第11話
「姫様、新しく入った侍女でございます」
二十歳過ぎの若いお姉さん侍女が、十五歳ぐらいの少女である侍女を視線で促す。
「アマリエッタと申します、エリストレア皇女殿下。グランべード子爵家より参りました。週二日のみのお仕えとなりますが、誠心誠意お仕えいたします」
少し内気そうな顔を伏せながら、少女が私の前に跪く。子爵家だの週二日だの言われても、幼児が理解できるとは思えない。きっと最初に名前を言ったのは私向け、後はこの場にいる他の侍女たちへの自己紹介も含めた形式的なものだろう。
(バイト侍女か……)
この世界の侍女は二種類いる。正侍女と侍女補佐だ。前者は正社員みたいなもので、後者はアルバイトやパートみたいなものである。この少女の見た目からすると、まだどこかの学校に通っている学生なのだろう。週二日ということは、学校が休みの日のみ働きにくるということだ。ちなみに正侍女であろうと侍女補佐であろうと、宮殿仕えの侍女の応募条件は、貴族もしくはそれに準ずる名家の女性と決まっている。つまり派閥と権力者への取り入りが目当てで親に送り込まれてくる娘が多い。この娘も皇女である私か、もしくは他の誰かが目的でやってきたと思う。下級貴族ならば高い給金目当てのアルバイトとも考えられるが、中級貴族の娘がお小遣いに困ってアルバイトとは少し考えにくい。
(さて、なんて挨拶を返せばよいのだ……)
私は悩んだ。『あなたの忠義に期待します』では幼女の言葉としては不自然すぎる。しかも私は少々馬鹿な幼女らしい。今までの言動とあまりにズレた返しはできない。首を傾げ、馬鹿な振りをして、考える時間を稼いだ。
「あまりゅ?」
結局、これしか思いつかなかった。幼女が、自己紹介をされて返事をするとしたら、相手の名前ぐらいだろう。そして長い名前では呼ばないだろう。
「はい姫様、この者はアマリュですよ」
お姉さん侍女が、私の言葉をそのまま返す。勝手に名前をアマリュにされたバイト侍女の少女は、一瞬ポカーンと口を開けながら私を見てきたが、すぐさま顔を伏せ「アマリュでございます。どのようなことでもお申し付けください」と挨拶してきた。
(すまない……)
私は心の中で、この少女に誠心誠意謝罪した。
「私は魔王だ。娘よ、お主をさらっちゃうぞ~」
私は名前を知らないお姉さん侍女と、アマリエッタの三人で人形遊びを始めた。
お姉さん侍女が、熊ような動物、オルデスをデフォルメした可愛らしいぬいぐるみを魔王に見立て、私が持つ少女人形へと迫る。
(魔王は人さらいなど、しないのだがな……)
魔王軍は侵攻してくるだけだ。それを教会と各国より派遣された合同軍で撃退するのである。誘拐などという生易しいことは行われない。殺すか、殺されるかだ。
「待て、魔王!」
アマリエッタが手に持つうさぎのような動物、コールクのぬいぐるみは、私の少女人形を守る騎士役だ。登場と同時に魔王ぬいぐるみに体当たりをして吹き飛ばした。
(つまらない……)
私よりも、この侍女たちの方が楽しんでないか……
私は喜んだふりをしながら、しかたなく侍女たちの相手をした。
一時間後――
(疲れた……)
なぜ皇女の私が、侍女たちを接待しなくてはいけないのだ。お人形遊びから解放された私は、侍女たちが片付けるのを憂鬱に眺めていた。
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