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3.

3.


何かが耳元でうるさく鳴り響いている。

目を細めてよく見てみると、いつも起きる時間よりも30分ほど早く目覚ましを設定したようだ。

なんでだっけ……?わざわざ古い時計を引っ張り出して、こんなに早くに?

目を擦って昨日の出来事を隅まで思い出してみる。


ポスター制作を提案した日の放課後。

「あの、藤崎さん?」

「何?」

「ポスターを作るのはいいんですけど、そしたら、どうするんですか?」

坂を下る途中、ふと疑問に思ったのか、唐突に波音に問いかけられた。

そりゃ、もちろん―――――――――?

「藤崎さん、もしかして何にも考えてないんですか……!?」

心底驚く波音さん。まあ、俺もかなり自信有りげに話を持ち出したのだから、仕方ない。

少し考えてみるが、なかなか良い考えがまとまらない。

何故と言うなら、波音の不安やら皮肉が交ったような視線がかなり痛かった。

「……悪かったよ。とりあえずは部員を集める根本的な方法とかしか考えてなかったんだよっ」

坂を抜けて少ししたら小汚い自販機が目に入る。

息をついてその自販機に近づいて財布を取り出す。

「あっ……藤崎さん、ブラックコーヒー飲めるんですか?」

波音が俺の押したボタンを見て感嘆かんたんの声を上げる。たかがこんな事に。

缶コーヒーを開け、そのまま飲んで肩をすくめて見せる。

「高校生とかになると大体の奴が割と大丈夫なモンじゃないのか」

しばらくコーヒーで心を落ち着かせながら考え事に更け入る。

すると、落ち着いたおかげか、意外と早く答えは出た。

「じゃあさ、明日学校でポスターをコピーしよう。職員室の機械を借りてさ。なんなら、早めに学校に行って印刷してから、昼休みの余りの時間を使えば、明日中にも少しは張り出せるんじゃないかな」


…………そうだ、俺が提案したんだよ。

記憶が鮮明になり、伸びをしてから再び時計に目をやる。

「って、もういつも通りの時間じゃん!?」


「あっ、藤崎さん。よかったです、来てくれました。藤崎さんのチェック無しではいけないと思いましたので、待ってました」

あの後5分以内で支度を済ませ、走って校門に向かった。だが、予定の時間はとうに過ぎていて、もう生徒が登校している。HRホームルームまでも10分ほどしか無い。

急いでも数枚コピーするので精一杯だろう。

それなのに、波音はほとんどどころか少しも怒る様子は無かった。

「悪かったな、波音。その……遅れて」

「いいです。でも、あまり人を待たせるのは良い事じゃないです。だから、今度からは気を付けてください。行きましょう、少しはやれる事、あるかもです」

俺に注意を促す言葉はそれだけだった。

ただ、俺はもう絶対に、こいつを待たせてはいけないと深く考えることになった。


「ごちそう様でした」

「ごちそーさん」

さて、と言って二人とも立ち上がる。

昼食を終えた後のやる事はすでに決まっているのだ。

朝の件をすっぽかしてしまったのだから、今度こそはと意気込む俺だった。

「いいな、波音。学校中の掲示板で空いてるスペースがあったら即貼れ。数は何枚でも刷れるから、いくらでも貼っちまおう」

「はいっ!」

この日、初めて俺たちは正式にヨット部再建の為に活動した。

昼休みは予冷が鳴るまで。授業を挟んで(いや、俺は寝てたが)、放課後も貼れる限り波音の作ったポスターを貼って回った。


「いやぁ、疲れたな。大丈夫か、波音?」

「腕と足が常につりそうです……」

可愛らしく腕をさする波音を見て、俺が吹き出す。

靴を替えて外に出ると、もう日は沈みかかっていて、今にも暗くなりそうだった。

「藤崎さん、私の家で夕飯食べて行きませんか?」

「いや、悪いから」

「こないだの安売りで美味しそうなお肉を買い過ぎてしまったんです、遠慮せずにどうぞ。それとも、ご迷惑ですか?」

そうまで言われると断った方が失礼だろうかと思い、お言葉に甘えることにした。

「では、先に行っててください。私に呼ばれたって言えば大丈夫ですからっ!」

俺がOKした途端に、笑顔で波音が自宅とは別の方向に向かって駆け出す。

「お、おいっ、おまえは!?つーか俺一人で行くのはなんか違くないかっ!?」

大声で言ったつもりが、何も聞こえなかったかのように波音はどんどん遠くなる。

辺りに、『大丈夫ですからっ!』と言う声を響かせながら。


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