第五十三話 最悪な展開
目が覚めるともう昼前になっていた。重い体を起こしベッドの上で壁にもたれかかりながら座る。昨日のことが夢ならいいと思っていたが、姉さんに殴られた顔がまだ少し痛むことから現実に起こったことだと諦める。
部屋の外が騒がしくないからおそらくみんなはすでに帰ったのだろう。スマホを見るとみんなからのメッセージが届いているが目を通すのも面倒だ。
今日は夏休み最終日、明日からは二学期が始まる。今日は何もせずに部屋で過ごそうと思っていると部屋の扉がノックされる。
「遼兄ぃ、起きてる?」
扉の前にいるのは藍のようだ。起きてるよと声を掛けると扉が開き藍が部屋に入ってきた。今日は薄着ではなくちゃんと服を着てくれている。扉を閉めた後、そのまま進みベッドに座る俺の前に立つ。
「初姉ぇがみんな帰ったからもう部屋から出ていいよって」
「今日は部屋で過ごすよ」
何も考えたくないし動きたくない。藍には悪いが正直、藍と話すのも億劫なのだ。今は一人にさせてほしい。
「すまないが一人にさせてくれないか」
「いや」
「今は一人になりたいんだ。出て行ってくれ」
「いや」
「頼むから出て行けよ!」
俺が怒鳴っても藍は動こうとしない。頑固な子なのは知っててそれでもかわいがっていたが、今はそんな藍に対してイライラし始めていた。かわいい妹に対してこんな感情を向けるのはよくない。
ここで八つ当たりをしても何も変わらない、むしろ藍にも嫌な思いをさせてしまう。そう思いながらも出て行こうとしない藍が目障りでたまらなかった。
これでは妹に嫌われてしまう。好きな女の子を傷つけ、さらに妹に嫌われてしまえば俺は立ち直れなくなるだろう。それでも俺は藍が邪魔で仕方なく感じていた。
「遼兄ぃ、苦しい?」
「うるさい、うるさい、うるさい! 早く出て行けよ!」
「藍は遼兄ぃといると決めたの」
「俺は一人になりたいんだ!」
落ち着け俺。藍は何も悪くないし優しさでここにいたいのだろう。それでも今の俺と藍では水と油の関係と同じだ。一緒にいてはいけない。
そんなこと関係ないと言いたげな様子で藍がベッドに上がり俺に近づいてくる。俺は近づく藍を拒むように手を前に出すが、藍はそのまま俺に優しく抱きついてきた。まるで泣き止まない子供をあやす母親のような優しさだ。
やめてくれ。そんなことされると俺の選択が正しかったと思ってしまうじゃないか。俺は二人に悲しい思いをさせたんだ。そんな俺の選択が正しいわけがないじゃないか。
「遼兄ぃ、少し悩むのをやめてもいいんだよ?」
俺が悩んでいたから二人を傷つけたのはわかっている。だが悩むのをやめたら俺は我慢できなくなり間違いなく二人を襲う。悩むことで理性を繋ぎとめていたのだ。
「遼兄ぃはもっと欲張ってもいいんだよ?」
二人とも選ぶってことか?それは花が許さないから選択肢が無いんだ。ハーレムは男の夢だがゲームやアニメの中だけだ。現実ではありえない。
「藍、離れてくれ」
「いや」
そう言って抱きつく力を強くする。女の子特有のいい匂いが鼻をくすぐるのだが今はそんなことどうでもいい。
「藍は遼兄ぃが好き。遼兄ぃのこんな姿見たくないよ」
藍は二人が傷つくのを見たくない俺と同じなのだ。好きな人にこんな気持ちになってほしくないと思うのは誰しもが思うことなのか。俺は藍の頭を優しく撫でてあげる。
「ごめんな。でも俺は一人になりたいんだ」
「…………」
藍が少し体から離れたので顔を合わせると、少し泣きそうな顔で目が潤んでいる。妹にまで心配させてしまうなんてだめな兄だ。
しばらく見つめあっていると何かを決心したかのような顔をし藍が口を開く。
「やっぱり遼兄ぃは藍が見ていないとだめ。桜さんと花さんならいいと思ったけど、二人よりも藍のほうが遼兄ぃのこと好きだもん」
そう言って藍は俺の頭に手を回し引き寄せてくる。そして顔が近づき、二人の唇が触れ合う。
