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第12話

「姫様、おやつの時間ですよ」


 私は侍女に手を引かれ、幼児用テーブルに着いた。


(ガルディック帝国の皇女のおやつか……まぁ、幼児だから大したものではないだろう……)


 朝食で学んだ私は、あまり期待しないで運ばれてくるのを待った。




(なんだこれは……)


 それを見て私は唖然とした。クリーム、クリーム、クリームしか見えない。


「本日の午前のおやつは、パンケーキクリーム添えになります」


 侍女の説明に、私は首を傾げた。


(どこがクリーム添えなのだ……クリームしか、ないではないか……)


 私はスプーンを手に取った。ちなみに女神に食事の感謝を捧げるのは、ごはんの時だけである。おやつの時に捧げる習慣はない。


 私はスプーンを上から下まで一気に入れた。下の方まで入れたとき、パンケーキの感触を感じた。


 掬って、断面を見てみる。


(おかしいだろ、これは……)


 あまりのパンケーキとクリームの比率のおかしさに絶句した。


 パンケーキの厚みに対し、クリームの厚みは三倍近くある。幼児が食べるパンケーキだから厚みは薄いとはいえ、これでは生クリームパンケーキ添えだろう。主が逆になっている。


(ここの料理人は、なにを考えているのだ……)


 私は、しかたなくクリームを掬って食べ始めた。上品だが、やはり甘めのクリームだった。


 しかし私が幼児だからか、量が少ないため助かった。胃もたれせずに、食べ終えることができた。




「姫様、お絵かきをしましょうね」


 食べ終わると、侍女とともに今度はお絵かきの時間だった。


(なんだこれは、お絵かきというよりも塗り絵ではないか……)


 私はクレヨンを持たされ、ひまわりのようなセラードという花の塗り絵をさせられていた。


 私は色を塗りながら理解した。この年齢で、すでに教育が始まっていることを。


(人形遊びも、塗り絵も、情操教育か……)


 私はガルディック帝国の子供の教育姿勢にどこか感心しながら、色を塗っていく。


(それにしても、本当につまらないな……)


 せめて大人向けの細かい塗り絵だったら、まだ楽しめたのだが、幼児向けの単純な絵では、つまらなすぎる。


 しかし侍女の視線に気付き、私はその表情に焦った。侍女の顔は驚きに満ちていた。


 私は自分が塗っている絵を見る。すぐには、この侍女が何に驚いているのか分からなかった。だが、しばらく考えた後、ようやくわかった。


(綺麗に塗りすぎたか……)


 幼児が線からはみ出さずに塗るのは難しいだろう。私はしかたなく、不規則にクレヨンを動かし、線からはみ出しながら、塗り終えた。




(ストレスが……)


 まだ覚醒してから半日ぐらいしか経ってないが、もうこの生活にイライラしてきた。私にセクハラした略奪下種野郎が父親ということだけでも耐えられないのに、このつまらない幼女生活をしばらくの間送らなくてはならないかと思うと耐えられない。早急に私の姫様成分を補充することを考えなくては、ノイローゼーになるかもしれない。


 私は、苛立ちをなるべく顔に出さないように気を付けながら、幼児用のテーブルについていた。


 これから昼ご飯である。私はイライラしすぎていた。だからだろう、感情的になってしまった。


 食事が運ばれてきた。パンとサラダの食事だ。そしてまたもやデザートが付いている。デザートはチーズケーキ、そしてムッタという葡萄のような果実とヨーグルトの和え物だった。


 私はまともそうな食事に一度はホッと息を撫でおろし、いくつかあるパンのうち一つを手にとった。小さなロールパンを千切る。


「……」


 中かから甘い匂いがするジャムが出てきた。


(まさか……)


 ほかのパンも千切って中身を確認する。


 カスタードクリーム、チョコレートクリーム、木の実のペースト……すべてのパンが甘い匂いで溢れていた。


(何だこれは……)


 私は、甘い物尽くしの食事に手を付ける気になれなかった。


「さぁ、姫様が大好きなクリームパンですよ」


 食事の世話係の侍女が、クリームパンの片割れを手に持って押し付けてくる。


(ふざけるな……朝から甘い物、甘い物、甘い物……それしか食べてないではないか!)


「こんにゃの、くえりゅか。にゃく、くわしぇろ(こんなの、食えるか。肉、食わせろ)」


 私は、侍女を睨んでいた。


 その侍女は、始めは何を言われたのかわからないらしく、首を傾げていた。だが、だんだんと顔色が変わっていく。


「あ、悪魔……」


 ぽつりと呟くと、私から距離をとる。


「衛兵、衛兵、姫様が……姫様がぁぁぁ」


 何度目の大騒ぎか……


「はぁ……」


 私はやらかしたというより気持ちよりも、肉と言っただけで大騒ぎする侍女が馬鹿馬鹿しく思い、ため息をついた。

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