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楽園〈エデン〉〜才能無しと言われた少年が失われた才能を継承する〜  作者: SS神威


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エピソード 34 潜入

 ベルナルは死神と呼ばれている。

サントルクラフトでは死神は悪の対象とされていた。

それはライブプレスト王国でも大きく変わることはない。


 世間では無差別に人を殺す化け物とされているが最近では無差別ではなく奴隷商絡みの人を殺しているという話が定説になりつつある。


 それにより、一部の奴隷制度反対を支持する人々にとってはカルト的な人気がある。

しかし死神がどういう人物で、本名は誰なのか理解している者は少ない。

そう、自分とダイナ以外は。



「くぅーーいてぇー」


 目に斬撃が飛びラインは手で抑える。


「最初よりマシだが精度が甘い、青の世界に入った状態で魔法を使えるようにしろ」


(わざわざ言われなくても分かってるわ!しかも目ばかり執拗に狙いやがって)


「なんで毎回、毎回、目を狙うんですか?目が見えなくなったらどうするつもりですか!!」


「ヒカイト人なら目は傷ついても大丈夫だ、慣れろ」


(何言ってんだコイツ?目が一番大事だろ、やっぱりベルナルはイカれてるわ)


 ラインはそう思うが口には出さない。


「はい、はい、分かりましたよ、頑張って慣れますよ」


 ラインは片目を閉じながら家に戻る。涙と痛みで目を開けれる状態ではなかった。


「今日の夜は私用でいないから飯はお前らで何とかしろ」


 ベルナルは定期的に出掛ける。1回出掛けたら2日、長い時は1週間いない時がある。


 最初は奴隷商殺しをやっていると思ったが王都の雰囲気を見ると死神の話は一切ない。酒場ではルーラ教会がきな臭い動きをしているという話で持ちきりだった。


「先週も全然家に帰ってきてないし、いつも何処に行ってるんですか?」


 ラインの純粋な疑問だった。普通なら子供を置いて1週間も家を空けたりしない。


 お金を置いていかない事もあり、稼がなければご飯を食べる事さえ出来ない、ハッキリ言って育児放棄である。


 まぁ、ベルナルは父でもなければ親戚でもない。何故自分達を面倒見てくれるのかは不明だが、明確な理由があるのだろう。


「俺は今、ルーラ教会の動向を調べてる、お前も気になるか?」


「まぁ一応は気にはなりますよ、街もソワソワしてる気がするし…」


 ルーラ教会対してラインは、最初こそ復讐心に燃えていたが今はあまりない。

毎日その日暮らしの様な生活で復讐心を燃やせる余裕がなかった。

誰かさんが飯もつくらず急に家を空けるからね!


「今からライブプレスト王国の城に潜入しようと思ってるがお前もついてくるか?」


(めちゃ気になる!潜入捜査みたいじゃん)


 ラインはルーラ教会が、戦闘奴隷や武器をかき集め出したという噂を気にしていた。

もしかしたらライブプレスト王国にも関係があるかも知れない。


 そして何より異世界のお城には一度は訪れてみたい!


「ぜひぜひついていきます!」


「ねぇ、ねぇライン何話してるの?王都に行くなら私も行くよ!」


 いつの間にか後ろで聞いていたダイナが顔を出す。


「ダイナは留守番だ、ダークエルフは目立つ、今回は俺とラインで行く」


「まだ何も聞いてないのにコソコソして二人だけズルい!」


 ダイナはしょんぼりするがベルナルは気にせず身支度をする。


 確かにダークエルフは珍しい。街中でも目立つのに城なら尚更だ、連れて行くのはまずいだろう。しかしダイナは顔を膨らせて露骨に拗ねる。


「そうやっていつもいつも私だけ仲間外れにしてさ…酷いよライン」


(あぁぁ、これはまずい、このモードはマズイ、

今何とかしないと後々面倒くさい事になっちゃう)


「今まで仲間外れなんて1回もした事でないでしょ、今回が初めてじゃん!!次は一緒に連れて行くから今回は許して」


 ラインは顔の前で手を合わせ頭を下げる。


「絶対!絶対だからね」


 ダイナの機嫌を完全に損ねる前にラインはカバーした。カバーが少しでも遅れたら2日は口聞いてもらえなかっただろう。


(なんか最近ダイナのご機嫌ばかり気にしてるな…)


