第五十五話 席替え
始業式が終わり今回もチャイムギリギリで教室に戻るとすでに担任がいて……姉さんもいた。一番恐れていたことが現実に起こってしまったようだ。おそらく姉さんが学年主任あたりを脅したに違いない。姉さんを見ないようにして席に戻ろうとすると姉さんに肩を掴まれた。
「ギリギリで入ってくるとはずいぶんといい度胸じゃねーか?」
そう思うなら早く座らせろ、とは言えない。言ったらクラスメイトの前で公開処刑にされる。肉体的にも精神的にもだ。そして肩を掴む手に力を入れすぎだ。痛いよ。
「すみませんでした」
素直に謝ると姉さんが舌打ちをして早く座れと手を離した。頼むから学校ではおとなしくしててほしいと思いながら席に着く。
担任が軽く姉さんを紹介した後姉さんが自己紹介をすることになった。俺と花、平には不要だが姉さんを知らない他のクラスメイトは姉さんのこと知ってもらわないといけない。悪逆暴君な人であることを。
「さっきも舞台で話したが篠崎初だ。そこの遼の姉だ。このクラスと隣のクラスを見ることになって担当は英語だ。確か花が英語の教員になりたいから話を聞きたいとか言ってたから他にも興味あるやつは一緒に聞きに来い」
姉さんの挨拶が終えた後、クラスの目線が俺と花に集まる。まあ個人の名前が出したからこうなるとは思っていたがあまりじろじろ見ないでほしい。
そして姉さん、そんな口調だと話を誰も話を聞きに行かないと思うよ。花は知ってるから行くかもしれないけど他の生徒にはとっつきにくいとしか思われないはずだぞ。
今日はこれから始まるHRで終了となるのだが、おそらく学園祭の出し物の打ち合わせになるだろう。クラス委員長が前に出て司会を執り行うようだ。
「それでは学園祭の出し物を決めたいと思いまーす。何かやりたいものがある人は挙手をお願いしまー……」
委員長の言葉を聞いて話の途中にも関わらず男共が一斉に手を上げた。何この統一感。委員長もドン引きしている。よく見ると平も手を上げている。あいつも何か案があるようだ。
「じゃあ、前から順番に」
「メイド喫茶を希望します!」
「次ー」
「同じくメイド喫茶を希望します!」
「次ー」
「コスプレ喫茶を希望します!」
こいつら何か前もって打ち合わせでもしていたのか。女子のみんながドン引きしているぞ。
委員長が五人目まで聞いた後めんどくさくなったのかメイド喫茶希望の人は挙手するように指示をするとクラスのほとんどの男子が手を上げた。委員長が呆れてため息をついた。
「他に何か希望はありますかー?」
俺自身別にやりたいものはないしメイド喫茶で構わないと思う。このクラスは女の子は花を筆頭にレベルが高めだ。もちろんそうでない子もいるのだが、中の上以上の女の子が集まっているのだ。ちなみに委員長も割とかわいい。メガネ美人ってやつだ。赤渕メガネなのが男の心をくすぶる。
他の意見が無さそうなので再び委員長がため息をついて俺達のクラスの出し物がメイド喫茶になったことを告げると、男共が大いに騒ぎ出した。
確かにかわいい子のメイド姿は見てみたいな。そう言えば花もメイド服持っていると言ってたし気にはなる。でも当日の俺は裏方で料理だろうな。接客よりは料理を作ったほうがいい。
委員長が担任に何か話しているのが見えた。やはり男共の勢いがひどいのでセクハラ問題で訴えているのだろうか。何やら了承を得たようで委員長が再びしゃべりだす。
「えー、早く決まってしまったので残った時間で席替えをしたいと思いまーす」
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席替えの結果俺はド真ん中の席から一番端で後ろの席への移動が決まった。窓がすぐ横でグラウンドが見えるし空も見える。いい場所を引けたな。そこからなら体育着を着た女子生徒を眺めることができそうだ。
花の席は俺とは離れた前側の席になった。距離を置くと決めたので席が離れたことはいい結果になったと思う。クラス全員の席が決まったので机を持ち上げ新しい場所まで移動させようと席を立つ。
「遼さん、離れてしまいますね」
「……そうだね」
「少し寂しいです」
俺はそれ以上は何も言わずに机を移動させ、席に着く。花がまだ何か言いたそうであったが聞いてあげる理由がない。いや、ほんとは聞いてあげたいのだがそれでは俺が決めたことに意味がなくなる。
隣の席は委員長で前の席は平だった。平が近くにいてくれるので二学期も楽しくなりそうだ。委員長がなぜか俺の隣が不満そうな顔をしているのでとりあえず挨拶をしておこう。
「委員長、これからよろしくね。ついでに平も」
「俺はついでかよ。まあ二学期はこの席だからよろしく頼むわ」
「よろしく」
委員長とはあまり話したことはないのだがこんなに愛想が悪い子ではないはず。むしろいつもクラスの中心になってくれ笑顔でいることが多い。俺のことが嫌いなのかな?
