8(隠せ)
「受け取りに来たぞ、兄弟」
凄みとはまた違う、ゾッとするようなかすれ声だった。
マイアミが腕を伸ばし、インターホンを引き寄せると、スイッチを押した。
「変な音が聞こえたようだが、どうした?」
「ボディチェックをしたかったみたいだな。どういうつもりだ?」
「安全のためだ。それで黒服は?」
「さあな。寝ているように見える。お前は誰だ?」
しかしマイアミは、「アンタ、誰だ?」逆に訊ねた。
それは全く聞き憶えのあるかすれ声で、「ロズウェル」と答えた。「そっちは?」
「モンタナ」眉一つ動かさず、マイアミが伸びている禿げ男の名を騙り、応答スイッチから手を離した。「ロズウェル……」声をひそめ、「どっかで聞いたことあるぞ?」
「……ベガスの近くだ」とぼく。
「ええ」とアリゾナ。「ひとつ挟んだ隣ね。シカゴの昔なじみ?」
ぱっとマイアミが顔をはね上げた。「死体を隠せ!」
「どう云うこと?」
ぼくの疑問にアリゾナが、「聞いたことがあるわ……双子の悪党の話を」
「シカゴの兄弟?」
「いや」待て、と記憶を手繰るようにマイアミは額に手を当て、「三つ子の悪党の噂なら俺も聞いた事ある」
「増えたよ!?」
驚くぼくに、「いいえ」とアリゾナは静かに告げる。「夫が云ってた、四つ子だって。フォーコーナーズ・ブラザーズ」
「増やすな!」マイアミが頭を抱えた。
「おい、モンタナ」かすれ声がスピーカーから聞こえてきた。「兄弟は不在か? 勝手に上がらせてもらうぞ?」
店の入り口から事務所までの距離はいかほどか。何分と云うわけであるまい。その時。「ぬぬぬ……」伸びていたモンタナが呻きならがら体を起こした。視線は定まらず、ぼんやりしていた。マイアミがもう一発、見舞うかどうか迷っているのが分かった。
「警察を呼ぶわ」唐突にアリゾナが云った。
心臓が思い切り跳ねた。咽喉がキュッと締まり、息苦しくなった。
「あ?」マイアミの表情は、驚愕と恐怖の入り交じったキュビズムのようだった。
「国家権力を便利に使うだけよ」アリゾナは、ぼくの腕を掴んで引っ張り、ドアを開けると、「急いで裏から出なさい」ぐいと強く押し出した。「一目散に」
「でも、」
「アタシたちはプロよ。自分のケツは自分で拭く。でしょう、マイアミ?」
「ちょっと待て」と反論しかけたマイアミを、「ガタガタ抜かすンじゃねェ!」アリゾナが一喝した。「玉ァついてンだろ!!」
あまりの迫力に、思わず縮み上がった。
「お、おう」マイアミも気圧されたようだが、やくざ者だけあって、直ぐさまキリッと顔を作り、「そうだな」モンタナをぼこんと殴りながら頷いた。「今なら間に合う。逃げ切れる。心配は自分の分だけしとけ」
殴り方が甘かったのか、モンタナが反撃に出てマイアミの足にしがみついた。ふたりはもつれあって床を転がった。
「いいわね?」とアリゾナ。カツン、カツンと靴音が近づく。「アタシからも助言をひとつ。仕事は中身じゃない。誰とするかよ」
彼女の肩越しに、モンタナがマイアミの口髭をむしり取るのが見えた。付け髭だったのか。場違いにも感心してしまった。
「じゃ、坊や」アリゾナがふっ、と微笑む。「縁があったらまたどこかで」
ぼくを残してドアを閉め、ガチャリと鍵を中から閉めた。
靴音が更に近づく。考える時間はない。ぼくは廊下を突っ切り、ロケットみたいに裏口から飛び出した。そしてヘルメットと防弾チョッキを身に着けた屈強な三人の男に抱きかかえられた。
ぼくは取り囲む警官たちの中に飛び込んだのである。




