第十話 狭間の話
遼が初の買い物の荷物持ちで拉致られた少し後、妹の藍は図書館に来ていた。この街の図書館は大きい。人もそこそこいるが静かなので藍は休日に勉強するのによくここを利用している。中学でも期末試験が近いのだ。
最近遼兄ぃが私を構ってくれない。あの学園に通い始めてからだ。部活を頑張っているのはわかるけど今日も女の子と遊ぶみたいだし。
そんなことを考えながら勉強をしていた。数学だ。藍の成績はかなりいい。特に英語に関しては初の影響もあり読み書きだけでなく日常会話までできる。初曰く、英語圏の国に放り出しても余裕だとか。しかし数学だけは苦手だった。今も問題に躓いていた。
「あら?藍さんじゃないですか?」
顔を上げると清楚系の女の人が立っていた。
こいつは遼兄ぃに群がる虫、確か瀬戸内花だっけ? なんでこいつがいるんだ?
「勉強ですか? 私勉強しに来たのです。お互い期末試験が近いようですね」
虫がなにやら騒いでいるな。気が散る。花に対して無視を徹底する藍。
「あ、でもここ……」
しつこいな。ここにいられると邪魔だ。仕方がない。
「Noisy, go somewhere.Don’t do my obstruction by a
position of bug.(うるさい、どこか行け。虫の分際で私の邪魔をするな。)」
虫が驚いた顔をしている。これでどこかに行ってくれるだろう。
「Umm,sorry.But the answer to this question here is different.(うーんごめんね。でもここの問題の答え間違えていますよ。)」
今度はこちらが驚いた。いや、たまたまかもしれない。
「Look here.This response makes a mistake in
calculation by the system of the way.(ここを見て。この答えは途中の式で計算を間違えていますよ。)」
言われたところを見てみると確かに間違えている。消しゴムで答えを消し計算し直すと正しい答えを導けた。この虫できる。その後もいくつか間違いを指摘された。
「Mathematics is my weak point,but I can do the
reach to the junior high school.If it’s good,
shall I teach you?(数学は苦手ですが、中学までの範囲なら私でもできます。よかったら勉強を教えましょうか?)」
その申し出は断りたいのだがこの範囲は藍が苦手なところである。先ほどのことからわかるだろうが間違いが多い。英語で嫌味をいうつもりだっただそんなこと言ってられない。テストも近いんだ、教えてもらうことにしよう。
「・・・お願いします」
「承りました♪」
この人笑うとこんな顔するんだ。なんだかとてもまぶしい。悪態ついていた自分が嫌になってくる。教え方も丁寧で初姉ぇみたいだ。
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その後は藍がわかるようになるまで丁寧に教えてくれた。この人も勉強しに来たはずなのにずっと藍につきっきりだ。おかげでこの範囲はもう大丈夫。とてもわかりやすかった。夕方が近くなってきたので帰る準備をする。
「あのっ……、今日はありがとうございました。それと……、この前は変な態度とったり虫って言ったりしてごめんなさい」
「いえいえ。藍さんはお兄さんが好きなんですよね」
そう言って藍の頭を撫でる。
言動や雰囲気は違うけど初姉ぇみたいで温かい。この人もお姉ちゃんみたい。
「お姉ちゃんみたい」
思ったことが口に出てしまい、とっさに手で口元を隠す。恥ずかしい。
「お姉ちゃん!? ねぇもう一回言って! お願いもう一回言ってください!」
すごい勢いで食いついてきた。この感じ言ったら調子乗りそうだけど言わなかったら言うまで攻められそうと思ったのでもう一回だけ言ってあげた。なんだかすごく満足そうな顔をしている。
「私のことはこれからお姉ちゃんって呼んでいいですからね」
「いえ、花さんで」
しょんぼりする花さん。気が向いたら『花姉ぇ』って呼んであげよう。
そんなやり取りをしながら図書館を後にする。
家に帰ったら遼兄ぃに今日の話をしよう。
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「ただいまー」
帰宅後、すぐに遼兄ぃの部屋に行くがいない。まだ帰ってないのかな?リビングに行くと初姉ぇがタバコを吸いながらテレビを見ていたので遼兄ぃがまだ帰ってないのか聞いてみる。
「あいつ今日は桜のところに泊まるから帰らないぞ」
桜さんは初姉ぇが昔家庭教師をしていた時の生徒だ。藍も姉さんと一緒に何度か遊んだことがある。小柄でかわいいていい人だ。でも遼兄ぃがお泊りって……え!? お泊り!?
「初姉ぇ! なんで止めなかったの!?」
藍は勢いよく初の服を掴んだ。ヒステリックになっている。
今日遼兄ぃが桜さんと遊ぶことは知っている。でもお泊りするなんて聞いていない。
そんな藍に初はタバコの煙を顔に吹きかける。
初姉ぇのタバコはいい匂いがするから嫌いじゃない。でもこんなことされるとむかつく。少し咳き込みながら手を離した。
「止める理由がない、というか私がそうさせたんだ。別にお前も桜のこと好きだからいいだろ?」
初姉ぇがそうさせた? どういうこと? 確かに桜さんは好きだけどでもそれとこれとは話が違う。
藍はスマホを手にし遼と桜さんにメッセージを送ろうとすると初に取り上げられた。
「おいおい、あいつらの邪魔をするんじゃないよ。これは没収だ。まぁ後で詳しい話をしてやるよ」
そう言って藍の頭を撫でた後、自分のスマホを取り出し誰かにメッセージを送った。遼兄ぃか桜さんにだろう。
「とりあえず風呂に入って来い。今日は母さん達も遼もいないから私が夕飯を作ってやる」
納得はしてないがとりあえず初の言う通りにする。
でも初姉ぇは料理ができなかったはず。練習してるのかな? 気になった藍は何を作るのか聞いてみた。
「……レトルトカレーかカップ焼きそばだ」
初姉ぇ、それは料理って言わないよ。成績優秀・スポーツ万能・容姿端麗の完璧超人を思わせるうちの姉の唯一できないことが料理なのだ。藍はため息をつき風呂に入るのであった。
夕食はレトルトカレーだった。小学生でもできるインスタントをドヤ顔でだす初姉ぇ。そんな姉を見るとこっちが恥ずかしくなってくる。
食べた後の食器を洗い、二人で初の部屋に入る。さっきの話の続きを聞くためだ。初は勉強机に備え着いている椅子、藍はベッドに腰掛ける。話す前にスマホを返してくれた。邪魔すると思わないのか?と思ったが初が語り始めた。
「桜はな……」
全て話を聞いた後、藍は二人の邪魔をする気ではなくなっていた。




