次代の子たち
平太が途中で眠ってしまったから、平太のアイスクリームは器の底でコーヒー色の小さな池に変わっている。
それでも起こせなくて、一緒にいる時間を大切にしたくて、ミーニャはじっと平太を見つめている。
「ミーニャさん」
声がそっとかけられた。
振り仰ぐと、平太の次代の1人、幸太郎くんが後ろに控えていた。
「お戻りが遅いから、眠ってらっしゃると思って、お迎えに来ました」
幸太郎くんは、どうやらここに入って来れるみたいだ。
「ありがとう。でも、もうちょっとここに居たいわ。せっかく平太が連れて来てくれたのよ」
「そうですね。すごく楽しみに計画されていました」
「・・・知ってたの? いつから計画してたの」
「俺が聞いたのは、5年前かな。でもたぶんその頃には緑川さんには話がいってたようですよ」
「そう。緑川様に、幸太郎くんからもお礼を言っておいてね。とても素敵な時間で、本当に嬉しいの。有難う」
「良かった。ミーニャさんが喜ぶのを楽しみに平太さん計画してましたから」
ミーニャは無言になって、また平太の顔を見た。
起こしたくなる。
でも、止めておく。そっと、体力を回復してほしい。
「・・・ミーニャさん、何度もすみませんけど、本当に俺の彼女になってもらえませんか」
と幸太郎くんがそう言ってきた。
ミーニャは肩を竦めた。
「嫌よ。私は平太だけの彼女なの」
「知ってます。でも・・・二人ともいなくなるのは辛いんです。俺の彼女になって欲しいけど、陸も夏樹も、希望してます。三人の誰かを選んでくれたら・・・」
「嫌よ。何度言われてもお断り」
平太との話もついている。
分かっていてなお、次代の子たちは申し出てくる。寂しいらしいけれど、私の優先順位は決まっている。
「でも、ミーニャさん、せっかく引継ぎできるタイプですし」
「可能であるという事と、実行する事は違うでしょ。それに、私みたいに食事が必要なタイプって旧式でしょう。食べなくても私みたいに動ける子を彼女にしなさいよ」
『彼女』が影響を与え、『最高ランクの技術者』を、適性とは別の仕事に就かせた。それは様々に問題視された。
メーカーにおいては、『食事が必須タイプの彼女』の販売を取り下げた。『食べる事ができる』事と、『食べる必要がある』事は違う。ミーニャが『食べる必要がある』事で平太の生活を変えさせたことは重大な問題とされた。
メーカーは、しばらくリアリティを追求した彼女を販売できなかった。行動に必要なエネルギーをどうやって供給するかの壁にぶち当たってしまったからだ。
けれど、それももう昔の話。
画期的な技術発展が叶い、食事無しでミーニャのようにリアリティのある彼女が作られるようになった。
今は、ミーニャよりずっと高性能な彼女が多く生み出されている。
「えー。そういう問題じゃないんですって」
「知らないわよ。食べる方が良いならそういう子を新しく選びなさい」
「だからそういう問題じゃないんですって。平太さんたち、俺たちの憧れなんですから。ミーニャさんだけでも、少しでも長くいてほしい」
「嫌。もう知らない」
「はぁ・・・。やっぱり駄目ですか」
幸太郎くんが深くため息をつく。
ちなみに、幸太郎くんたちは、最近外出先でも眠ってしまう平太を家に運んでくれるために、このように現れてくれる。
平太には、知識を受け継ぐ次代が3人もいるから、3人で小まめにお世話をしてくれる。
***
平太は、彼女のために適性を変えた愚か者だと、評価された。
もともと優秀な人だったけれど、適性と違う職業では、どれだけ頑張っても最高級のSランクにはなれなかった。次のAランクぐらい。
それでも、元の仕事よりも給料は良くて、平太はちゃんと、平太とミーニャと養うべき次代の3人分を稼いでいた。
なお、節約生活は変わらない。
たまに、貯金して何か月かに一度、新しい服を買ったり贅沢なものを食べに行ったり遊びに行ったりしたけれど。
50年ほど経った時、平太の知識を受け継ぐために、平太の次代の人が決められた。
と言っても、どちらかというと選ぶことができるんだけど。
でも平太は変わった生き方をしたので、変った決め方になった。
平太は、それぞれ個性が出てきている次代の人たちが集まっているところに行った。これから頻繁に交流する人を決めるからと、ミーニャも一緒に連れて行ってくれた。
平太は、大勢の人たちの前で、自分の状態を説明した。
先代から、『分解作法』という仕事の知識を受け継いでいる事。平太も少し知識を修めていて、実用レベルである事。ちなみにSランク。
そして、適性と違い、実際は『組織転用』という仕事をしている事。ただし、これは超一流の知識では無いという事。Aランク。
どちらの知識も、多分中途半端だろう、と平太は予想していたのだけれど。
特定の先代に選んでもらえない人も中に入るらしく、だから中途半端でもいいから知識を受け継ぎたいと考える人もいるらしい。
Sランクの『分解作法』を受け継ぎたい、と手を上げたのが、陸くんという子だった。
平太が、念のため確認すると、陸くんは、
「代々『分解作法』のエキスパートで、Sランクって憧れます。だから平太さんの知識で十分です」
と目を輝かせた。
他の子はそんな陸くんに遠慮したのと、第一線で働く人たちの方が希望らしくて、名乗りを上げなかった。
1人決まったからこれで終わりだと思って、平太とミーニャはその日は帰った。
そうしたら、後日改めて呼ばれることになった。
一人が、夏樹くん。
夏樹くん自身が、中途半端な適性の伸び方で、迷っているらしい。
そうしているうちに、特定の先代に教えてもらえる機会を逸してしまった。
心配した先生が、アドバイスして、平太が実務でやっている、Aランクの『組織転用』の知識を伝えることになった。
ちなみに夏樹くんは、平太が給料が良い事を伝えたら、
「俺、頑張ります! 迷ってたけど1本に絞ります!!」
と『組織転用』にやる気をみせた。
平太はAランクのものしか伝えられないけれど、その分自分で頑張る、と意気込んでいる。
そして、もう一人が幸太郎くんだ。
彼が来たことで、平太への社会的評価が一変した。彼が、次代のエリートだったからだ。
平太たちには、次代を生み出す担当の存在がいる。時期が来たら分裂して次代を生み出す。
一方の平太たちは末端だ。平太たち自身は分裂などしない。
次代を生み出す存在は、生命として『どのように進化するか』という方向性も考えるらしい。
その進化を考える一人が、幸太郎くんだ。
『中央』は、適性とは違う仕事を選び望んだ生活を勝ち取った平太に、価値を見出したらしい。幸太郎くんを平太の次代として派遣してきた。
つまり、末端の平太が備えたものを、中央が受け取りに現れたのだ。
平太は、幸太郎くんに、職を変える際の判断や決意、適性とは違うのにどうやって実務に耐える能力を身につけたのか、という部分を受け渡している。




