第二十一話 今度は我が家に泊めてみる
一成の家からうちに戻り、姉さんはそのまま藍を連れて自分の部屋に入った。
「桜は明日の朝送る。ご両親には連絡しておく。それと今日の藍の部屋は訳ありだから絶対に入るな」
部屋に入る前にそれだけを言い残した姉さん。訳ありってどういうことだよ。背中の桜はかわいい寝息をたてている。仕方ない、とりあえず俺の部屋に寝かしておこう。
部屋に入り、桜が起きないようゆっくりとベッドに降ろす。冷えると風邪を引くので毛布をかけてあげる。
少し身じろいだが起きた様子はない。どうしたもんか。とりあえず小腹が空いてきたので台所に行くか。
台所に来たものはいいが、疲れてて料理する気が起こらない。今日はカップ麺を食べよう。ケトルに水を入れて沸騰したらカップ麺の容器にお湯を入れる。待っている間にスマホを確認すると花からグループメッセージが届いていた。
『今日はありがとうございます。とっても楽しかったです。
夏休みはまだ始まったばかりなのでまたみんなで遊びましょう。』
花らしいなと俺は微笑む。すると今度は俺個人に花からのメッセージが届いた。
『お姉さんのお話とても参考になりました。
教育実習の際またいろいろお話させていただく予定です。』
ためになってよかったよと俺は返信する。カップ麺が時間になったのでいただく。最近のカップ麺はチェーン店と共同開発しているものも多いので結構うまい。ん?また花からメッセージだ。
『遼さんがよろしければ月末の花火大会ご一緒に行きませんか?』
花火大会か。この街で毎年行われていて結構規模が大きい。多くの芸能人やアーティストがゲストで来てくれる。一成達も誘ってみんなで行こうかと返信。カップ麺のスープを飲み干し、容器をゴミ箱に捨てる。風呂に入って俺も寝よう。脱衣所で服を脱いでいると花からの返信が来た。
『その日詩織さん達は二人で行きたいそうなのです。
あまり邪魔するのもいけないですし私達も二人で行きませんか?』
その返信には少し戸惑った。風呂に入りながら考えよう。俺はスマホを置き風呂場に入った。
シャワーで体に残った潮を洗い流しながら先ほどのメッセージのことを考える。
花はずっと俺が忘れていた植物公園のあの子だ。何か約束をしたみたいだが覚えていない。花といると思い出せるかな?思い出したとき俺が花に対する気持ちはどうなるんだ?今まで通り、それもと何か変わる?どちらにせよ今のままではいけない気がする。
今日の桜の件もあるの。桜は昔のことを覚えていた。そしておそらく俺に好意を寄せている。俺の気持ちはどうだ? 花と桜の二人の少女。誰かを幸せにすると誰かが不幸になる。みんなを幸せにすることはできない。ホントにそうなのか?でも俺が前に踏み出さなければ。動き出さなければ何も変えることはできない。誰も幸せになれないバッドエンドはごめんだ。
覚悟を決めた俺は風呂を出て花に返信した。
『わかった。二人で行こう。』
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風呂から出た後は今日使ったものを洗濯することにした。桜のものはどうするか迷ったが下着とか俺に見られたくないものが入っていると思ったので触れていない。ホントは見たいよ。でも桜の信用を失いたくないからね。見るときは堂々と見る。コソコソするなんて男らしくない。
洗濯物が乾燥まで終わったのでリビングに運びテレビを見ながらたたむ。最近のバラエティはおもしろくない。毎日ニュースは見るようにいているがあまりテレビ番組は見ない。アニメを見たりやラノベを読むほうが有意義だ。洗濯物をたたみ終わったタイミングであくびが出る。そろそろ寝るか。
部屋に戻ると桜の寝息が聞こえた。まだ眠っているみたいだ。毛布が落ちていたので掛け直してあげる。今日はリビングのソファで寝るか。そう思い部屋から出ようと振り返ると抵抗を感じた。桜の小さな手が俺の服を掴んだのだ。
「初さん……」
こいつ起きているのか? しばらく様子を窺うがそんな様子はない。ただの寝言か。身じろぎをすると手が離れた。俺は目を覚まさないよう優しく頭を撫で扉へ向かった。
「ん~遼……」
扉を開けようとしたところでまた桜の寝言が聞こえた。仕方ない。布団をベッドの横に敷いて俺もここで寝ることにした。この前も何もなかったし大丈夫だ。そのまま横になり目を閉じる。
「おやすみ」
独り言のように呟く。返事はない。そのまま眠りへと誘われた。
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目が覚めた。外はまだ暗い。なんだか体が重い。何かに縛られているみたいだ。背中には柔らかい感触。そして耳元から聞こえる甘い吐息。
桜が抱きついている!? なんで!? ベッドで寝ていたはず!
桜が俺に抱きついている手は背中から俺の前へまわされ脚を絡めてきている。体をしっかり固定されている。完全ホールド状態。
「おい、桜!」
声を掛け顔を覗いてみるが寝ているのか目を閉じスゥースゥーとかわいい寝息を感じる。
寝ぼけてこっちにきたのか?でもこの前はそんなことなかった。いったいどうしたんだ?
