9 片っ端からぁ、永眠させてやんよぉ
三層まで来て思ったのだが、このダンジョンに出現する魔物は、すべて動物系なのかもしれない。
最低三体で行動をともにするらしい連携に長けた猟犬『ブラックハウンド』、口から火を吹く牛『カルコタウルス』、でっぷり太った豚頭人体『オーク』、返り血を浴びたような毛色が特徴の凶暴な熊『キラーベア』などなど。
見事なまでに動物ベースの魔物たちばかりだった。
◇
四層に下りてくると、魔物がまた一段、強くなった。
けれども、やっぱり私も強くなっている。
相も変わらず通路上でぐでーっとしている同志に近づき、アクティブ化させて、棍棒で撲殺する。
「…………」
次々と、淡々と、ひたすら殴り殺していく。蹴り殺していく。
血がしぶき、死体が靄となって消え、アイテムが落ちる。
それを、ひたすらに繰り返していく。
◇
「……ふふ、ふふふ、ふふふふふ……私の前でぇ、これみよがしにぃ、ぐーたらを満喫してる悪い子はぁ、どぉこぉだぁ〜?」
『どこダも何も、全員だロウ』
ふらふらと近寄りアクティブ化させた、たくましい体格の人型だが手足に蹄があって頭は牛の『ミノタウロス』を、何度目かの殴打で沈める。
ものすごく頑丈でタフだった。
「片っ端からぁ、永眠させてやんよぉ……」
『ソレはかまわんガ、相当キテるナ、オマエ。普通に怖いんダが。ちょット休んダほうがイイ。いヤ、だいぶ休め』
「えぇ、休むぅ~? あははっ、そんな暇ぁ、あるわけないでしょぉ~?」
すぐに、次の魔物をアクティブ化させる。
「私はぁ、私を差し置いてぐーたらしてるうらやま死ねなあんちくしょうどもを駆逐しなきゃいけないんだからぁ、あはっ、あはははははっ」
鬼のような形相で向かってくる、二足歩行の狼型魔物『ルーガルー』の爪攻撃をいなし、棍棒を叩き込む。
棍棒は相手の腹を打つも、筋肉が相当分厚いのか、わずかに体が揺れただけですぐさま立て直し、逆の爪が振るわれる。
『……いヤ、マジで怖いかラ、いいかげン休んデくれ。もう五日ダゾ? 一睡もしてナイじゃナイか』
「へぇぇ、もうそんなに経ったんだねぇ~あははぁっ」
それを紙一重で回避し、バク転で一度、距離を取って、地面を蹴る。
再三、鋭く振り下ろされる凶悪な爪が私を斬り裂くことはなく、滑るようにして移動した私は、ルーガルーの頭部めがけて棍棒を振り下ろした。
今度こそ完全に体勢を崩した機を逃さず、これでもかとめった打ちにする。
めっためたの、めっためた打ちにする。
『そうやッテ当たり散らスくらいに、ぐーたらしタいのダロウ? ならバ、すればイイ。奴らと一緒にナ。安心シロ、ここの魔物ハ、オマエも知ッテのトおり、近づきさえしナけれバ襲ッテはこないカラ、寝込みを襲撃されル心配もナイ』
殴って殴って、ひたすら殴りまくる。
そのたびにしっかりと赤い血が舞い、棍棒が血にまみれる。
抗う余地もなく殴られ続けたルーガルーは、やがてピクリとも動かなくなり、ドロップアイテムへと変わった。
「……あんたが、それを言うんだ?」
牙と爪だ。いらない。次。
「私から幸せいっぱいのぐーたら生活を理不尽に奪ったあんたが? ねぇ? そんな奴が、それを私に言うの? ねぇねぇ、非道な邪神サマ?」
『…………とにかク休め。そンな状態じゃ、オマエが永眠するコトになるゾ』
「ふん。問題ないよ。早く元のぐーたら生活に戻れるなら、フル戦闘の五徹でも十徹でもどんとこいだよ」
なんて、そのときは強がってみたものの、それから数時間ほどで限界がきた。
さすがに、ほぼフル戦闘での十徹は無理があったようだ。
けど、もっと存在位階が上がればいける気がする。
『休め休め。急いテは事を仕損じル、と言うダロウ』
「なんでそんなことわざ知ってんの……って愚問か」
この世界にもあるのかもしれないけど、向こうの世界の、私のゲームデータを引っ張ってこれる邪神だ。ほかに何を引っ張ってきててもおかしくはない。
何より、それを追求している気力も、いまの私にはなかった。
少し寝よう。
「……ねぇ」
『なんダ』
「私を絆して、どうする気?」
『ハァ? いきナり何を言い出すんダ』
「あんたが本気で私の心配をしてるみたいだから、そんなの、天地がひっくり返ったってありえないじゃん。だから、どうせまた何か企んでるんだと思って」
『オマエは本当に失礼な奴ダナ』
「それはお互いさまでしょ」
常識かのようにもとの容姿を貶されたこと、忘れてないぞ。
『オマエが自分で言い当てテいたダロウ。オマエに死なレると俺が困ル。ほかを見繕ウのも面倒だしナ。心配すルのも当然ダ』
さらっととんでもない外道を発揮したよこいつ。邪神だよ。
『あト、疲労でラリったオマエが純粋に怖かっタ』
……たしかに、ちょっとばかしテンションがおかしなことになってたのは、認めよう。でも、それだけなら上辺だけそれっぽくすればいい話だ。
けどまぁ、どんな企みがあるにせよ、邪神が本当のことを言うわけもない。
不毛なことを口にしてしまった。つい口をついて出てしまったのだ。あまりにも不気味だったものだから。
とにかく、いまは休もう。




