8 エナポ祭りでブラック推奨
それからしばらくは、アイテムドロップで〈治癒ポーション〉が落ちた。
下級ばかりだが、いまのところ怪我を治せる唯一のアイテムだ。
あればあるほどいい。安心できる。
〈治癒ポーション〉などのアイテム以外にも魔物素材がドロップしたが、それらは一部を除いて放置だ。
『いマは使い道がないモノも多いガ、魔物素材は売れバ金にナるゾ?』
たしかに、この手のものをほしがる人間はいるだろう。
しかしそれが地球の生物のものじゃないとわかったとき、どんなことになるかは考えるまでもない。
といっても、邪神が言っているのはそっちではなく、邪神やこのダンジョンが属している世界で、ということだろう。
「いらないよ。攻略したら帰るんだし、荷物になるだけだから」
売る予定がないのだから、わざわざ不要な荷物を抱える必要はない。
『――。そうカ』
「なに、なんかいま、変な間なかった?」
『いヤ、気のせいダロウ』
「ふぅん?」
よくわからないけれど、まぁいい。
邪神と余計な話をしている暇があるなら、とにかく魔物を狩る。
有用なアイテムを回収していくことも大事だけど、それ以上に大事なのは存在位階を上げることだ。
現時点でも、いくつか上がっている。
劇的というほどではないが、さすが存在の位階が上がるというだけあって、もろもろの能力が上昇していっている実感はあった。
邪神が言うには、このダンジョンは全部で十階層あるらしい。
意外と少ないんだなと思ったが、その分というべきか、一つの階層がかなり広く作られていて、また通路もたくさんあり、相当に入り組んでいるそうだ。
そしてこれは私の知っている一般的なダンジョンと同様、下に行くほど魔物は強くなっていく。
もともと私は、ゲームではコツコツレベル上げをして、かなりの安全マージンを稼いでから、次のエリアに移動するなりボスを倒すなりするタイプだ。
たとえゲームでだって、そうそう死にたくはない。
本当に死ぬわけじゃなくても、やっぱり死ぬのは怖いものだから。
だから、レベルが上がるほど非効率になっていくとわかっていても、限界までコツコツと小さな経験値を積み重ねていく。そうしてかなりのレベル的余裕をもってボスに、そして次のエリアへと臨む。
ここ、リアルでも同じだ。いや、リアルだからこそ、なおのこと執拗に、これでもかと安全マージンを取る。
絶対に死にたくないから。
痛いのもごめんだから。
そして、宝箱のアイテムの取りこぼしもしたくないから、魔物と戦いながらフロアのすみずみまで足を運ぶ。
やるなら徹底的にだ。
「――おっ」
もう何体目かもわからない魔物を殴り倒し、アイテムがドロップする。
それはすでに見慣れた形の小瓶だが、中に入っている液体の色が違った。
「緑だ。これはなんのポーション?」
『〈エナジーポーション〉だナ。飲むと意識が覚醒し、集中力が増す』
「カフェインで無理やり体を動かせって?」
それから、〈治癒ポーション〉のときと同じように、今度は〈エナジーポーション〉が立て続けにドロップした。
〈エナジーポーション〉ばっかり、ドロップした。
〈治癒ポーション〉よりもたくさん、ドロップした。
「なに、不眠不休で攻略を頑張れって? ブラック推奨?」
いやまぁ、頑張るけども。
こんなダンジョンさっさと攻略して、元のぐーたら生活に戻るんだ!
ちなみに〈エナジーポーション〉はとても薄いエナジードリンクの味がした。不思議だ。
エナドリもフレーバーはいろいろとあるけど、エナジー系の飲み物はどの世界でもこれが基本の味なのだろうか。
◇
それから私は、一層フロアを隅から隅まで回った。
見つけた宝箱は残さず全部開けて、必要なものだけを回収し、下へ行く階段も見つけて、なおもその近辺でリポップした魔物を狩る。
狩って狩って、狩りまくる。
そうしているうちに不思議と、ここの魔物の魂ではもうこれ以上、存在位階が上がらない――というより、効率がとんでもなく悪いのだろうことが感覚的にわかったので、あらためて階段を下りて二層へと進出した。
◇
二層に出現する魔物は一層とは種類が異なり、邪神の言っていたとおりに一段、強かった。
まぁ、相変わらず近づくまではぐーたらしてるけど。……うらやま憎い。
とはいえ、一層で徹底的に存在位階を上げ、ゲームでの動きをいまの肉体へと完璧に落とし込んだ私にとっては、一層のときと討伐難易度はそう変わらない。
敵は強くなったけど、私も同等に強くなっているということである。
多少の傷を負うことはあったが、どれもかすり傷だ。
いまのところ、まだ苦戦らしい苦戦はしていない。
「白い、粉……」
ドロップした謎の小袋。
口を開けて中身を確認してみれば、キラキラした白い粉末が詰まっていた。
「まさか危ない粉じゃないよね? エナポには頼っても、クスリはダメ絶対だよ」
『さすがにそンなモノはドロップしナイ。毒の粉なンかはアルがナ。ソレは〈プロープルパウダー〉ダ。振りかケたモノの汚れを落とシ、清潔にシテくれル』
「なにそれ神アイテムじゃん」
試しに一掴みして頭から振りかけてみた。
魔法的なアイテムゆえか粉っぽさはなく、すぐに消えてしまった。
「おぉっ! ほんとにきれいになってる!」
しかも、シャワーを浴びたようなすっきりとした爽快感まである。
神アイテムすぎない? ものぐさな人間にとって救済でしょこれ。ダンジョン攻略にもうってつけである。
この世界、便利なもの多いなぁ。
そんな便利アイテムを獲得しつつ、一層同様、フロアのすみずみまで探索し、宝箱を開けつつ、魔物をひたすら倒して存在位階を限界まで上げてから、三層へと下りる。
ちなみに、まだ武器はドロップしない。宝箱からも出ない。




