第三十話 宣戦布告
花火大会の翌日、俺は一度家に戻り部活の準備をして学園に向かうことにした。花から朝食のお誘いがあったが姉さん達の分を作らないといけないからという理由で断った。外はすっかり晴れていて太陽が眩しい。花の部屋を出て家への道を歩く。
昨夜、花が落ち着いた後は何事もなかった。キスされたということぐらいだ。寝ている間に拘束されてもおかしくないと思ったが、起きるといつもの花だったので安心した。
夏休みが始まって二度もキスをされた。それぞれ違う女の子にだ。二人とも俺に好意を向けている。鈍感な俺でもわかるぐらいに。花には俺の気持ちを全て話した。次の土曜日は桜と神社のお祭りに行くことになっている。その時に桜にも話さなければならない。少し一成達にも協力してもらおう。
もうすぐ家に着く。もしかしたら藍怒ってるかもしれない。この時間なら姉さんはまだ起きていない。朝食を作ったらすぐ部活に行こう。玄関の扉に手をかけ開けると、そこには仁王立ちで鬼の形相の姉さんがいた。
「遼帰ったか。」
「ね、姉さん、今日は早いね。これからどこか行くの?」
「お前昨日花のところに泊まったんだってな。」
顔がやばい、声がやばい、圧迫感を感じさせるほど怒気を放っている。これ俺の説明きいてくれるのかな?とりあえず昨日の経緯を姉さんに伝える。
「ほう。それでお前、あの子の部屋で何をやった?」
「だから寝てたんだって。」
何もなかったことにしておく。花のヤンデレ化も、抱きしめたことも、キスも。これは俺の中に留めておかなければならない。
「ベッドで二人仲良く横になってよろしくしたんだろ?」
「いや、花はベッドで寝てもらって俺は床で寝てたよ。朝までずっと。」
「……………ならいい。朝食を作れ。」
よかった。図星を突かれるようなことを聞かれたらとんでもない目にあっていたかもしれない。姉さんもおそらく俺を試していたのだろう。そもそも何で姉さんが怒っていたんだ?
リビングに行くと藍がテレビを見ていた。今度はこっちの相手か。朝からハードだな。
「あ、遼兄ぃ。おかえり。お腹すいた。」
「お、おう。ただいま。すぐ朝食作るから少し待っててくれ。」
こくりと頷く藍。そうしてまたテレビに目を戻す。俺の予想に反して藍が何も言ってこないだと。体調でも悪いのかホントに兄離れしてくれたのか……。
「藍、体調でも悪いのか?」
ちょっと心配なので聞いてみる。体調が悪いのならそれに適した料理を作らなければならない。
「んぅ? そんなことないよ。」
「昨日の花火大会終わった後の雨は大丈夫だったのか?」
「ギリギリのところで帰ってこれたから大丈夫。」
そうだったのか。普通にバスやタクシーで帰れれたら問題なかったのだな。体調も悪くないということは兄離れしてくれたんだな。お兄ちゃん嬉しいよ。とりあえず朝食だ。部活に行かないといけないので軽めのを作ってあげよう。
俺は台所に向かい食材を確認する。なにもない。シリアルフレークしかないだと。あとで藍に買い物に行ってもらおう。とりあえずこれしかないし準備して出すか。
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朝食後、姉さんはすぐに出て行った。ホントに最近朝から早いな。どこに行ってるんだろう?
「ねえ藍、最近姉さん朝からどこに行っているか聞いてる?」
「藍も聞いてない。彼氏のところと思ったけど違うみたい。」
「ん? 彼氏? 藍、姉さんに彼氏がいるわけないだろ。あんな暴力的な人についてこれる人なんてこの世にいないよ。」
藍がなんだか慌てて目をそらした。なんかあったのか?
「ソ、ソウダネー。ウイネエェニカレシガイルワケナイヨネー。」
なんか怪しいぞ。藍と姉さんで何か隠しているのか?別にいいか。そろそろ部活に行かないと。
「藍、今日何か用事はある?」
首を横に振る藍。それを思いっきり振ったらツインテールで攻撃できそうだ。
「あとででいいから買い物を頼まれてくれないか?このままだと今日の夕飯はないぞ。」
夕飯がないと聞いて顔を青ざめる藍。全力で首を縦に細かく振る。なんだか啄木鳥みたいな動きだ。
「そうだ、遼兄ぃ。」
ハーゲンダッツのおねだりかな。買い物行ってくれるしそれぐらいなら問題ないぞ。
「花さんのすごい柔らかくて感度良かったよ。」
「いらない情報だな! てか触ったのか!?」
「ばっちり揉んだ。昨日はよろしくやってきたんでしょ?」
「なにもやってないからね! 急な大雨だったから泊まらせてもらっただけだからね!」
妹よ、そんな手をワナワナさせないでくれ。兄離れするのはうれしいが方向性がおっさんに向かっているぞ。そんな藍はいやだよ。お兄ちゃんはかわいい藍のままでいてほしいんだよ。
「遼兄ぃ、女の子は意外とエッチなんだよ。」
説得力があります。藍はそんなことないと思っていたが、最近はそういう部分も出てきている。
「覚えておくよ。ありがとう藍。」
そう言って俺は藍の頭を撫でる。うん、今日もうれしそうだ。かわいい妹だ。
「じゃあ部活行ってくる。終わったら教習所だから。」
藍の頭から手を離し家を出る。今日も頑張りますか!
