9(エピローグ)
ここから先は、エピローグになる。
結局、報酬とやらは分け合うことにならなかった。ぼくは大学に戻り、普通の生活を取り戻そうと努力した。けれども一抜けができる程、甘いことはなかった。或る日、大学の寮に一葉の絵ハガキが届いた。差出人無し。メッセージ無し。大都市の写真に〝シカゴ〟の文字。ハガキに消印はなかった。
あの日あの場所に居合わせた誰かの悪戯かもしれない。それが真相だったら、どれだけしあわせだったろう。ぼくは、シカゴの死体を見ていない。泥に浸かった足は、洗えば確かに綺麗になる。けれども、泥に浸かった事実までは洗えない。
大学は無事、卒業した。そして今、ぼくは叔父と一緒に働いている。出所した叔父が会社を始めたのだ。叔父は早々に放免されたのである。
出所の日、迎えに行ったぼくのそばに、何処かでみたような地味な女がいた。まるで過ぎた真夏を惜しむ空のような青地のジャケットを着ており、その背には、白の光反射材で〝中央捜査局〟の文字が入っていた。なんとも素敵な「シャバ」への第一歩だった。
叔父を乗せて車を出すと、バックミラーの中で地味女が大きなバタフライサングラスをかけた。彼女は口に大きなヒマワリのような笑みを浮かべ、派手な投げキッスを放ってきた。ぴったりとしたジーンズを履いており、太股の三つ並んだホクロは確かめようがない。運転しながら横目で隣に坐る叔父を見ると、「ゴキゲン」と云った按配でラジオの曲に合わせて揺れていた。
あの日、あの場所に、デラウェアはいた。叔父の役目は、デンバーの名で荷を受け取り、届けることだった。しかしドジを踏み、ぼくが代打を務めることになったのだ。これが叔父のバーゲンセールのような減刑に関係しているとも云えるし、ないとも云える。
今、荷物はとある場所に埋っている。中身は知らない。掘り返すことはないと思うが、気が変わることもあるかもしれない。分かっているのはそれが今でないことと、先のことは不確定と云うこと。
ぼくらはバンに乗り、全国津々浦々、訪れては仕事をする。有り体に云えば便利屋だ。それなりに上手く行き、楽しんでもいる。だいたいはまっとうな案件だが、ときどき細くて長い線の上を跨ぐこともある。いずれは拠点として大きな倉庫を建てたいと、道すがら笑いながら話している。
行く先々でぼくは土産物屋に寄り、観光客向けの絵ハガキを買う。写真に街の名前が入ったものを選んでいる。いつか夢の倉庫が建ったのなら、でっかい地図を用意して、事務所に一角に貼り付けようと思っている。
大抵の場合、勘定は合う。けれどもやっぱり合わないことはある。だから員数外をポケットに仕舞える術を知っていても損ではないし、それが人生に於けるちょっとした知恵なのだと、ぼくは思う。
─了─
素敵な悪事のはじめかた
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さかのぼること半年前。
舞い込んできたブツが、とんだ面倒を引き起こす!
逃げ場なし、助けなし、甲斐性なし男に災厄が降りかかる。