「んっ!?!?」
突然の出来事に頭が真っ白になる。どうして妹にキスされているのかわからない。
藍は俺の唇をむさぼり、舌を入れてきた。俺の口の中で藍の舌が動き回る。桜が藍のテクはすごいと言っていたが確かに桜と花よりも繊細かつ大胆な舌遣いにそれだけで気を失いそうなほどの快感だ。それでも相手は妹だ。超えてはいけないラインを超えている。
「んっ、藍!」
藍の顔を掴み唇を無理矢理離すと、接触していた部分から涎が糸を引きながら二人を繋いで、そして切れた。藍は舌を出しながらとろけた顔で息を切らせて熱い吐息を漏らしながら肩を上下させている。
「やっちゃった。遼兄ぃ、藍のキス気持ちよかったでしょ?」
確かに気持ちよかったが兄妹がやっていいものではない。俺が叱ろうと思っていると、藍が抱きついて耳元で囁いた。その声と言葉は藍とは思えない、いや、昔の藍に戻ったのかとても冷たいものだった。
「あいつらは藍の遼兄ぃを苦しめ。絶対に遼兄ぃを渡してやらない。藍が遼兄ぃの女になって遼兄ぃを男にするの。藍が遼兄ぃを管理するの。他の女は近づけない。藍だけが遼兄ぃを愛してあげる。だから遼兄ぃも藍をたくさん愛してね?」
そう言うと触れるだけのキスをして俺と向かい合った。藍の表情は冷たく、そして艶やかで、それは花がヤンデレ化した時と桜が淫魔化した時の表情を掛け合わせたようだった。
満足したのか俺から離れ夕飯はちゃんと食べてねと言い残し部屋から出て行った。俺は壁に背を預けたまま先ほどよりも強い脱力感を感じていた。
先ほどの藍は花と桜の悪い部分だけを引き抜いたかのようだった。最悪な展開だ。藍をあんな風にしたのは俺の責任である。好いてくれているのはわかっていたが、妹が兄を男として見ているだなんて知られたら、世間の藍に対する風当たりが強くなってしまう。
俺は自分自身に苛立ち、壁を殴りつけた。これでは妹までも傷つけてしまう。好きな子達どころか妹さえも守れないなんて最低な男だ。
花と桜と距離を置くことを決めた。だが、藍は同じ家に住んでいるので逃げ場が無い。部屋の鍵を閉めても入ってくるに違いない。藍がああなってしまっては何をやっても無駄に終わるだろう。
相談しようにも姉さんには見限られてしまったし、一成達に話せる内容でもない。両親は?いや、あの親は藍が俺を男として見ていると知ったら喜ぶに違いない。自由を愛する故のそういう親なのだ。
相談する相手もいない、一人で考えても解決しない。何もできない。時間が解決してくれる問題でもない。手詰まりだ。
貝になるかのように毛布に潜り込み考えるをやめようとするが、いろんな思いが頭から離れずに叫びだしてしまう。それほど追い詰められているのだ。俺は一人だ。味方は誰もいない。
夕飯の時間に藍が呼びに来たのだが、それでも動かずにいた。藍がごめんねと言った気がした。そう聞こえた気がしただけだ。ほんとに言ってたのかもしれないが気のせいにすることにした。
明日から二学期。だが学校に行きたくない。花が後ろの席にいるのだ。明日は休もうか。でも大会も近いから部活には行かなければならない。今日も休んでしまったから明日は絶対に行かなければ。
何時間こうしているか分からない。今が何時かもわからない。それでも欲求には勝てないのか睡魔が襲ってくる。どれだけ頭を抱えて悩んで、考えても、三大欲求には勝てないみたいだ。これが夢であってほしい。寝ている時の夢が現実だったならどれほどうれしいか。
しかし、悲しいことに藍とキスした感触がまだ残っている。これは現実。これから眠り夢を見る。きっといい夢なんて見れないだろう。それでも睡魔は容赦なく襲って眠りへと誘われるのであった。
よろしければ評価をください!
お気に召しましたら感想・レビューもお待ちしております!




