と体が平行になる。そのまま腕立て伏せをしたあとトーマスフレアのように開脚をして脚を回したと思ったら急に動きが止まり今度は片手で体を支え始めた。
CGやワイヤーを使っていると思っていた。だがそれは間違いだった。ワイヤーを使えるような施設ではないし実際に目の前でありえない動きをしている人がいるのだ。人間技ではないと聞いていたがここまでとは思っていなかった。
筋肉が全てのストロングスタイル、確かにこんなのは普通のダンサーではやろうとは思わないし参考にならない。部長が忘れていいと言うのも納得だ。
そこにいるのは人間の形をした人間ではありえない動きをする何かだと思うことにするのだが、何度見てもそこにいるのは桜のお兄さんだ。人間なのだ。物理法則を無視したような動きをしている。まるで超能力を使って体を浮かせているようだと思ってしまうほどだ。
驚き、なんて簡単な言葉で済まされるものではない。これは恐怖に近い感情だ。今やっているのはバトル、そう、ストリートチルドレンの喧嘩なのだ。
こんな人達の集団に喧嘩を売っていたのか? レベルが違いすぎる。俺では対応できない。いや、先輩達でもどうにかできるのか?
「篠崎、ここから先は俺達が出る。よく見ておけ」
心を折れかかっていたところで部長が声を掛けてくる。桜のお兄さんはいつの間にか下がっていて先輩がステージで踊っている。相手は先輩のダンスにも余裕の表情で挑発を投げかける。
「心が折れたか?」
「……すいません」
「いや、今回は相手が悪かった。場数慣れしている相手が一年に対する洗礼みたいなものをやってるつもりだろう。お前はまだ伸びるから大丈夫だ」
そう言って部長もステージへ向かい踊りだす。ただ立っていることしかできず曲が止まり終わりが来るまでステージを眺めているだけになってしまった。
ストロングスタイルをうまく表現できているといいです
気になる方は動画を見てください




