第86話 さすがに動機が
ライル、カーミラの二人と逸れてしまったローザたち三人は、ギアの街を目指し、ひたすら斜面を上っていた。
「ようやく斜面を進めるところまで来ましたわね。ライルくんがいれば、もっと急斜面でも上ることができたはずですけれど……」
ライルの生活魔法〈歩行補助〉の効果がないことで、傾斜が十分に緩くなるまで横穴を進むしかなかったのだ。
先人たちが残してくれた目印があるとはいえ、横穴ルートは複雑で魔物も多く、三人での冒険はなかなか困難なものだった。
「誰かさんはなかなか目を覚ましませんし」
「気絶させたのは誰なのだ!?」
幸い一直線に街に戻るだけなので、アイテムや魔法を出し惜しみなく使うことができていた。
ライルがいた往路で、かなり節約できていたのも大きい。
「それにしても暗くて先がぜんぜん見えないのだ」
「ライルくんの〈視力向上〉がないからですの」
タティが白魔法で明かりを灯してはいるが、本当に近いところしか見ることができなかった。
お陰で魔物の接近にも気づきにくく、危険度が跳ね上がる。
「……少年がいたら、魔物が近づいてきたら教えてくれたのだ」
「あの〈注意報〉は便利だったわね」
「倒した魔物の素材も、選別することなく持って帰ることができたのだ……」
「〈小物収納〉にどれだけのものが入っているのか、想像しただけで恐ろしいですわ」
「この寒さも少年がいれば防げたのだ。休憩も少年がいれば一瞬でたっぷり取れたのだ。お腹が空いても少年がいれば美味しくて温かいものを食べれたのだ。少年がいれば魔物も倒してくれたのだ」
「ちょっとアルテア! 無い物ねだりばかりやめてほしいですの!」
「というか、列挙したら改めてとんでもない活躍ね……?」
仲間に苦言を呈されつつも、アルテアは叫ぶ。
「もう少年なしには冒険できない身体にされてしまったのだあああああっ!」
「人聞きの悪い言い方はやめるのですわ!」
「少年、何としてでも生きていてほしいのだ……っ! もし死んでたりなんかしたら損失が大き過ぎるのだ……っ!」
「さすがに動機が自分本位すぎませんの? ただ、生きていてほしいというのはわたくしも同意見ですわ」
「……カーミラのことも少しは思い出してあげてよ。あいつと仲の悪いあたしが言うのも何だけどさ」
タティが苦笑気味に呟いたときだった。
暗闇の向こうから数体の魔物が現れる。
「っ! 魔物なのだ!」
「しかもアーミィアントですわ……っ! また嫌な魔物に遭遇してしまいましたの……っ!」
すでに深部から中部にまで戻ってきているとはいえ、まだまだ凶悪な魔物は多い。
中でも怖れられているのが、この軍隊蟻の魔物だ。
「少年がいるときに遭遇した際は、簡単に倒せたのだ……」
「相手をしている余裕はありませんわ! 刺激せずに迂回した方がいいですの!」
「刺激せずって言っても、もう襲いかかってきてるわよ!?」
「逃げるしかないのだ!?」
彼らと戦うのは得策ではないと考えた彼女たちは、踵を返して逃げようとする。
「「「ッ!」」」
だが突然、アーミィアントたちが一斉に別の方へと視線を向けたかと思うと、ローザたちを放置して一目散に駆けだした。
「急に明後日の方向に走っていったのだ……何があったのだ?」
「分かりませんわ。ただ、これで彼らと戦わずに済みそうですの」
「……でも、何か向こうからすごく嫌な気配が……〈レーザーライト〉!」
タティが離れた場所を光らせる白魔法を発動する。
「「「なっ!?」」」
三人そろって絶句した。
暗闇の奥に見えたのは、アーミィアントの大群。
そしてそれらに群がられる、恐ろしく巨大な生き物だった。
でっぷりと太ったカエルの魔物だ。
全長は二十メートル……いや、下手をすればもっとあるかもしれない。
太くて長い舌が射出されると、アーミィアント数体がまとめて絡めとられる。
そして一瞬で巨大な口の中へと消えていった。
一方でアーミィアントはあれだけ群がっているというのに、巨大カエルは平然としている。
アーミィアントの牙では何のダメージも与えられていないのだろう。
「な、何ですの、あれは……?」
「あんなアホみたいに大きな魔物、見たことないのだっ! しかもあの舌っ……あんなに大きいのにローザの鞭よりも速いのだ……っ!」
「あのアーミィアントがどんどん食べられてくっ……ちょっと、今のうちに逃げないとマズいわよ!」
蟻の大群が食べ尽くされたら、次は自分たちの番かもしれない。
もちろん戦ったところで勝ち目があるとは思えなかった。
そのとき巨大カエルの目がぎょろりと動いて、ローザたちの方を向いた。
「「「~~~~~~っ!!」」」
もはや言葉を発する余裕もなく、三人は一目散に急斜面を駆け上っていく。
「〈フィジカルブースト〉っ!」
走りながら、戦闘中以外にはまず使うことのない身体強化の白魔法をかけるタティ。
ライルの〈歩行補助〉とは違い、割とすぐに効果時間が切れてしまうが、そのたびに何度も何度もかけ直した。
「ぜぇぜぇぜぇ……こ、ここまで来れば、もう大丈夫なのだ……?」
息も絶え絶えに呟きながら、足を緩めるアルテア。
そんな彼女の耳に聞こえてきたのは、
ぼよよよよよよん――――べちゃあああああん!
ぼよよよよよよん――――べちゃあああああん!
ぼよよよよよよん――――べちゃあああああん!
という、巨大なゼリーのようなものが跳躍と着地を繰り返している音。
しかもその音は少しずつ大きくなってきている。
「やつが上って来てるのだああああああああああああっ!」
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