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福袋の彼女  作者: 天川ひつじ
第一章 平太、福袋彼女を買う
12/23

三者三様

車でほどほどの雰囲気を保って、バーベキューをする河原に着いた。

すでに、職場の先輩たちが集まっている。加えて、岩尾先輩の彼女も含めて、彼女が2人いた。

平太たちの到着に気づいた先輩たちは、にこやかに平太たちを迎え、そして彼女を目に留めて

「美人だ!」

と口々に喜んだ。美人は希少なのである。


多くの先輩たちに挨拶して、彼女を紹介する。

彼女は静かにお澄まししたように笑んでいた。いつもの暴言が嘘みたいだ。

多分、この彼女は、外面が良いのだろう。


まぁ、別に良いんだけど、と平太は思った。

自分だけに迷惑発言するのも、気分のムラを見せるのも、特別仕様だからに違いない。

それに、そういう態度の方がミーニャっぽいと思ってしまう。


皆に一通り挨拶を終えて、平太は先輩の彼女たちの方を指した。

「ねぇ、あそこ、岩尾先輩の彼女のサティちゃんと、秋田先輩の・・・えっと、名前は知らないんだけど、彼女。彼女同士、話とかしてきたら良いよ」

「えぇ。分かった、そうするわ」

平太の言葉に彼女は少しだけ不思議そうにしたが、素直に頷いて、先輩の彼女たちのところに向かった。


その後ろ姿を平太は少し観察する。


ちなみに、先輩たちの彼女だが、岩尾先輩のサティちゃんの方は、顔はごくごく平凡・・・というのは、岩尾先輩も福袋で購入した庶民ラインの彼女だから・・・で、ニコニコしている。

秋田先輩の彼女も、やはり福袋購入だ。ただし購入年度が違うため、庶民ラインながら岩尾先輩の彼女とは少し顔立ちが違う。少し目鼻立ちがハッキリしている。こちらはのんびりどこか眠たそうだ。


