9.VS robber
俺はヒヤシンスを抱えたまま、炎と煙の間を縫って走った。足元の土道は逃げ惑う村人たちに踏み荒らされて、ぐちゃぐちゃに濁っていた。
エル村は今、完全に混乱していた。
「左左左左――左だ――!」
「黙れ! 叫ぶな!」
ヒヤシンスの翼の先が俺の胸をぱしっと叩いたけど、力はふにゃふにゃで、明らかに腰が抜けていた。
視界の端で、右の路地から二つの人影が飛び出した――熊手を握ったおじさんと、あの壺を売ってたおばあさんだ――彼らは慌てて反対方向へ逃げていて、その後ろを鉈を掲げた痩せ細った盗賊が追いかけている。
助けるべきかどうか迷う間もなく、路地の角で突然白い光が走った。
「ぱしん――!」
斜め上から氷の槍が飛んできて、痩せた盗賊の右肩に直撃した。奴は悲鳴をあげてその場に倒れ込む。
ぼろぼろの革鎧を着た、短い無精ひげの男がどこかの家の屋根の上に立っていて、左手がかすかに青白く光っていた。
冒険者だ。
「――村に冒険者がいるぞ!」「やり返せ! 奴らは数が少ない!」
別の路地から数人の男たちが飛び出してきて、鍬やシャベルを手にしている。先頭のじいさんは見覚えがある――常青村で唯一の酒場の店主だ。普段は街角のガキどもを怒鳴り散らしているが、今は誰よりも大きな声で吼えていた。
「Lv.6! 猪残殺脚!」
「Lv.5! 猪残殺拳!」
「Lv.15! 破殺寒風!」
「Lv.13! 百郷箭!」
盗賊たちはまったく相手にならず、もう二、三人が地面に倒れていた。
すげえすげえ!
これが戦闘ってやつか!
残念ながら、ゆっくり見てる暇も余裕もない。
俺はヒヤシンスをしっかり抱きしめて、二軒の木造家屋の隙間を横にすり抜け、村の裏手にある小道から抜け出そうとした――
「――おい、そこの!」
横から声がした。しゃがれていて、煙草の焦げたような匂いがした。
反射的に顔を向ける。
一人の男が酒場の方からのしのしと歩いてきていた。左耳に三つの銅の輪っかを付けていて、眉尻から顎まで走る古い傷跡がある。手には血まみれの短柄斧――刃には誰かの髪の毛が何本か引っかかっている。
奴が俺を見て、次に俺の腕の中のヒヤシンスを見て、半秒ほど間を置いてから、にやっと笑った。
「よお――なかなかやるじゃねえか。小鳥ちゃんを抱えて逃げるなんてよ?」
「……何の用だ。」
「何の用だって? 俺はあの子が欲しいんだよ。置いていけ、お前は消えろ。今夜は俺が嫁さんにしてやる――」
「こいつまだ十歳だぞ!」
「…………十歳?」
「十歳ちょっと、とにかく法定年齢には絶対に達してない! てめえは犯罪だ! 人権侵害だ! しかも捕まったら終身刑――いや、こっちの世界なら首吊り刑直行だ!」
「この外道が、俺に法律を語るのか? 俺は盗賊だぞ、法律なんて通じると思ってんのか?」
「…………じゃあせめて別のにしろよ。村には他にも女がいるだろ――」
「俺は小鳥人がいいんだよ! 余計なことを言うな!」
奴は俺に向かって歩き出した。ブーツが泥地を踏むたびにぷちゃぷちゃと音がする。その一歩一歩が、俺の残された理性を踏みしめているようだった。
まさかここで、ヒヤシンスとお別れすることになるのか?
「おい、小僧。そこでビビって縮こまってるのか?」
声が聞こえた。
非常に奇妙で、異様で、そして――
「魔」だった。
ひときわ「魔」だった。
時間が引き延ばされたかのように、向かいの盗賊の動きが非常に遅くなった。
そして俺は、自分が時間を止めたのかと思った矢先、自分も動けなくなっていることに気づいた。
「バカだな、自分に特別な力があるとでも思ったのか?」
声は後ろの枝の上から聞こえてくる。首を回すことはできない。
「誰だ。」
「俺が誰かって? 俺が誰かと、お前が今まさに殺されようとしていることに何の関係がある? まずは自分の身を案じたらどうだ。」
再び目の前の盗賊に意識が戻る。
奴がじりじりと迫ってきていた。
「うっ!」
「おい、ガキ! 命の守り方を教えてやろうか?」
「結構だ! ただより高いものはない!」
「ただだなんて言ってないぞ? 今日からお前は俺に借りを作ったんだ!」
「借り?」
「そうだ! 借りだ! そういうのはお互い様ってやつだ、お前が畜生じゃなければな。借りを返す気が最初からないような奴は畜生だ!」
「もし返さなかったらどうなる?」
「もう返さない場合のことを考え始めたのか? ひひひ、教えてやろう。その時は一番苦しい死に方をさせてやる。今より百万倍は痛い死に方だぞ!」
くそっ、ヒヤシンスに顔面に何かやらせるってのはどうだ?
「いいだろう! 今日、俺はお前に借りを作った!」
「よし! 約束だ! ひひひ、そう言えば俺もあいつは結構ファンだったんだよな。村に入った時からずっと尾行してたんだ――動きが大振りで、一振りで一人殺すんだぜ、あれは男らしくて、すごく男臭い! お前に借りを作らせるためじゃなければ、絶対に手を出さなかったんだけどな!」
「余計な話はいい!」
「ひひひ、わかったわかった! これから言う通りに動け!」
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瞬間!
天夢は身を沈め、ヒヤシンスを地面に置き、盗賊に向かって駆け出した!
何をしている?
天夢は死にに急いでいるのか?
いや、
向かいの盗賊が奴の目の変化を見て一瞬固まったことからも、それが決してそうではないと分かる!
「Lv.13! 断山劈!」
目の前の巨斧から、天地を覆うような気迫が襲いかかる!
天夢はどうやってこれを防ぐつもりだ?!?!
答えは、防がないことだ!
天夢は横に身をかわして、致命の一撃をやり過ごす!
奴の背後に回り、地面を蹴って方向を変え、振り返ってきた盗賊の両目に向けて、二本の指を突き立てた!
「ぐわっ!」
さらに後ろに跳びのき、めちゃくちゃに振り回す盲目の盗賊と距離を取る!
徐々に、盗賊の動きが鈍り、反応が遅れ、斧が壁に引っかかった――
今だ!
再び突進し、握りしめた拳を相手の喉仏に全力で叩き込んだ!
息ができず、苦しく、転がり、喉を押さえ、うつ伏せに倒れ、窒息し、死んだ。
俺はそのまま、目の前の相手が死ぬのを見ていた……心の中は特に何もなかった。
奴をひっくり返し、財布や装備をかき集め、ヒヤシンスのところへ歩いていき、腹を抱えてうずくまる彼女を抱き上げる――と思ったら置いて、彼女が気まずそうに笑い、死体と俺を交互に見てから、一緒に村の外へ走り出した。
それから、俺たちが常青村に戻りかけていた時、一筋のまばゆい光の筋が天からエル村に落下し、叫び声が一層激しくなった。
振り返った先には、信じられない光景が広がっていた――白く、見る影もない巨人が、腕を組んで村の中央に立っていた。その内部に、小さな点――それは勇者だった。




