第105話 縁起でもないこと言わないでください
世話焼きなドワーフ冒険者は、名前をドランさんというらしい。
「ラヴァゴーレムを倒したばかりか、それを橋に変えちまうとか、一体どうなってんだ……? もしかしてお前さんたち、人族の間では名のあるパーティなのか?」
「そこまでではありませんわ。ただそこのライルくんが、ちょっと、いえ、だいぶ人間離れしているだけですの」
「僕!?」
「何にしても、この橋はありがてぇよ。この先に進むための相当な近道になるぜ。じゃあ、お前さんたちも気を付けて頑張ってくれよ。また会うかもしれねぇが」
そう言い残して、ドランさんは仲間たちと一緒に橋を渡り、行ってしまった。
「僕たちも行きましょう。〈失せ物探し〉の反応的に、もうそれほど遠くはないはずです」
さらに進んでいくと、次第に溶岩の割合が増加し、それに伴って熱さも増していった。
ドオオオンッ!
「また噴き上がったのだ!? いててててっ!」
しかも時々、溶岩が噴き上がって、こちらに降り注いでくる。
〈冷房〉の効果で落ちてくるまでに冷え、熱さこそ収まっているものの、石の塊が降ってくるため当たるとかなり痛い。
「もしかしたらさっき覚えたばかりの魔法が使えるかも? 〈護身〉!」
みんなに新しい生活魔法〈護身〉を使用してみる。
すると石の塊が、身体に当たる直前に弾かれるようになった。
「〈護身〉っていって、名前の通り身を守れる魔法のようです」
「それがあればどんなダメージも心配ないということなのだ!?」
「いえ、さすがに一定以上のダメージを受けたら効果が切れると思います。あくまで生活魔法ですし、気休め程度に考えてください」
実際にどれくらいまで耐えられるのかは、後日またドレアルで人体実験してみよう。
「それにしても、ぜんぜん動いてないみたいなのは気になるなぁ……」
「どうかしたんですの?」
「〈失せ物探し〉の反応的に、対象がまったく移動してなさそうなんです。それがちょっと気になってて」
「確かにおかしいですわね。素材を探し回っているのであれば、あまり同じ場所に留まり続けることはないはずですの」
もちろん休息のために一時的に一か所に居続けることはあるだろうけど、僕たちがこのダンジョンに入ってすでに数時間が経過している。
安全な場所を見つけたとしても、あくまでダンジョンの中だし、そう何時間も休むものではない。
安全地帯なら話は別だけど、生憎ここは安全地帯が存在しないダンジョンらしい。
「……ひひひ……死んでる……かも」
「カーミラさん、縁起でもないこと言わないでください」
「大丈夫……死体さえあれば……アンデッドにして……鍛冶もできる……ひひひ……」
……とにかく生きていることを祈ろう。
そうしてさらに進んでいくと、何かが激しくぶつかるような音が響いてきた。
よく聞くと怒号や叫び声も混じっている。
「魔物と戦っているみたいですわ!」
「さっきのドワーフたちなのだ!」
ドランさんたちだった。
魔物の群れと交戦中のようだけれど、明らかに苦戦している。
「がぁっ!?」
「ドラン! くっ……ダメだ! 数が多くて近づけねぇ!」
「一体でも厄介な相手だってのによ……っ!」
魔物の数がとにかく多いのだ。
岩の身体を持つ蜘蛛の魔物なのだけれど、それが何十体といて、しかも奥の方からまだうじゃうじゃと湧いてきている。
「昆虫系の魔物なら……〈虫よけ〉!」
次の瞬間、交戦中だったロックスパイダーたちが、文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「た、助かったのか……?」
「一体何が?」
「っ……彼らはもしや……」
安堵の息を吐くドランさんたちに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「やつらが逃げてったのは、お前さんたちの仕業か?」
「はい。僕の生活魔法です。……怪我されてるみたいですね。ついでに〈痛み止め〉!」
「っ……身体の傷が一瞬で……?」
「今のも生活魔法です」
「同族で使えるやつがぜんぜんいないから知らなかったが、生活魔法ってすごいんだな」
「……彼が規格外なだけですわ」
ちなみにドワーフはあまり魔法が得意ではない種族らしい。
黄魔法の使い手だけはそこそこいるみたいだけど。
「とにかく助かったぜ。まさか、ロックスパイダーがこんなに大発生してるとは思わなくてよ」
「この先にもっとたくさんいそうですね」
〈注意報〉の反応によると、先ほど交戦していた岩の蜘蛛を遥かに凌駕する数がいるようだ。
「ああ、実はそうなんだ。この先にどうやらやつらの巣があるみたいでよ、そうとも知らずにうっかり近づいちまってな。慌てて逃げたが追いつかれて囲まれて、お前さんたちが来てくれなきゃ今頃は確実に全滅してたぜ。本当に儂らの命の恩人だ。今度ぜひ美味い酒でも奢らせてくれ。もちろん感謝の胴上げもな」
感謝の気持ちを伝えるとき、みんなで寄ってたかって空中に放り投げる文化がドワーフにはあるらしい。
怪力な彼らに投げられると、時には十メートル以上も空を舞うのだとか。
「ど、胴上げは遠慮しておきます……」
「はっはっは、遠慮しなくていいぜ!」
遠慮とかじゃないんだけどなぁ。
「さすがに迂回した方がよさそうですわね」
「いえ、それが、そういうわけにはいかないんです」
話を戻したローザさんに、僕は首を振って、
「実は〈失せ物探し〉の反応が、まさにその巣の中にあるみたいなんです」
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