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第7話

(あぁ……帰られてしまった……)


大司教一行が去っていく足音が、完全に聞こえなくなった。


私は、このまま寝たふりをすることにする。


今、目を開けたら略奪下種野郎に声をかけられるだろうし、私の姫と略奪下種野郎が並んでいるところを目にしてしまう。とても、そんなことには耐えられない。


目をつむっていると、二人の話し声が近づいてくる。そして二人の息を感じた。どうやら、二人で私の顔を覗き込んでいるようだ。


(姫様……)


私は、最後に姫と過ごしたひとときを思い出した。




私と姫は、レストランデ王国宮殿にある姫の自室のバルコニーでお茶をしていた。魔王討伐に赴く、私の見送りだった。


ガルディック帝国の皇太子を殺すと隊舎で公言してしまった私を、レストランデ王国としては正式に見送るわけにはいかない。そこで、姫様がお茶会を開いてくださったのだ。


(そういえば、そのお茶会で婚約が決まりそうだと話されていた……)


あのとき私は愚かにも「おめでとうございます」と言ってしまった。そのときの悲しそうに笑った姫の笑顔に引っかかるものを感じたが、下級貴族の私が姫の婚約に意見するわけにはいかない。だから魔王討伐から戻ったら聖騎士隊を辞し、不本意な婚約をする姫の護衛として支えようと決めたのだったが……


(まさか、相手が略奪下種野郎とは……)


知っていたら、力づくで止めた。例え極大魔法で何千、何万と殺そうとも……


そんな私の行動を見透かしていたからこそ、姫は相手が誰だか言わなかったのかもしれない。




私があれこれ考えていると、額にあたたかい手が触れた。


(これは姫様の手だ……)


私にはわかる。間違えるはずがない。


やさしく何度か撫でられた後、手が離れる。きっと私は微笑んでいるだろう。


「クスッ、エリスったら……」


姫の笑い声が聞こえ、気配が離れていく。


「エラストゴン様、戻りましょう」


「そうだな」


侍女に声をかけ、姫と略奪下種野郎が部屋を出ていくのがわかった。そして部屋の明かりが消され、あたりは暗闇に包まれた。




ようやく私は目を開けることができた。だが寝台から出るなどというような、派手な行動は出来なかった。なぜなら部屋の中には気配がいくつもある。そのいくつかは明らかに武の気配がする者たちだからだ。


私はこっそりと天蓋をめくって見る。彼らがいる所だけは、薄っすらと光が灯されていた。


(不寝番の侍女が三人と、衛兵が二人か……いくらなんでも多いが、当たり前か。悪魔付き騒動の後だから……)


しかたなく、そっと寝転がり、略奪下種野郎をどうすれば殺せるか考える。


(まず、今の魔力では到底無理だ……)


プラチナムドラゴンを発動することすらできないようでは、使える魔法の威力などたかがしれている。プラチナムドラゴンは常時展開型魔法だから、維持に魔力が必要なのだ。一瞬だけの発動なら、そこまで魔力は必要としない。


(まず、早急に魔力量を知る必要がある……)


できるだけ早く調べることにして、他の方法を考える。


(ナイフで刺し殺すにも、不意を突いてもこの幼女の力では無理だろう……)


あのような略奪下種野郎だろうと、ガルディック帝国の皇太子だ。単なる服を着ているわけがない。きっと、魔法で強化された服を着ているに違いない。


そもそも私には、魔王討伐という使命がある。私が殺したと、バレるわけにはいかない。例え皇女だとしても、父親殺しをしたら確実に幽閉される。そうなれば、魔王討伐どころではない。


(クッ、略奪下種野郎を殺すのは、魔王討伐の後にするしかないのか……)


成長すれば力も魔力も増える。皇女だから権力も手に入るだろう。十数年待てば、使える手段が劇的に増えるということだ。だが、


(それまで略奪下種野郎を、父親として扱わないといけないのか……)


魔王討伐の前に、私の精神が病みそうだ……


私は寝る気にならず、日が昇るまで布団の中で悩んでいた。

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