表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

第八章:活動開始

第八章:活動開始


「野田ァ、俺だ。入るぞ、無条件で」

了承などはなっから必要もなく、ドアを開けてアパートの一室に入る。

「無条件でって、どんだけ勝手なんだよっ」

入るなり野田が大声で文句を言う。

いつものように散らかっている部屋の一部を強引に片付け、そこに寝転ぶ。

「相変わらず汚ぇな……あの服の山とか、洗濯してんのかよ」

「してるよっ!っつーか藤崎、海とか行ったの?なんか潮の匂いがするんだけど」

行ったとも。

少し前まで波音といっしょに海にいた。少々もめたが、とりあえずはなんとかなったと思う。

さっきまでの憂鬱ゆううつな出来事を思い返して、肩をすくめてうなずいて見せる。

ただ過ぎたことを気にしても仕方が無い。

「おい、野田。茶と菓子」

起き上がって手を前に出しながら、毎度の要求。

「……フッ、フッ…ハハハハハハッ」

すると、野田が急に笑い出す。声音がかなりヤバく聞こえた。

心配になる。わけなど無く。

「気持ち悪っっっ!」

真っ向からぶつかる俺。

「そう言うと思ってな、今日はっ用意してあんだよっ!」

野田がダッシュで冷蔵庫からケーキを、ペットボトルのお茶を持ってくる。

『どうだ?参ったか?』と言わんばかりの表情が、この上なく気持ち悪い。さらにムカつく。

「コーラと、シュークリームがいいなぁ、今日は」

ずるぅっ!!

「なんで今日に限って茶とケーキじゃないんだよ!?」

ものすごく古風なずっこけ方をした後、間髪入れずに野田がわめき始める。

もちろん答えは決まっている。

「いや、気分だよ。あるだろ?なんとなく炭酸系飲みたくなるアレだよ」

「あ~、あるある!ってドレだよっ!?」

鋭いノリ突込みである。

「まあ、珍しいことだし食ってやるさ」

「んなこと言うなら食うなよっ……」

問答無用でケーキを口に放り込む。

ところが、そのケーキの味に顔をしかめる。

「うわ、何だこれ……不味まずっ。安物だろ、微妙だ」

何とか飲み込んでお茶を口に含む。

野田なんか、俺の感想で声にならない悲鳴みたいのを上げてから、再び喚きだす。

「#$#&$#hbvt#~~~~。最低ッスね、アンタ!」

「文字で表せない叫びを上げるなっ。っつーか、勢いで二個も食っちまったじゃねーか……」

お茶を飲み干して苦し紛れに声を出す。

このケーキ、甘すぎるかと思ったらその後に言いにくいような味がしやがる……。

「お、おいっ。一つは僕の分だぞ!?」

ケーキの箱が空なのを確認した後、野田が俺の肩を揺する。

「……食いたいか?」

「あたりまえだ、買ってこいよ!」

「仕方が無いな……確かに俺も悪いし。――――――嫌なこった」

表情一つ変えずに、俺が一言。

「くそぉぉぉうっ。藤崎テメェ!もう二度とおまえに物は買ってこないからな。今後一切、飲み物も菓子も絶対にやらんっ」

野田が放った一言に俺は手を握り締めて断言した。

「野田ぁ、おまえな……食べ物は物じゃない、大切な命の源だっ!」

「言ってることは立派だけど、お前が最低なのは変わらねぇよ……」


「最近、僕の友達が女の子とよく一緒にいるって噂を聞いたんだけど、何か知らない?」

急に野田から話しかけられて面を食らう。

「……誰のことだよ?」

できるだけ平静を保ったまま俺が聞き返す。

わざとらしい口調から野田が一体何を言いたいのか、すぐにわかった。

「まあ、別に何でもいいんだけどさ。そいつ、この前は彼女とかはいないって言ってたんだよね」

内心の戸惑いを押し殺しながら、野田から目を離す。野田から向けられる視線が痛い。

どうにか話を逸らそうと頭をフル回転させて言い訳を考える。

「あ、そういえば西菜が放課後、おまえの事を探してたぞ。すごい形相で」

「えぇ、な、な、なんで!?」

俺がとっさの(かなり苦しい)言い訳を口にした途端に、野田が急に顔色を変えて震え上がる。

なんか、後一押しくらいでなんとかなりそうだ……。

「さぁな……。『あのアホォ、なんとなくムカつくのよっ!』とか言ってた気がしたが」

それを聞くと、野田が更に震え、軽く泣きそうだった。

予想以上の怖がり方に少し引く。

「ちょっとビビり過ぎじゃねぇ?」

なんとなく聞いてみると――――――。

「あの女、この間その『なんとなく』とかで、僕のこと三日間で14回も殴って、11回蹴ってきたんだ。しかも最後の一回の蹴りがさぁ……思い出すだけで男であることを少し後悔するよ」

野田が下半身の一部を押さえて、すくみ上る。

なんて女だ、あいつは。もっと言うとどこまで哀れな男だ、おまえは……。

「っつーか、あいつバケモノの蹴りをくらって、その……大丈夫なのか……?」

俺は素直に心配になった。

「次の日の晩まで用を足すことすらままならなかったよ」

俺は、もし自分がそうなった時のことを考えてゾッとした。

大変だったな、と言う意味を込めて俺が野田の肩に手を置く。

って、忘れてたが、なんとか誤魔化ごまかせたな。

「くそぉ、なんか腹立ってきた……。藤崎、どっか行かない?」

考えるフリをして立ち上がる。もちろん答えはきまっているのだが。

「いや、今日は用があるんだ。妹と会う約束しててさ、悪いな」

とりあえず謝ってそのまま踵を返す。

一応は『事情』を知っているのだから、野田も止められない。

「なら仕方が無いね。一人でやけ食いでもするかって、金無いや……」

野田の独り言から、もう逃げ切れたことを悟った俺だったが、手放しでそれを喜ぶことができなかった。


…………どうにも、そろそろ俺が近頃何をしてるか、野田にバレる気がする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