6(種か畑)
「どうことだ?」モンタナが剣呑な視線をアリゾナに向けた。
「……そうね」アリゾナは肩を竦め、「バレちゃあ、仕方ないわ」あっさり認めた。
「おやっさんよぉ。これはウマくねぇんじゃないか?」
モンタナの問いに、「アリゾナは最初から居た」と、シカゴは答えた。
「冗談だろ?」
「だが断った」
「なら、ここにいる理由はないな」
「あら? 認めてくれたんじゃないの?」
「そもそも」シカゴは椅子に座り直し、「今日、ここに集まるのを知っているのは、仕事を知っている人間だけだ」
「どういうことだ」とモンタナ。
「誰かが漏らしたな」とマイアミ。
「誰のパンツが臭うのかしら」アリゾナが云うや、「違う」全員、口を揃えて否定する。
「分かってるって」ころころとアリゾナは笑った。「コロラドは弟よ」
「えっ」これは吃驚。「ね、姉ちゃん!?」
「久しぶり」サングラス越しに、ぱちっとウインクされた。「お姉ちゃんですよー」
「聞いた事ある……!」不意にモンタナが気色ばんだ。「美人局なんてケチくさいことやってる何たらって姉弟だ!」
「何たらって知らないと同義語じゃないの。それにこの坊やとアタシ、似ている?」
「姉弟が似ているとは限らないだろ。種か畑が違うことだってある」
「あらやだ」アリゾナが体をくねらせた。「お下品な紳士は嫌いよ」
「待って待って」とぼく。「一人っ子なんだ、ぼく」
幾つもの胡散臭い目が向けられた。「本当だってば。この人とは今日、初めて会った」
「お袋に誓って?」とマイアミ。
「母さんに誓って」ただし、その母が隠していたのなら話は別だが、ぼくが知らないことは、無いことと同義語であっていい筈だ。
「おい、モンタナ」シカゴが云った。「銃で遊ぶな」
「あ、ああ?」
見ればモンタナが、拳銃の用心金に指を入れてくるくると廻していた。
「ツキが落ちるって云うんだ。古い映画で観たんだ」だから本当なんだ。「嘘じゃあない」
「嘘っぽいよ?」とアリゾナが云うと、モンタナは銃把を握り、「黙りな、嬢ちゃん」
「アタシそんなに若くないわ」
「黙りな、オバサン」
「死ね」
容赦ないぞ? 余裕ないぞ?
「待て待て。落ち着けお前ら」シカゴがいちばん落ち着いてない。
「おお、そうだ」マイアミがにやりと笑った。「ロシアンルーレットでキメよう」
「そいつはいい」モンタナは弾倉をいじりながらにやぁと笑った。
「ばかっ」シカゴが唾を飛ばした。「六発じゃねぇか。人数が合わねぇ」
しかしモンタナは、「アタリが出なきゃもう一周」軽く云う。
「ばかっ。俺の前で与太を飛ばすなっ」
「こっちは本気だぜ」今やモンタナの目は、冥く坐っていた。
「俺の部屋を血で汚すなっ」
「本音が出ましたなあ」マイアミがおっとり云う。
「そもそも何で道具なんぞ持ってやがる」憤然とするシカゴに、「何かおかしなことでも?」とアリゾナ。
「黒服たちには教育が必要だな」笑顔のマイアミに、「このバカどもが」シカゴが嘆く。
「イーヒッヒッヒ!」
突然、甲高い笑い声が上がった。見ればモンタナが自分のこめかみに銃口を当てていた。
「野郎、止めろ!」シカゴが叫んだ直後──バン!
耳を聾する音が響き渡る中で、それはまるでスローモーションのように進行した。
まず立ち上がったマイアミが片手を伸ばし、モンタナの拳銃を上から握り、もう片方の手で顎に掌底を叩き込んだ。モンタナは後ろへ棒のように真っ直ぐ飛んで、綺麗に伸された。アリゾナはデスクの向こうに消えた。ぼくは一拍遅れて彼女の後に続いたが、「来ちゃ駄目!」強く言葉を投げられ、デスクの傍らに立ち竦んだ。
マイアミはモンタナから奪った拳銃の弾倉を振り出すと、弾を抜き取り、ポケットに仕舞った。「シカゴはどうだ?」
立ち上がったアリゾナが、首を横に振った。「そっちは?」
「加減は出来なかった。たぶん顎を折った」
仕方ないわ、と云った感じでアリゾナは伸ばした腕の掌をぼくに向け、「何も見ることはないわ」
「でも──、」
ビーッとブザーが鳴った。




