第9話
私は隣の部屋で寝間着を脱がされ、ドレスに着替えさせられた。このドレスの生地からすると、今の季節は初夏か夏の終わりか、どちらかだろう。ちなみに、ここは宮殿内だろうから、室温はエアコンのような魔道具で調整され、季節に関係なく快適であるはずだ。
私は着替えさせられると、小さな幼児用のテーブルに連れてかれ、座らされた。どうやら、一人で食べるようだ。下級貴族だったころは、給仕はいたが家族で揃って食べていたはずだ。やはり皇族王族ともなると、マナー練習のために子供の頃は一人で食べるのだろうか? それともガルディック帝国の慣習なのだろうか? わからないが、マリアテーゼ様と一緒に食べたいなどど我が儘を言うのは、今はよそう。そう、今はだ。そのうちすぐになんとかして、私の姫を略奪下種野郎から奪い返して見せる。
私は意気込みながら、朝食が運ばれてくるのを待った。
食事が豪華なトレーに載せられ運ばれてきた。私は期待に胸を躍らせた。世界一の大帝国、ガルディック帝国の食事だ。きっと、朝から肉料理とか豪勢なものなんだろう。私は目を輝かせ、トレーを食い入るように見つめた。ゆっくりと丁寧に降ろされていく。皿が複数乗っているのがわかる。品数が多いのかもしれない。しかし私は忘れていた。この身が幼女だということを。
トレーがテーブルの上に置かれ、中身が露になる。私はがっかりした。
オートミールとコーンフレークの中間のようなシリアルに、フルーツがふんだんにあしらわれている。もう一つの皿にはシロップがかかったタルッカというリンゴのような果実を煮たもの。さらにもう一つの皿には、ジャムが添えられたババロアもついていた。
(そうだ……幼児が消化に悪い物を食べれるわけないんだ……)
皿やスプーンにはガルディック帝国の紋章が施され、大変豪華だったが、メニューにはがっかりした。だが、食べないわけにはいかない。しかたがなく、スプーンを手に取った。
「姫様、ちゃんと女神さまに祈りを捧げてから食べましょうね」
私の食事の世話の為に隣に座っている侍女が、優しく注意してきた。そうだった、期待したメニューと違っていたため、ショックのあまり祈りを忘れていた。そういう躾はガルディック帝国もしっかりとしているんだなと、どこか感心しながら女神に祈る。
スプーンを置き、手を組んだ。
「みしゅててるんしゃま、きしゃーのめーめにかぁんささて、このしょくしをいたーきます(ミスティルディン様、貴女の恵みに感謝を捧げ、この食事を頂きます)」
そして魔力を少しだけ天に放つ。食前の祈りは、これで終了だ。
再びスプーンを手に取り、皿に入れようとした。
「姫様? なぜ昨日まではミスティルディン様の名前しか言えなかったのに、今日は長く言えるんですか……」
侍女の小さな呟きに、私は動きを止めた。
(や、やらかした……だが反応したら、もっとだめだ。ここは無視だ……)
私は侍女の呟きを無視して、すこし温められた牛乳に浸っているシリアルと細かく刻まれているフルーツを掬った。そして口に入れる。一口で嫌になった。砂糖が使われ、甘い味付けになっていた。
私はデザートが好きだ。とくにケーキが。だからデザートが付いているのはうれしい。しかしメイン料理は、しっかりとした味付けのものが良いのだ。メインまで甘くては、さすがに嫌になる。砂糖が入っていなければ、まだ気分よく食べれたが……しかたなく我慢して食べた。幸いだったのは幼児のため、量が少なかったことだ。食べ終わり、デザートの前に口をゆすぐことにした。コップを手に取る。お茶だと思っていたのに、ジュースだった……せっかくのデザートのおいしさが半減してしまった。だが、さすがガルディック帝国の宮廷料理人が作るデザートだ。タルッカの煮込み具合も、ババロアの滑らかさも完璧だった。
すこしだけ満足できた朝食を終えると、私は放置された。
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