第8話
カーテンの隙間から日の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。どうやら朝のようだ。結局、一睡もしなかった。夜通し考えていたためか、少し眩暈がする。
しばらくすると侍女の集団と衛兵がやってきて、交代で不寝番のものたちが下がっていった。
そしてやってきた侍女たちによってカーテンが開けられ、朝の準備がされていくのを、私は天蓋越しに見ていた。
「さぁ姫様、おきましょうね」
朝の準備が終わると、侍女が優しく起こしに来た。私は目を瞑り寝たふりをする。
侍女が私の肩に触れた。
(そういえば、この幼女の寝起きは良いのだろうか?)
なるべく、今までの行動に合わせたほうがよいだろう。さもないと、また悪魔付き騒ぎが起きるかもしれない。一度やらかしてしまったので、次からは些細なことでも騒ぎになるかもしれない。
私は記憶を探る。だが、分からなかった。
(幼女に、自分の寝起きの良しあしがわかるわけないか……しかたがない、今日はこのまま起きたふりをするとして、おはようと挨拶はするのだろうか?)
わからないことだらけだ。とりあえず寝ぼけながら起きるふりをした。
「う~ん……ふにゃ~」
本当に、こんな寝ぼけたセリフを言うのだろうか? 他に思いつかなかったため、とりあえずこう言うしかなかった。
そして私はゆっくりと目を開ける。
侍女と目が合った。まだ若い侍女だった。彼女の目にゆっくりと戸惑いの色が見えてくる。
そしてすぐさま立ち上がると、扉へと急いだ。
「誰か、クロッグ先生を今すぐ呼んで!」
侍女の叫び声が響いた。
またしても騒ぎになった。
(私はなにもしていないぞ。なぜ起きただけで、騒ぎになる?)
納得できなかったが、ここで騒ぐわけにはいかない。とりあえず何もせずに、寝台に座ったままじっとしていた。
叩き起こされたのであろう。寝ぼけた顔で、身なりがあまり整っていないクロッグ先生とアメリア侍従長がやってきた。
(なぜクロッグ先生だけでなく、アメリア侍従長もやってくるのだ? この人は私付きの侍従長なのか?)
だれがだれの直属だとか、そういったガルディック帝国の組織関係がわからないが、幼女がそんなことを聞くのはおかしいだろう。なんとかして、私に関係する人の情報だけでも得たいものだ。
あれこれ考えていると、クロッグ先生が私の前でしゃがんで、目線を合わせてくる。
「姫様、このようにお目目を開いてくださいね」
幼女にわかるようにクロッグ先生も目を大きく開いた。
「では姫様、少しお目目を触りますよ」
私がクロッグ先生を見つめながら目を見開くと、瞼を手でさらに開かされた。
そして、ルーペのような筒の道具で、私の両眼を観察する。きっと眼底まで見通せる魔道具なのだろう。
「姫様、このようにお目目をこすりましたか?」
クロッグ先生は目をこする真似をして、私に問いかけた。それで私は分かった。きっと一睡もしなかったため、目が充血していたのだろう。
(ここは、擦ったことにしたほうが良いのか? わからない……いやそうか、分からないときは、馬鹿な振りをすれば良いのだ)
私はこてっと首を傾げた。クロッグ先生には通じたようだ。
「わかりませんか……まあ悪魔付きの後ですから、目が充血することもあるでしょう」
独り言のように呟くと、鞄から目薬を出す。
「姫様、少し沁みますが頑張ってくださいね」
そう言って、私の瞼を抑え、目薬を点した。
(沁みるどころか、すっきりとして気持ちいい……)
目を瞑りながら目薬の清涼感に浸っていると、クロッグ先生が目薬をしまって立ち上がるのがわかった。
「アメリア殿、姫様の目の充血は、すぐに収まるでしょう。少ししたら目薬を拭ってください。では、私はこれで戻ります」
「ありがとうございます、クロッグ先生」
クロッグ先生が戻っていく。
どうやら効果の高い目薬のようで、私の目の熱っぽさは、すぐに収まった。
ちなみに、この世界の医療は、部分的には地球よりも進んでいる。魔法があるからだ。薬は魔法で合成され、怪我は魔法で治癒される。だからだろうか、生活習慣病については大変遅れている。脂肪肝などの臓器不全は魔法では癒せないのだ。その昔、脂肪除去の魔法に挑んだ医者がいたのだが、結果は相手を殺してしまった。脂肪だけではなく健全な細胞ごと消滅させてしまったのだ。魔力的な不適合で移植もできないため、それ以来、臓器不全は寿命でしたで済まされるようになった。
「姫様、さあ、お目目を開けましょうね」
侍女に促され、目を開ける。侍女がティッシュでさっと目薬を拭うと、アメリア侍従長が覗き込んできた。
「充血は収まりましたね。ではあなたたち、姫様に朝食を」
侍女たちに命令すると、アメリア侍従長もお付きの者たちと共に戻っていった。
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