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28.5.勝負の行方は(アクシオ視点)

 時は、国交後十年記念祭にてヴィルエを助ける前に遡る。


 パレードの際、アクシオは民家の屋根に潜んで様子を窺っていた。そこでデールとヴィルエのやりとりを見ていたのである。

 会話までは聞こえなかったが、デールがヴィルエの手を掴んでいたのはわかった。

 それを見ただけで苛立ち、今すぐ駆けつけたい衝動に駆られたのだが、アクシオは動くことができなかった。


 デールの計画では、私兵による陽動が始まった後、『夜梟』がセラティス王子の乗る馬車を強襲することになっていた。

 だがその通りには進まない。彼の計画を全て掴んだアクシオは、事前にセラティスとガードレット王に伝えていたのである。

 だから、馬車に強襲した『夜梟』はアクシオではない。同じ格好をしたグレンだ。


 だが、暗殺が失敗したとなった後のデールの行動はアクシオの予想と異なるものだった。

 彼はヴィルエの手を離そうとせず、それどころか連れて行こうとしたのである。

 ヴィルエはデールの共犯――として逃げたのではないと、アクシオにはわかっていた。


(ヴィルエも国のために動いている……妹の話になった途端、顔が緩んでたもんな)


 これについては裏付けも取っている。

 『夜宴の黒花』という悪名からデールと共犯だと疑っていたが、どうにもヴィルエの様子が異なる。

 彼女も国のために動いている者ではないかと考え、グレンに確認を取ってもらった。これについてはセラティスからも話を得ている。彼女は敵ではなく、同じ志を抱く者――王家を守る者だ。


 ヴィルエの働きはアクシオにとって助かるものだった。

 余計な者に暗殺計画を依頼するぐらいならば『夜梟』に依頼を出せばいい。その方が自分で内容を把握できる。

 だが、アクシオは貴族だの社交界だのといったものは苦手だ。デールに接近し、『夜梟』に依頼させるための話術も持ち得ていない。

 その点、ヴィルエはこれを得意としていた。この一件を最高の形で終えられたのは、互いの行動が協力しあう形となったためだ。


 アクシオはすぐにヴィルエたちを追いかけた。その途中にてデールの手下とミゼレーを発見し、ミゼレーを解放すべく動いたため到着が遅くなってしまった。

 水路に落ちていくヴィルエを見つけた時は、頭が真っ白になった。勝手に体が動き、気づけば彼女をこの腕に収めていた。理性を欠いて、彼女のためだけに行動していたのだ。間一髪であったが間に合ってよかったと心から思っている。



 こうしてヴィルエの救出は完了し、再び一人になったアクシオは予定していた隠れ家へと着いた。ここで『夜梟』の変装を解き、アクシオに戻る。


(あとは騎士団に顔を出して、デールを捕えたか確認しよう。セラティスは忙しいだろうから報告は後日だな)


 『夜梟』の衣を脱ぎ捨てると気が緩むのか、体がどっと重たくなる。見ないふりをしていたが疲労が溜まっていたのだろう。壁にもたれかかり、シャツのボタンを一つ外す。それから前髪をかきあげた。


 今はとにかく、屋敷に戻りたかった。

 別れる前のヴィルエとの会話。こちらを揶揄うような瞳に、蠱惑的な微笑み。艶めいた唇が動いて告げたのだ。


『抱きしめるのならば、あなたじゃなくて夫がいいもの』


 本気なのか、それとも冗談なのか。ヴィルエの真意が不明だが、もしも本気であったのなら――そわそわとしてしまう自分が情けない。


「たまには……早めに帰ってもいいか」


 負け惜しみのように呟いた後、アクシオは立ち上がる。先ほどまであったはずの疲労はもうわからなくなっていた。


***


 どうしてこうなったのか。

 煌々としていた自室は、今ではか細い明かりを灯す蝋燭頼りとなっていた。先ほどまで彼女と共にいたソファには脱いだシャツやドレスがかけられ、床には自らが引きちぎったリボンが無残な姿で落ちている。


(……こんなのは想像していなかった)


 ヴィルエと二人で話すとなった時から、彼女に揶揄われることはある程度覚悟をしていた。しかし今回はどこまでも止まらず、ついにこうなってしまったのだ。

 おずおずと、ベッドの方を向く。

 白いシーツに彼女の長い黒髪が見えた。それ以上を凝視するのは申し訳ない気がし、アクシオはさっと視線を戻す。


(確かに『言葉ではなく行動でしか示せない』と言ったのは俺だけども! だからって……いきなりこうなるのは違うだろ!)


 アクシオは、ヴィルエに想いを打ち明けるつもりでいた。結婚前の宣言についても訂正し、愛していると正直に伝える予定だったのだ。

 それが蓋を開ければこうなっている。結局のところ、アクシオもヴィルエも、好きだとは告げていない。我慢比べは、事に至っても決着のつかないままである。

 意地を張らずに認めた方が楽になるのかもしれないが、恍惚とした表情でこちらを煽ってくるヴィルエの姿を見ていれば、悔しい気持ちになってしまう。だからまだ、彼女には気持ちを言えていない。


(俺のことを可愛いだの何だの……可愛いのはヴィルエの方だろ)


 事に至ってしまえば蕩けた顔をし、甘えた声を出すくせに、ヴィルエはまだ負けを認めていない。むしろ、こちらをわからせると言って煽ってくるのだ。


(我慢比べってなら、絶対に負けてやらない。ヴィルエから言い出すまで耐えてやる)


 改めて覚悟を決め、ベッドに向かう。

 寝息を立てるヴィルエの隣に潜り込む。それから、優しく抱きしめた。


(好きだ。でも、お前には負けない)


 彼女の額に優しく口づけを落とすアクシオの表情は柔らかかった。



<完>

*****************

ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。


女主人公に迫られて、たじたじになるヒーローが好きなので書いていてとても楽しい本作でした。


こちらは以前公開していた長編を改稿したものになります。

第二部を書くぞ!と意気込んでいたのですがかなり時間がかかってしまいそうで…すみません!

でも好きな二人ですので、時間を見つけてまた続編をぽちぽち書いていきたいです。


ここからは番外編三本になります。こちらもお付き合いいただければ幸いです。

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