桜を近くで感じる。寝息がかわいい。まだほんのりと潮の香りが残っている。そして背中の感触。
まずい! このままでは元気になってしまう! 桜が起きたとき何言われるかわからんぞ!? またお経か!? それしかないのか!?
「ん~遼?」
モゾモゾと体を動かしていると桜の声が聞こえた。桜起きてくれたか!?
「桜? 起きたか? すまないがベッドで寝てくれないか? これでは暑くて寝れないよ」
エアコンが効いているので暑くはない。ただそうでも言わないと離れてくれない。
「ん~? 遼?」
まだ寝ぼけているのか? 早くしてくれ! もうすぐ完全体だ!
「えへへ~、遼ー♪おやすみー」
「おい、桜!」
俺の言葉に耳を傾けずまたスゥースゥーと寝息をたてる。寝ぼけてただけみたいだ。
諦めた俺は心の中でお経を唱えることにした。唱えているうちにこの状況に慣れてきたのかまぶたが重くなってくる。眠ってしまえば何も感じないはず。そう思い再び眠りにつくのだった。
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部屋が明るい。朝になったのか?
窓を見ると外が明るい。部屋に朝日が差し込む。背中の感触は今はない。体を起こしベッドを確認するが桜はいない。先に起きたみたいだ。
リビングに行くと桜が台所にいるのが見えた。朝食を作ってくれているみたいだ。
「あ、遼。おはよう。昨日は寝てしまってゴメンね」
「別に構わないよ。疲れてたみたいだしね。朝食作ってくれているの?」
「うん、そろそろできるから初さん達起こしてきてくれるかな?」
わかったと俺はリビングから出る。いつも通りの桜だ。でも少し顔が赤かった気がする。
姉さんの部屋の前まで行きノックする。あの人はノックしないで入ると怒るくせに俺の部屋にはノック無しで入ってくる。一人で頑張ってる最中に入られたときは恥ずかしい思いをした。
「姉さん、桜が朝食を作ってくれてるからそろそろ起きて」
返事がない。まだ寝ているようだ。入るしかないか。
「姉さん、藍、起きて……」
部屋を開けると姉さんと藍は下着姿で抱き合って寝ていた。何この百合百合しい光景。思わず見蕩れてしまう。しかしここにいるのは姉と妹。二人の肩を掴みもう一度起こしてみる。
「二人とも、朝だよ。起きて」
姉と妹じゃなければ二人の美少女に襲い掛かる男の絵図だ。しばらく肩を揺らすと二人とも目を覚ました。
「あぁ、朝か。すまないな遼」
「ふぅわ~、おはようー遼兄ぃ」
うん、姉と妹でよかった。知らない人がこの光景を見ると俺通報されちゃいます。
「桜が朝食を作ってくれているから着替えたら降りてきてね」
「「ふぅわーい」」
俺は姉さんの部屋から出てリビングに戻る。ちょうど桜が朝食を作り終えたらしく、ダイニングに料理を運んでいる。
「スクランブルエッグか」
桜が用意してくれたのはスクランブルエッグとベーコン。昨日の段階で食材がなかったしこれぐらいしか作れなかったのだろう。
「食材がなかったからこれしか作れなかったんだ。ゴメンね」
「いや、昨日俺も食材がないのは確認しているし、作ってくれるだけで助かるよ」
料理を運び終わるとすぐに姉さん達がきた。ちゃんと服を着ている。
「桜すまないな。これは遼の仕事なのだが」
「いえいえ、この前は遼に作ってもらったのでそのお礼ですよ」
そんな会話をしながら四人が席に着く。藍はまだ眠そうだ。
「「「「いただきます」」」」
さていただこう。まずはスクランブルエッグ。箸に取る。うん、固くなりすぎていない。口に入れるとふわふわな食感だ。さすが桜だ。
「ホントはチーズも使いたかったけど切らしていたの」
「いや十分だ。遼に負けず劣らずの腕だな」
四人で会話をしながら朝食を取る。藍は眠そうだったが料理を口にした瞬間幸せそうな顔をした。
「桜、食べ終わったら家まで送ろう。食器は遼に任せておけ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「遼兄ぃ、私も食べ終わったら遊びに行く準備する」
「ん? 朝からどこか出かけるのか?」
珍しいな。いつもはお昼前ぐらいからしか出かけないんだけどな。
「ガールズトーク」
「ガールズトーク?」
「あぁ詩織ちゃんから連絡あったやつね。私はちょっと今日から忙しいから断ったけど……」
「私も今日は断った」
話を聞くとこの後花の部屋で女子会? をやるそうだ。藍が俺の友達と仲良くしてくれるのは嬉しいな。桜は今日から忙しいってことは夏休みはもう遊べないのかな?まあ遊ぶ時は誘ってみればいいか。
食事が終わったので姉さんはと桜は家を出た。藍は風呂に入ってから出るそうだ。さて、俺は今日何をするかな。夏休みはまだ一ヶ月以上ある。何かやりたいことを見つけて挑戦してみるか。




