表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

2.

2.


面倒な事に、西菜と一緒にB組に向かう。

教室の中をのぞくと、ほんの数秒で波音と目が合う。

とりあえず手招きで『帰るぞ』と意思を伝える。

波音は浮かない表情でうなずいて、鞄を手に取る。

しばらく待って、波音が教室から出てくる。

……先程までの顔を隠すように笑いながら。


「ビックリしました、今日は西菜さんも一緒ですか」

坂を下る途中。

波音は西菜と雑談をして、ずっと時間を稼いでるように見えた。

自分が厚かましい事を言ったと思っているからか、俺の答えを聞かないほうがいいと思ったからかはわからなかった。

「あのさ、俺――――――――――」

「いいですっ」

場の空気に耐え切れなくて俺から切り出そうとした瞬間、波音が口を開いた。

「言いづらい事だったら、結構です、すみません。ただ、部員にはならないって言ってくれればいいんです。これまでも色々お世話になってしまいました。それだけでも、私にとってはとても信じられない事なんです。ですから……大丈夫なんです」

最後の一言は笑顔だった。

波音の目の端には、何かが夕日に光っていた。

西菜が何かを言おうとして口を開こうとしているのが目に入る。

俺はただ、波音おまえにそんな顔して欲しくないから……


「右脚を―――――――怪我してるんだ、俺」

俺から口を開いていた。

波音も西菜も、一瞬時が止まったようだった。

傷つけたくない、傷つきたくない……

「親父と喧嘩けんかして、その時にな」

見る見る波音の顔色が悪くなっていく。

こんな事を、言いたいんじゃない……

「普通の生活で使うには支障は無いんだ。でも、思い切り走れない、運動だって……どこまでできるか、わからないんだよ」

波音の頬に涙が伝う。

よほど衝撃的だったのか、自分が一体何を言っていたかがわかったからか、頬を濡らした少女は少しずつ後ずさりをしていた。

止めろ、泣かないでくれよ、波音っ…………

「わ、私……その、私…知らなくて……」

西菜も驚きで少し顔が青かった。

「ごめんなさいっ……私……ご、ごめんなさいっ」

波音が駆け出す。

小さな背中が遠くなってから、我に返る。

俺は、波音を傷つけてしまった。

その事に、今更気が付いた。西菜と目が合う。

目を伏せて、唇を噛みながら、西菜が口を開く。

「友哉、ごめんっ。私、無神経だった……」

西菜まで泣きそうだった。

「いいよ、仕方ないんだ。部員になってやりたい。それでもやれないかもしれないんだ。それに、他の部員さえ入ればあいつは俺なんかとつるむ必要が無くなる。その方があいつにとって良いに違いない」

そうだ、そうに決まってる。

「違うっ」

突然、西菜が俺の方を掴んで揺さぶる。

そのまま、泣きかけの腫れた目で俺の瞳を真っ直ぐに見据えて口を開く。

「あの娘はそんな事、これっぽっちも思ってない!そんな事、見ればわかるじゃない……」

思い出した。

部室の前で立ち止まっていた波音。

あいつは一人で何か言ってた。なんて言ってたっけ?


『一歩を踏み出せば、それは周りの人たちに近づく為の一歩ですっ』


そうか。

あいつは俺をただ頼っていたんじゃない。

すがっていたかったんだ。そうしないと……何かにすがっていないと不安だったから。あいつは俺の言った、たったの一言をかてにして、あの一歩を踏み出していたんだ。

馬鹿だ、俺は……。

―――――もっと早く気が付いていれば。いや、気付いていたのに、背を向けていたのかもしれない。

「最低、だよな。俺」

「そんな事無いんじゃない?事情もあるみたいだし。……追っかけんの?」

目の端をこすりながら明るく言う。

いつもの、西菜だった。

「だいたいどこにいるのかはわかるしな」

早歩き気味で歩き出す。

ここまで本気で走りたいと思ったのはいつぶりだっけか?


そんな事を考えながら、俺はあの場所に向かう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