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その日の夜、転入のため勉強に励んでいる桜は初にしごかれていた。
「おい、こんなのもできないんじゃ転入なんてできないぞ。やる気あんのか?」
「ありますよ! こんなのすぐ解いてみせます!」
数学の問題が解けずに頭を悩ませる桜にはきつい言葉だ。だが桜は考えるのをやめない。実際桜が解いているものはかなり高レベルの問題だ。遼の学園の生徒が解けるかと言われるとおそらく解けるのは一成や花、遼ぐらいの成績優秀者だけであろう。そんな問題ばかり出題してくる初は鬼だ。
「基本はできてんだ。だいたいの問題は基本ができりゃあとは発想だ。発想力は才能か練習でしか身につかん。お前は才能がないから練習を死ぬほどやるんだよ。」
そんな時桜のスマホが震えた。花からの着信だ。桜は集中力を切らせてしまう。
「花? なにかあったのかしら?」
「今は問題に集中しろ。これが解けたら掛け直せ。」
「初さんが帰ってからにします。今はまだ勉強中です。」
再び問題に集中する桜。海に遊びに行った翌日から毎日勉強漬けでストレスも溜まってくる。でもこの夏休みでやらなければ時間は他にない。ここで学力を上げなければ転入試験に失敗する。気合を入れなければならないのだ。
頭と手を動かす。計算する。問題にわかった部分をどんどん書き込んでいきようやく答えが見えてくる。
「やっと解けたか。何分かけてるんだ。こんなの見ただけでできるだろ。」
「いやそれ初さんだけですから。」
この人の頭はぶっ飛んでいる。天は人に二物を与えずとは絶対嘘だ。容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の初、考えてみると二物を与えずは嘘ではない。三物を与えてしまっていると桜は思ってしまう。
「じゃあ今日はここまで。明日はもう少し難しいやつを用意しておく。それと今で言っておくが来週から私は英語しか使わない。英語のリスニング問題の対策だ。お前が英語で答える必要はないからな。」
そう言って帰る初。桜は自分の時間を割いてまで勉強を見てくれている初にお礼を告げ、スマホを操作する。先ほどの花からの電話を折り返すのだ。三コール目で電話が繋がる。
「もしもし花? ごめんね、すぐ電話に出れなくて。」
『いえ、私のこそ忙しい時に電話をしてすいません。』
「それで、何かあったの?」
いきなり本題を聞き出す桜。明日も朝から勉強をしないといけないので早く寝たいのだ。
『言っておきたいことがありまして……。私、遼さんが好きです。』
何を今さらと思った桜。そんなこと見ていれば誰だってわかる。でも本題はそこではないはず。電話をするぐらいなのだ。桜は続く言葉を待った。
『昨日遼さんにキスをしました。』
「えっ……?」
『桜も海でキス、していましたね。これでおあいこです。』
海でのキスを見られていたのか。だがおあいこではない。まだリードしているとは言わない。
「花、私も遼が好き。」
『はい。』
「こういうのはあまり言いたくないけど、二人で遼を共有することはだめなの?」
それだとまるで遼を物のように扱う、だから言いたくなかったのだ。
『私は、遼さんに私だけを見てほしいのです。』
普通の女の子ならそうだ。好きな相手には自分だけを見てほしい。でもこのままじゃ姉妹のように育ったいとこ同士で争うことになる。
『桜、だからこれは宣戦布告です。私は桜には負けません。』
「私だって……私を見ててほしい。でも花と……」
『桜、お願いです。私とは恨みっこなしで闘ってほしいのです。』
「私にはそれが……できないよ。花が折角こっちに戻ってきたのに、花と争うなんて……。やっぱり二人で」
『それはだめです。遼さんは悩んでいるそうよ。私達のどちらかを決めないといけない、もしくはどちらも選ばないと。』
それを聞いた桜は焦った。どちらも選ばないはともかく、どちらかを決めるのであれば花のアドバンテージが大きすぎる。遼と学園が同じ花は一緒に過ごす時間が桜より遥かに多いのだ。遼が花を選んでしまったらもう私を見てくれないと思った桜は決心する。
「わかった。私も闘う。花には負けない。」
『はい。私も負けません。』
「でもギスギスした関係は嫌だから普通にしてね。」
『それはもちろんです。私達の関係が悪くなると遼さんは私達のどちらも選ばなくなるでしょうし。』
その通りだ。遼は優しいから二人の関係が悪くなれば自分が引くだろうと桜も思った。
『話は以上です。ではおやすみなさい。』
そう告げて電話を切った。桜はベッドに入り考える。花にアドバンテージがある以上勝負はお祭りの日だ。今週末、海以来に遼と会えるのだ。約二週間だがもっと長く感じていた。
もっと会いたい、話したい、触れたい、抱きしめたい、キスしたい、それ以上も……。少し恥ずかしくなったので考えるのをやめ、眠りにつく桜であった。
女の闘いはガチで怖いです。
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