ミーニャが彼女たちのところに向かい、声をかけた。

「こんにちは。初めまして。平太の彼女です」

サティちゃんがニコニコして答えた。

「サティです。うふふー」

もう一人が、のんびり答えた。

「わたし、モア。よろしく、ね」


平太はその会話で一瞬で悟った。

あ、絶対、話のテンポが合わない。

ミーニャ、ちゃんと仲良くなれるかなぁ・・・。


「うふふー。今日は、たのしーい」

「うん。たくみ~、がんばってー」

「・・・。ふふ」


ちなみに、秋田先輩の彼女のモアちゃんのいう『たくみ』とは秋田先輩の名前だろう。


大丈夫かなぁ・・・。

うっすらした不穏な雰囲気に平太が思わず彼女たちの様子を見守っていると、ミーニャがふと平太の視線に気づいて、ムッとした。軽く睨まれた。

ジロジロ見るなと叱られたようだ。


うん、見ない、見ない。

平太が先輩たちに視線を戻すと、先輩たちも彼女が三人集まっている様子を見て妙に感慨深げだった。

「なんかあそこ、憧れの空間だな」

「良いなぁ。華だ。今日は良い日だ」

「平太の彼女、知的な雰囲気だな。名前なんて言うんだ?」


平太は答えた。

「えっと、ちょっとまだ教えてもらってなくて」

嘘である。が、正直に『恥ずかしがって』とかいうと上手に聞きだされてしまうので、ミーニャの名前を口にしないためにもこう答えることにしている。


「まだ教えてくれないのか! プライド高っ!!」

それは否定できない気がする。


そうだ。

平太は先輩方にこっそり打ち明けた。

「あの、俺の彼女、色々理解してしまうので、あの、俺の相談事とか、絶対彼女に聞こえるようなところでなんて、絶対に言わないでくださいね!」

「お、おぅ・・・お前、類を見ないほど本気の顔だぞ」

だって本当に困るのだ。


***


鉄板で肉や野菜を焼き始める。

二人が川の魚を目当てに釣りを始める。

岩尾先輩と平太は、『焼き係』になった。熱いので、下っ端の平太によく回ってくる役回りだ。

ちなみに岩尾先輩は、こういうのが大好きだ。


汗を流しながら肉を焼いていると、ふわふわ~と良い香りが漂ってきて、平太は何かと顔を上げた。

「うふふ。ガンバレー、まさき~」

「おぉ、頑張ってるぞー!」

岩尾先輩の彼女のサティちゃんが応援しにきたのだ。サティちゃんは、やはり汗を流しながら楽しそうに焼きトウモロコシを作っている岩尾先輩のやや後ろ横、つまり邪魔にならないポジションでニコニコフワフワ岩尾先輩の応援を始めた。


「すごーい、まさき頑張ってるー」

「そうだろ、そうだろ」


「汗、光ってる。カッコ良いー」

「お、サンキュー」


「・・・うらやましい」

呟いたのは平太では無い。先輩の一人、川田先輩だ。

心底羨ましそうな顔で岩尾先輩たちを見つめている。


平太は言った。

「・・・川田先輩、俺より稼ぎ良いんでしょう。福袋いきましょうよ」

「いや。俺はもっと金を貯めて、俺の選んだ彼女をいつか買うんだ」

「正規品だと、最低の庶民ラインで6万マか」


学生で、生活しながら彼女に6万マというのはかなり厳しい。

1ヵ月暮らそうと思えば暮らせる金額だからだ。


別の先輩の言葉に、川田先輩はフルフルと首を横に振り、羨ましそうに岩尾先輩たちを見つめて

「いいんだ」

と繰り返した。

「俺、絶対、いつか俺好みの買うんだ・・・」

「気持ちは分かる。だって一人買ったらその子とずっと一緒に暮らすんだもんな」

「そうそう」


平太も頷いた。

「あれですね、堅実派と、博打系で性格分かれるんでしょうかね」


まぁ、平太は決して博打好きだったわけでは無いのだが。

彼女というものに憧れがあって、彼女の仔細には川田先輩ほどこだわりがなかっただけである。


とはいえ、ミーニャを引き当ててから、自分はやっぱりそれなりに「こういう系が良いな」と思い描いていた事を痛感してしまったが。


まぁそれも、ちょっと過去の思い出になるかもしれない。ミーニャも可愛いところがあるしすでに平太の彼女はミーニャなのだから。


でも、そういえば。

平太は、ふわふわ岩尾先輩を応援するサティちゃんの様子をもう一度見つめた。

ものすごく優しく柔らかく、加えて決して邪魔にならない場所で岩尾先輩を応援しているサティちゃん。


俺、彼女って、みんなあんな風だと思ってた・・・。

と、平太は思った。


平太は、もう一人の彼女、モアちゃんをふと目で探す。

モアちゃんは、野菜を切っている秋田先輩の傍にて、秋田先輩の動きをじっと見ていた。


たくみ、これは何?」

「これ、玉ねぎ」


「玉ねぎ。・・・あのね、玉ねぎ切るとき、切れ味の良い包丁の方が、涙の成分、でないのよ?」

「あ、それ知ってるよ」


「そっか。じゃあ、玉ねぎのおいしいレシピ、知りたい?」

「バーベキュー用の教えて」


「あのね、ソースと、それから、おいしい組み合わせがあるけど、どっちが良い?」

「組み合わせの方」


どうやらモアちゃんは、情報提供タイプらしい。


うんうん、と平太は焼けた肉を先輩の差し出す紙皿の上に置きながら頷いた。


そうそう、あぁいう彼女も憧れたんだ。

生活の中で、生活がちょっと光るような小ネタを教えてくれるんだよな。

それで・・・。

「ふふ。たくみの役に立てて、嬉しい・・・」

ぽわっと、モアちゃんが笑う。


そうそう。あぁいうの。憧れた・・・。


「ちょっと平太。肉、焦げてるわよ」

ボソっと耳元で低い声が囁いた。

ビクッと首を竦めて右を見やれば、ミーニャが冷たい目を平太に向けていた。いつの間にそこに。

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