「時間がない、もう行くぞ」


 ベルナルに呼ばれ服を着替える。玄関には革製出来た茶色の洋服が置かれていた。数秒経ってこれに着替ろという意味だと理解する。


「お前も持て」


 ベルナルの足元には大きな籠があった。中には沢山の槍が入っている。


「重っ!何ですかこれ?」


「武器商人として城に入る、手続きはもう済んだ、いいから黙って持ってろ」


(すげぇ重いな、城まで辿り着けるかこれ?ベルナルは楽そうに持っているし、本当にヒカイト人かよ)


 ラインは重い槍の入った籠を背負い山下りを始めた。城は一番北にあるので途方もない時間が掛かる。

 

(コレもう修行だろ…)

 


1時間後…



「ぜぇはぁ、はぁ、はぁ、ぐぷぅ、うっ…」


「城の中で吐いたら殺すぞ」


 ラインは珍しくバテていた。顔を真っ青にさせ今にも昼食べたパンが戻ってきそうである。


 体力には自信を持っていたラインだが、それは長距離を走るのが得意なだけであり、重い物を背負いながら長時間歩くのとは別な筋力が必要だった。

 

(全くペース合わせない癖によく言うよ、協調性なさ過ぎだろ)

 

「息を整えろ、城に入ったら怪しまれるぞ」


(だったら少し待ってよ、せっかちすぎるだろ)


 そう思ったがラインは喋る気力もなく言われるがままだった。


 ライブプレスト王国の城は白い石壁に、青色に塗られた屋根の塔が3つそびえ立っている。

城の周りは水で囲まれており、城門からしか入れない様になっている。


 城自体は大きくはないが、城と同じ敷地に王国軍の施設が隣接されていた。訓練場や宿舎が見え多くの兵士が忙しく動いている。


 ベルナルが城門にいる二人の門兵に声を掛けた。


「マルクトだ、依頼されていた例のモノを持ってきた、入れてくれ」


 それを聞いた兵士がいきなり身体検査を始める。兵士二人が身体を隅々まで触り、怪しいモノが無いか確認する。


「では此方へ、ついて来なさい」


 簡単な身体検査が終わり、城の中に案内された。門兵の後ろに並ぶ形で城を歩く。

 

 城の中は、意外にも煌びやかな装飾品はなく、利便性に特化した造りになっていた。


「ここまで多くの槍を仕入れるのは初めてだ、何かあったのか?」


「君等には関係の無い話ですので」


「色んなツテを伝って掻き集めて来たんだ、少しは教えて貰いたいのだが」


「正直に言えば、軍の末端に位置する私共は知る由もありません、知りたいのならマテオ様に直接聞いて下さい」


 門兵はそう言うと武器庫の前で止まった。門兵がノックをする。


「マテオ副隊長、武器商人を連れて参りました」


「クソッ、数が一つ合わねぇ、こんな羽目ならハイセンに押し付つけてしまえば楽だったのによ」


 マテオは武器商人に受注した数と仕入れた数が合わず、苛立ちを隠せずにいた。武器庫の中には大量の武器が置かれており、その殆どが槍だった。


「武器商人のマルクトだ、槍をどこに置けば良い?」


 ベルナルの声に見向きもせず、返事をする。


「今は忙しいんだ、適当に置け、後でハイセンに仕分けさせる」


「こんなに槍があると思わなかった、まだ足りないのか?」


「そんなの俺は知らねぇよ、何を考えるか分かんねぇエリオットが言い出した事だ」


「ほう、エリオットが考えたのか…」


「いつもいつもいきなりなんだよ、頭で思い付いたなら一回相談しろってんだ!なぁ、門兵もそう思うだろ・・・誰だお前?」


「武器商人のマルクトだ、さっきも教えたぞ」


「今の話聞いてたか…」


「あぁ、勿論だ」


「門兵!早くコイツを外にツマミ出せ、あと、マルクトだか何だか知らねぇけど、さっきの話は他言するなよ」


「俺の取り柄は口の固さだ、安心しろ」


 ベルナルとラインは門兵の案内で来た道を引き返す。


「まだ、情報が足りないな」


 ベルナルが城の廊下を歩く途中で、独り言の様に言った。


「おい、耳を貸せ」


??

