03 イケジョですが何か?
田中 清子、26歳。
自分でいうのもなんだが、容姿は整っているほうだと思う。
この容姿のせいで、色々と大変な目にあった。
一番面倒なのは、同性に目の敵にされることだ。
それが面倒で、自分の容姿を隠すことにした。
伊達メガネを装着し、できるだけ顔を隠す髪型にした。
読書が好きだった私は、子どもの頃からの夢だった図書館司書となった。
天職だと思う。
黙々と、黙々と本と向き合う日々を過ごしてきた。
そんな私に、お見合いの話が舞い込んだ。
どうせ断られるだろうと出かけたお見合いで、正さんと出会った。
信じられないことに、1か月でプロポーズされた。
夢を見ているのかと思ったが、どうやら現実らしい。
ただ、自分が結婚するなんて思っていなかったから、フィクションの内容でしか結婚というものを認識していない。
リアルではこの後、どうしたらいいのか。
帰宅して、慌てて結婚情報誌なるものを見る。
それによれば、両親への挨拶、結婚指輪の購入、両家顔合わせを経て入籍と挙式の準備をするらしい。
さらに、新居をどうするか問題など、決めなければいけないことが山積みらしい。
これは…大変なのでは?
1か月以内にやらなければいけないこと、3か月以内にやらなければいけないことをまとめてみた。
…目が回る。
結婚って、こんなに大変なの?
正さんとは結婚したい。
しかし、これを全てやりきる自信がない。
資料を前に、愕然とした。
翌日、約束の時間に喫茶店に向かう。
すでに、正さんはお店の中で待っていてくれた。
「遅くなって申し訳ありません」
「いえ、5分前です。俺が早く来すぎましたね。気を遣わせてしまってすみません」
2人で頭を下げる。
席に着いて、一呼吸おいた。
「正さん…私は、結婚というものを甘くみていたようです」
私がそう言うと、正さんがため息をついた。
「実は、俺も甘く見ていました。きのう、清子さんに言われて、結婚に必要な準備をまとめてみました」
そう言って、正さんが資料を出す。
そこには、結婚準備の内容が綺麗にまとめられていた。
「両親への挨拶。これはおそらく、問題ないかと思います。やはり大変なのは、挙式の準備、そして、新居を探すというところではないかと考えています」
「私もそこが悩みどころだと考えていました。正さんのお勤め先と私の勤め先は離れていますので、新居を探すのは大変そうです」
2人で顔を見合わせる。
「…あの、ご注文は」
そう言われて、店員さんが困っているのに気がついた。
「あ、珈琲を、ホットで」
「私も同じもので」
そう伝えて、あらためて資料に目を落とす。
やはり、正さんはすごい。
私が諦めかけていたのに、こんなにも丁寧に書類にまとめてくれて。
「大変ですが、1つずつ問題をクリアしていきましょう」
そう言ってくれたのだから。
この人とだったら、きっとうまくいくに違いないと確信した。
それから1か月の間に、両親への挨拶を済ませ、結婚指輪も購入した。
両家の顔合わせもすませると、いよいよ、第1の難関、式場選びが始まった。
ありがたいことに、うちの両親も正さんの両親も私たちの結婚に関して口を出してこなかったのが救いだ。
「それでは、第1回、式場探し会議をおこないます」
正さんがそう言って、何枚かの紙を出した。
「まずは、神前式にするのか、チャペルで行うのかから決めていきたいと思うのですが。清子さんは何かご希望がありますか?」
そう言われて、正さんが出してくれた紙を見る。
神前式やチャペルでの結婚式について調べたものがまとめられていた。
「なるほど、まずはそこからなのですね。すみません。私は招待客のことばかりを考えていました」
「いえ、招待客を気にすることも大切ですよね。俺も今からそこは頭が痛いところです」
「正さんは市役所にお勤めですよね…ということは、市長がいらっしゃったりするのでしょうか?」
「俺はただの経理の平社員ですから。祝電は届くかもしれませんが、市長はこないでしょう」
「では、宗教問題は気にしなくてもよさそうですね」
「はい。それは問題ありません」
一気に話して、振り出しに戻ったことに気がついた。
「清子さんは、和装がお好きなのでしょうか?それともやはり、ウエディングドレスに憧れていらっしゃいますか?」
正さんが突然、そう言って私を見た。
「そうですね。子どもの頃はやはり、ウエディングドレスに憧れていたでしょうか。今は。いえ、今も憧れはあります」
ただ、自分に純白のドレスが似合うかどうかはわからない。
「では、チャペルにしましょう。結婚情報誌に『困ったときは、女性の意見を尊重しよう』と書かれていました。俺は和装にも洋装にも憧れはありませんから」
そう言われて、チャペルで式を挙げることが決まった。
その後、第2回、3回、4回と話し合いを重ね、第8回の話し合いでようやく、式場が決定し、招待客も決めることができた。
「やはり、結婚というのは、思いのほか大変ですね。ブライダルフェアにこれほど赴かなければいけないとは思いませんでした」
「そうですね。予定では1か月で決めるつもりでしたが2か月かかりました」
式場を決めた帰り道、2人で並んで歩く。
「正さんが式場にお願いしてくれたおかげで、予定通り、半年後には結婚式を挙げられますね」
少し疲れてはいたが、予定通りに計画が進んでいることに安堵した。
しかし、予定通りに計画が進んでいるからこそ、悩まなければいけないことも多かった。