「あの、委員長って俺のこと嫌いなの?」
「そんなんじゃないわよ。ただ、ちょっとね」
「篠崎、お前委員長にも手を出す気か?瀬戸内さんと中田さんがいるにも関わらずまだ物足りないのか!?」
そんなわけないだろ。折角隣の席になったんだし、仲良くなりたいとは思うだろ。平は元々仲良くしているから別にいいのだ。
全員の机の移動が終わったらしく騒がしかった教室が静かになる。全員が席に着いたのを確認した担任が今日はこれで終わりだから帰っていいぞとHRが終了することになった。みんなが帰っていく中、委員長はまだ座ったままだった。
「委員長、俺部活に行くからまた明日ね」
「あ、あぁ、うん。また明日」
教室に花がいないことを確認して体育館に向かおうと扉に手をかけた。
「あの! 篠崎君!」
教室を出ようとした矢先に委員長から声がかかった。何か忘れ物でもしたかなと思い振りかえり委員長と向き合う。
こっちに来いと手を招いているので委員長の近くまで戻るのだが、一体どうしたのだ。近くまで行くと委員長は小声で囁いた。
「篠崎君は、瀬戸内さんと付き合っているんでしょ? それなら私が瀬戸内さんと席を交換したほうがよかったのではない?」
勘違いをしているようだが、俺と花は付き合っていない。クラスでも俺達がお似合いと言う話を耳にするがそんなことはないと思う。確かに花は俺が好きで俺も花が好きなのだが、今は距離を置くと決めたんだ。一学期なら嬉しい申し出だったが、今となっては余計なお世話だ。
委員長の質問に答えなければいけないが、本音を言ったらだめだ。ここはうまい言い回しを考えなければならない。
「勘違いしないでくれ。俺と花は付き合っていないよ。それに花とばかり仲良くしていると俺達が他の人と仲良くなれないからね。席は交換しないでくれないか?」
「そう、か」
なんか威圧するような感じになってしまったけど納得してくれたかな? 俺が怖い人だと思われても嫌だし次は柔らい口調にしないと。
「うん、明日からよろしくね。じゃあね」
そう言って俺は教室から出て体育館へと向かう。少し遅くなってしまったので駆け足でだ。
委員長は花と仲がいいのかな? そうだとしたら少し面倒になりそうだな。あまりあからさまに避けるのはやはりよろしくないな。明日からはもう少しナチュラルに避けよう。
桜がこの学園の生徒でなくてよかったと思う。あの子は花よりも積極的なので、距離を置くとか関係無しにくっついてきそうだからだ。学園の中で何をしでかすかわからないのが桜だ。桜の対応は他校だし連絡を控えるぐらいでいいので今回は楽にできる。
そんなことを考えていると体育館に到着したので、舞台裏の部室へ向かうとすでに部員が集まっていて柔軟を行っていた。俺はすぐに着替えてみんなに合流し、大会に向けた練習を始めるのであった。
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