 

 ベルナルに小声で話しかけられたのでラインは近くに寄る。


「情報を掴んでこい」


 ベルナルはそう言ってラインの腹を蹴った。


!?


「ウゴォオ!?うぅ…オエェーーー」


 ラインの頭は一瞬で真っ白になり、腹に激痛と昼食べたパンが元気よく戻ってきた!


「おい、おい、どうした?だから道端で生えてるキノコは食うなってあれ程言ったってのに」


 ベルナルはここ一番でベテラン俳優の様な演技を披露し、ラインが食あたりを引き起こした様に背中をさする。


「待った待った、絨毯を新しく取り替えたばかりなんだ、これ以上吐くならトイレに行ってくれ!」


「すまないな、俺の連れが昼食べたキノコに当たってしまった様だ、トイレの場所を教えて貰えるか?」


「ここを突き当たりまで真っすぐ行って左だ、さぁ、匂いが移る前に早く行ってくれ」


 門兵は鼻を摘んでいる。ベルナルはラインを背負ってトイレに駆け込んだ。



(絶対殺す、結局自分の事も道具としか考えてないんだ、帰ったら死神を殺してライブプレスト王国に首を突き出してやる!!)



「オヴェェェェーーー!!」


 ラインは胃液と共に怒りがこみ上げてきた。10分の格闘の末、全部出し切ったラインは視界良好になる。


 トイレに出るとベルナルと門兵はいない、多分ラインが気持ち悪かったのだろう、それか廊下で吐いてしまったパン達を片付けているに違いない。

不本意ながらベルナルの作戦は成功し、ラインはフリーになった。


 行く宛もないのでラインはフラフラ歩く。少し歩くと食糧庫があった。顔を半分だけ出して中の様子を見る。

食糧庫の中は、肉や魚といった生モノは無く、豆、パン、干したジャガイモなどが多く貯蓄されていた。


「う〜ん、きな臭いな、やっぱり戦ッ」


「君はあまり見掛けない顔だね?」


!!


 後ろを振り返ると短髪の男がいた。年齢は30歳手前に見える。


「あの…道に迷ってしまって城門はどちらですか?」


「城門はここから逆方向だね」


 若い短髪の男は穏やかな表情をしているが目の奥の瞳は濁っていた。独特の雰囲気がラインを居辛くさせる。


「教えくれてありがとう御座います、もう帰りますね、では」


 お辞儀だけしてそそくさと帰ろうとするが腕を掴まれる。


「待った、それより君はなんでこの城に居るの?もしかして泥棒かな?」


「いやいや、そ、そんな訳ないじゃないですか!ただの武器商人ですよ」


 泥棒では無いが疚しい行動をしていると自覚があるので不自然な態度を取ってしまう。誰がどう見ても怪しい。


「ふ〜ん…」


 短髪の男は、ラインの反応に黙り吟味している。最初の緩い雰囲気から品定めしている目に変わって背筋が凍る。


 そして・・・キラッ!!


「君の目は珍しいね、生まれつきなのかな?」


「め、珍しいですか?自分的には黒の一般的な目だと思うんですけど…」


「でも私が腕を掴んだ時に光った様に見えたけど?」


「み、見間違いでは?眼が蒼くなるなんて聞いた事無いですよ」


「私は青なんて一言も言ってないよ」


「うぅ・・・」


「ホラ!今光ったよ」 


ギグッ!


(なんで?魔力を逃がしたつもりなのに!)


「ハハハハ、ごめん嘘だよ、でも今は両眼光ってるから君も噓つきだね」


「う…何を言ってるかさっぱり」


「目が光るのはマハト人の特徴だもんね」


「マハト人?何言って…」


「ホラ、また光った、君は動揺するとすぐ光るみたいだ」


(カマかけられてる??)


