5(黒服をひとり)
どうしようもねぇなと、首を振り、シカゴはぼくの脇をすり抜け、デスクの向うに座った。「ここは託児所じゃないんだぞ。で、ナシはつけたのか?」
「なあ、シカゴ」モンタナが静かに問う。「コバヤシセンセイは何の用だったんだ?」
「寄っただけだ」
「会計士が手ぶらって事はないだろう?」
「会計士先生の仕事を過大評価し過ぎだ」
「いいから云えよ。コバヤシセンセイは昨夜、〝メロウメロンズ〟に居たって」
シカゴの眉がぴくりと動いた。「ロッキーを伸したのはお前か? 違うだろう?」
「勿論そうさ」とモンタナ。「俺の指は大事な商売道具でね」
シカゴが唸った。「お前が間接的にロッキーを伸したのか」
「ああ。黒服をひとり減らせば、道具も持ち込みやすいと思ってな」
「この偏執狂が」
しかしシカゴはぼくらを裏から入れ、そこには黒服はいなかった。
「お前はどうしたいんだ。え? モンタナ」
「いいや、シカゴ」モンタナが目をすがめた。「今回の仕事、アンタの考えたドリームチームだな?」その手には小さな回転式拳銃が握られていた。けれどもシカゴは。「本当にお前らは…」嘆息するだけだった。「揃いも揃ってケツの穴だ──っと失礼」
気にしないわ、とばかりにアリゾナは細い指を軽く振って見せた。
「このトンチキどもが」
あまり変わってない。
「そりゃあ、こっちのセリフだ」とモンタナ。
「マイアミ、なんだその顔は」とシカゴ。
「ケツの穴の顔」とマイアミ。
「トンチキじゃ済まねぇ」シカゴが嘆く。
「アンタのケツの穴ってそんな感じなの?」アリゾナが変に熱っぽい目を呉れた。
「ご婦人、ご覧になりたいので?」
「ええ。早く早く」
「煽るな、アリゾナ。座れ、マイアミ。やめろ、ベルトから手を放せ。モンタナも道具はしまっておけ」
「いいや」モンタナは拒否し、だが銃は膝の上に置いた。
「どうしたものかしらねぇ」うーん、とアリゾナが首を反らせ、「往々にして事実はつまらないものよ? そうでしょ、サタデーナイト・ナックル?」
マイアミがハッと目を見開いた。
「ね? ベイビー・パウダー?」
モンタナがぐぅと唸った。
「どうやらこのお嬢さんは」シカゴは目を細め、「隠し球をお持ちの様だな」
「あらやだ」アリゾナは、はにかむように、「タマも一物もお持ちでないわ。ここの紳士たちが証人よ」
「一瞬じゃ分からんね」モンタナは明らかに気分を害していた。「誰がベイビーだ?」
「そうだな」マイアミは上体を起こし、伸びをした。「ボマー・パウダー、だろ?」
「おかしいわね」アリゾナは小首を傾げる。「アタシの紳士録じゃベイビー・パウダーで通ってるようだけれども?」
「誰も俺をベイビーなんて呼ばせないぜ、カップケーキ」
「やめて頂戴」アリゾナは身を引きながら、「アタシ、そういうの嫌い」
「おい、坊主」モンタナは、今度はぼくを捕まえて、「自分は関係ないって面ァするな」
彼の膝の上、拳銃の銃口がこっちを向いていた。ぼくはごくりと唾を飲み、「……仲違いが一番マズいと思う」
「優等生だな」とマイアミ。
「可愛いわね」とアリゾナ。
ふと、モンタナは、「お前……雲助キッドだろ?」
するとマイアミが、「聞いたことあるぞ?」乗っかった。「雲隠れキッド。逃げ足の早い運び屋」
「運び屋に必要なスキルだと思うのだけれども?」アリゾナの擁護に、モンタナは胡散臭げな視線を向けてきた。シカゴが小さく舌打ちしたが、気付いたのはぼくだけだったかもしれない。
「よし」マイアミが場をまとめるように手を打ち鳴らした。「互いに素性がバレたようだ。そうだろう? シアトル夫人」
「そのようね」
「ご主人のことは残念だった」
「いいのよ。こういう稼業だから。でも分け前は近親者、特に配偶者が貰うのにおかしいことはないでしょう?」
「勿論そうさ」にやりとマイアミが口の端に笑みを浮かべた。嫌な予感がした。「アリゾナ姐ちゃんよ。シアトルは……ホモだ」




