表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
1章 封罪宮『怠惰』攻略
7/140

7 順当にサバイバル道具がそろっていってるなぁ

 

 突進してくる、牙の長い猪の魔物『ファングボア』の肢を引っかけて転ばし、盛大に床の上を滑っていくのを追いかけ、立ち上がる暇を与えず棍棒でめった打ちにする。

 死体が消えて、ドロップアイテムが残る。


「これ、映画とかで見たことある。水袋、だっけ?」

『あァ。だが、普通の水袋でハないゾ。〈浄水袋〉と言ッテ、内部に『浄化』の効果が付与されテいル』


 汚水でも泥水でも、中に入れておけば飲み水に早変わりの優れものだ。優れものというか、優れすぎな代物だ。

 ただ、あまりに汚かったり猛毒だったりすると浄化しきれないそうだが。


「そうだよ、まずは水だよね」


 水がなければ人は生きていけない。

 一番大事な部分が抜け落ちていた。

 あ、でも……


「肝心の水はあるの?」

『探せバ、どの階層にモ湧き水がアルはずダ』


 それは朗報だ。見つけたらこまめに補充していこう。


 そのあとで〈布ザック〉がドロップした。

 布製のナップサックで、作りはちゃっちいし容量もさほど大きくないが、これもありがたかった。

 そろそろドロップ品を手に持って歩くのが難しく、また面倒に思い始めてきたところだったから。


 また〈鉄串〉なんてのも出た。普通の、まっすぐな鉄製の串だ。

 これも暗器的な使い方ができそうだけど、メインは肉を焼く用かな。

 とういか……


「なんか順当にサバイバル道具がそろっていってるなぁ。いやまぁ、偶然なんだろうけどさ」


 ダンジョンの浅い層だし、こんなものだと言われればそれまでだ。

 ご都合っぽくて、ちょっと気持ち悪いけど。


『いヤ、あながち偶然でも、ご都合でもナイゾ』

「え、そうなの?」

『ダンジョンは人々の欲望と情念から作らレルとされテいル。人の根底にアル恐怖や暴力性が魔物を、果てのナイ欲望がドロップアイテムや宝箱を、といッタ具合ダナ。ここは少々特殊ダが、本質自体は変わらナイ』

「へぇー」


 面白いものだな。

 人は己の欲を満たすためにダンジョンに入り、自分たちから出た恐怖と暴力性に殺される、かもしれないってことか。


 そして、ダンジョン内に入った者の深層心理にある欲も溶け出していくため、その人がいま欲しているもの、あるいはそれに類するものがドロップすることもあるそうだ。


「それなら、いま私が一番欲しているのは、まともな武器だと思うんだ」

『仕方あルまイ。武装のドロップは、もとよりレア度が高いのダからナ』


 ちぇっ。


 ◇


 ひたすらに魔物をアクティブ化させて狩りながら、先へと進む。


 魔物との戦いも、最初のうちはやっぱり現実味が薄かった。

 この状況自体にまずリアリティがないし、邪神のはからいでゲームのアバターと同じ姿になっているから感覚もさほど変わらない。

 これで現実味を持てというほうが難しいと思う。


 出現する魔物がわりとオーソドックスな、ゲーム中と似たモンスターだったこともあるし、武器が棍棒でも苦戦するほどの強さの魔物がいなかったこと、怠惰の性質から複数体に囲まれる状況にならないというのも、それに拍車をかけていた。


 けれど、少しヘマをして、初めて攻撃を食らった際に強く思い知らされた。


 ゲームにはなかったもの――それは痛みだ。


 ゲームではダメージを負ったとき、痺れのような不快感は与えられていたが、そこに痛みはなかった。

 古来より夢かどうか頬をつねって確認するように、痛みの有無は、虚構と現実を区別する方法としてこれ以上はない。


 視覚的にも、これがゲームでも夢でもないことを残酷なまでに知らしめてくる。皮膚が割れ、肉が裂け、血が流れる。

 あぁ……これは、間違いなくリアルだ。


 そしてその段にいたって、私は初めて実感を得たのだ。

 心臓か頭を潰されれば、大抵の生物は死ぬ。致命傷を受ければ、まもなく死ぬ。だが、そうでなくても死ねるのだ。


 怪我をし、止血できなければ、出血で死んでしまう。

 出血を止められたとしても、治療どころか消毒さえできなければ、傷口にばい菌が入って腐り、体内を菌に侵され死にいたることだってある。


 それを防ぐための道具や薬を、私は何も持っていなかった。

 邪神も作ったりしてくれなかったし。


 ただ本当に幸いだったのは、この世界がゲーム的ファンタジー世界であったことと、ここがアイテムドロップのあるダンジョンであったことだ。


「――ギャベェッ!?」


 壁へと叩きつけられたコボルトの、力を失った毛むくじゃらの体がどしゃりと地面に落ちる。

 その死体が靄となって消えたあとには、小さな瓶が転がっていた。

 小瓶の中には青い液体が入っている。


「これって、もしかしてポーションじゃない?」

『あァ。〈下級治癒ポーション〉ダナ』

「おおっ!」


 邪神の説明によると、この世界の〈治癒ポーション〉は、体力を回復させ、保持し、自己治癒力を高めるというものらしい。

 治癒速度には個人差があり、ポーションの等級にもよるが、ゲームみたいに即座に治るという代物ではない。

 ものによっては病気にも効果があるそうだ。


 これで多少、怪我をしても死ぬ確率は低くなった。

 まぁ、怪我が治せるといっても、やっぱり痛いのは嫌だから、攻撃は死ぬ気で回避とパリィをしていく所存だけれど。


 ちなみに〈治癒ポーション〉はレモン水みたいな爽やかな味がした。

 よかった。傷は治すけどものすごく不味い、とかじゃなくて。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