「すみません、お父さんが待ってるので離して貰えますか」


「君には青の世界が見えるみたいだね、死神に教えてもらったのかな」


「あ…青の世界?死神って何の話です?」


ニィタァ


 短髪の男はラインの顔を見て笑った。気味の悪い笑顔だった。そして何かを悟る様に


「蒼い眼は私の見間違いだったようだね、疑って悪かった、もう帰っていいよ」


 短髪の男は興味を無くした様にラインの腕を離す。ラインの額には汗が滲み出ている。



 城門に着くと、気怠そうにベルナルが待っていた。


「遅かったな、帰るぞ」

 

 ベルナルが満足気な表情をしていた。ラインは今あった経緯を簡潔に話す。


「だから俺は動揺する度に眼が光る癖を無くせって言ったんだ」


ショボーン


「はい、すみません」


「まぁいい、ミスを咎めても過去は変わらん。それにお前が注意を引きつけた時間で大体この国の現状が分かった、よって今回は許してやる」


「ごめんなさい、それで結局何を調べたんですか?」


「まだお前には早い、自分の眼すら制御出来ない甘ちゃんにはな」

 

 ベルナルはラインの頭をワシャワシャして、話を誤魔化そうとする。


「ちょ、ちょっと辞めてくださいよ!人の腹を蹴っといて情報を共有しないのはズルいですよ」

 

 ラインは詰め寄り追及する。ハッキリ言ってくれなければ夜も寝れず考えてしまう。


「強いて言うならお前が話した相手はエリオットという男だ、城でベラベラ喋るやつはソイツしかいない」


「そのエリオットってどんな人ですか?」


「昔一度な…今は成長して王国軍二番隊隊長になった男だ、変人だが頭は相当キレるという噂だ。それにエリオットが青の世界の情報を知っていても痛手にはならん」


「何故です?てっきり青の世界は自分達だけの機密情報かと思っていました」


「国を動かす奴は皆知ってる、今考えるべきなのはライブプレスト王国の現状と世界情勢だ。何故ルーラ教会とライブプレスト王国が武器を掻き集めだしたのか?後は自分で考えろ、これは俺からの宿題だ」


(宿題か…懐かしいな)


 前世での宿題は義務でやっていた、なんとなくある未来の為に。

クリスタル学校に通っていた時は、しょうがなくやっていた、母に怒られないために。

ラインは前世も含めて嫌々宿題をしていたが、しかし今出された宿題は興味がある。


 しかもベルナルに宿題を出されたのが何故か嬉しい。不器用なりに自分を成長させようとしているかも知れない。


「分かりました、後は自分で考えます」


 夕日が昇り光が眩しい。最後の悪足搔きの様な熱射が二人を暑くさせる。

ラインとベルナルは横並びになりながら足を運び、後ろに二つの影が後を追う。

帰る場所は一つだ。


「お前は着実に強くなってる、自信を持て」


「いきなり褒めるなんて腹でも下しちゃいました?」


「いいから茶化さず黙って聞け!昔俺には弟子が居た。お前と同じヒカイト人だ、だが俺が何度も教えても青の世界は見えなかった、そしていつの間にか俺の前から消えた、今思えば教え方が悪かったかも知れん」


「今も悪いですよ」


「ふざけんな、今はめちゃめちゃ上手いだろ」


「はいはい、そうですね、ベルナルのお陰で人生救われたと思ってます」


「生意気だな、だがお前は優秀だ、他の誰よりも才能がある」


 夕日は熱くて胸が熱い。なんで今日に限ってここまで褒めてくれるのか分からないがそれでも素直に嬉しい。


 親にも期待されていなかった戦う才能をベルナルだけは期待してくれる。期待は嬉しいし重い。重いと辛い。でも今度こそは応えたいと願って立ち上がる。修業はその繰り返しで…


「俺達には、青の世界の他に二つの世界がある。もし三つ目の世界を拝めたら人生が変わるぞ」


「そんなに凄い才能なんですか?」


「あぁ、俺は辿り着いて人生が激変した。良くも悪くもな、だが後悔はない」


「抽象的ですね、イメージが湧きませんよ」


「だろうな、才能を極めた続けた者だけが訪れる境地だから抽象的にもなる」


「何で自分の面倒を見てくれるんですか?」


「知らん、とにかく死に物狂いで俺について来い」


 夕日で眩しいベルナルの顔は笑っている様に見えた。

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