2
名もなき川を渡った先にある辺境、国が定める道から外れ北へ大きくそれた先に希望の村といわれる地図には載っていない村があった。
その村は勇者聖誕の村という伝承が数多くあり、勇者を信仰していた。アベルが命からがらたどりついた村は伝説の勇者を祭り上げる村だった。
「勇者殿、そろそろ旅立ってはいかがだろう?」
そう言ったのは希望の村の村長、筋肉質な体に年輪を感じさせるしわが頑固なそうな顔をさらに際立たせている。歳は60くらいのはずだがかなり若い印象だ。
「そろそろ祭りが近いのです。倉を空けてくれなければ祭りの準備ができません」
「今は比較的に平和だと思いますが。それに、勇者だと名乗った覚えはないですが。」
と勇者アベル、どう見ても勇者の装備だったが気にした様子はない。
「それはそうですが、困った人はどこかにいるはずです。そういう人を救うのがあなたの仕事でしょう。」
「その通りだと思います」
「では」
「旅へは出ません」
「なぜですか?」
「そもそも魔王が悪いことをしていないのに旅にでる理由はないでしょう」
「魔王に対する抑止力になるはずです」
「…………」
その発想はありかないか、といえばありだった。
ただ、その発想はとある小国のミサイル発射演習と大差ない発想だと思った。
勇者の中では答えはノーだった。
「僕は、無暗な争いはしたくない、倉からはでましょう」
倉からでる勇者を村長は見送った。
「という訳で勇者を村から追いだしたわけね」
とマリーは刺々しい目つきで祖父をにらむ。
「追い出したわけじゃない、少し村からでてもらうだけだ」
孫に気おされたように村長、ネッガーが答える。
「それで旅に行けと言うかしら」
「伝説の勇者はいままでそうやって世界を救ってきた」
「屁理屈にもほどはあると私は考えます」
「孫よどうしてそんなによそよそしいんだ」
「お父さんが頑固だからじゃない」
「」
絶句する村長だった。
正直に言おう、僕はいま迷っている。
果たしていま戦いに戻っていいのだろうか?
暗殺は実際起きた。未遂だったが。
この状況で死地に戻ることにどれほどの勇気や自信がいるだろう。
果たして勇者はこの世界で必要とされているだろうか。
そもそも敵が何かが分からない。人間側の左翼派か上級魔族の仕業か。
それとも単なる仲間の裏切りか悪い人間には見えなかったのにな。
判断する術がない。
もしかして僕って人を見る目が絶望的にないんじゃなかろうか。
それは十分にあることで、どうにもならない気がする。
「少し日が傾いてきたか」
アベルの特技は絶対方向感覚だった。どこから日が昇り、どこで落ちるかがわかれば日の位置でいまが何時か予想できる。もっともこの世界の住人は生まれてからしていることなので誇れる特技ではない。
「テレビが恋しい」
勇者はボヤキながら見晴らしのいい丘のうえで、丸太を同じく丸太で地面の土に打ち付けはじめた。手慣れた野営の準備だった。




