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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR5 『蠢くテロリストプログラム』
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第八話 『〈白ウサギ〉』

 

 驚きのあまり声も出せずじっと白いウサギの耳を見つめていると、こちらの様子を覗おうと思ったのか、彼女が果物屋の物陰からそろそろと顔をだしてきた。

 ウサ耳を見つめていた俺と彼女の眼がばっちりと合う。

 ふわふわ柔らかそうなピンク色の髪に赤い瞳の幼女だった。

 幼女は俺の視線にぴっきーん、とウサ耳を立てると、そろーりそろーりといった感じでゆっくり物陰にフェイドアウトしていく。

 しかし、すぐにひょこっと半分だけ顔を出し『じーーっ』という効果音が聞こえてきそうなほどこちらを見つめてくる。

 ……実に小動物らしい動きだった。

 な、なんであのアホの子が『ワールドマスター』に?

 いや、そもそもどうして俺たちを見てるんだ?

 俺の頭には疑問しか浮かばなかった。彼女が俺たちを見つめる理由は見当もつかない。


「な、なあ……みんな。話があるんだけど」


「まぁくんったらやだもうっ、結婚の報告は別に今じゃなくても――」


「あっちあっち。あれを見てくれ」


 俺は恥らっているミライを全力で無視して大通りの方を親指でさす。

 四人がそれぞれそちらへ視線をやり、彼女を見つけたのだろう。トラはゲホゲホと咳をし、ミヤは呆然とした。ミライが身を乗り出して眼を輝かせる。そんな中でナーガ一人は冷静だった。


「あら。〈白ウサギ〉じゃない。何をしているのかしらあんなところで」


 やっぱりかよ……! あれは〈白ウサギ〉なのかあぁっ!

 正二位という上から二番目の権威を持つ人工知能〈白ウサギ〉。この『ワールドマスター』の開発者である〈黒ウサギ〉の妹にして、CSNサーバーを管理している人工知能だ。

 果物屋の陰に身を潜めている幼女こそまさにその〈白ウサギ〉だった。


「まぁくん、まぁくん! 〈白ウサギ〉ちゃんだよっ! ねっ、かわいいねぇー!」


 俺たちに穴が開いてしまうんじゃないかと思うほど〈白ウサギ〉は合いも変わらずこちらを見つめている。その赤い瞳は一体、何を考えているのか、興味深げに観察しているようにも見えた。

 尊大で人嫌いで意地っ張りだと言われている姉とは逆に〈白ウサギ〉は人懐っこく好奇心旺盛なことで有名だ。その身なりと愛らしい性格も相まってプレイヤーにとてもよく可愛がられている。そんな彼女の管理範囲にCSNサーバがあるということもあってCSNゲームに姿を現すのは決して珍しいことじゃない。

 問題なのはなぜ俺たちのことを監視しているのか、という点に尽きる。

 俺たちは作戦会議をするため円になってしゃがみ込み、顔をよせあって声を潜めた。


「ど、どうして!? どうして〈白ウサギ〉がこっちを見ているのよっ……! セイギ、あんた〈黒ウサギ〉に叱られるようなことしたんじゃないの!? やっぱりあんた《リベレイター》なわけぇ!? どうしてあんたはいっつもいっつも厄介事を起こすのよ!」


 表舞台にまったく姿を現さない〈黒ウサギ〉の変わりに〈白ウサギ〉が代弁しに登場するのはたびたびあることだった。ましてや〈白ウサギ〉はCSNサーバを管理する立場にある人工知能だ。ゲーム内で不祥事が起こった場合にも〈白ウサギ〉は姿を現したりするのである。

 この事からなんとなく姉と妹の主従関係が分かるが今は突っ込んで考えている場合じゃない。


「ひどい、ミヤちん! なぜすぐに俺のせいになるんだっ……!」


「あんたはリアルでもゲームでも前科が多すぎるのよっ……! 自覚しなさいよっ!」


「わぁーっ、わぁーっ、お耳がぴくぴく動いてるよ~~っ! きゃわいぃ~~っ!」


 お星様がつまった瞳できゃーきゃーとミライが騒ぐ。


「にひひ。あの様子だと俺たちに何か用があるんじゃないかなぁ?」


「私たちが彼女に眼をつけられる理由はないはずだけれど……。もしかして彼女もジョルトー女王と同じように私たちがテロリストだと勘違いしているのかしら」


「だとしたら〈黒ウサギ〉に言われてセイギをデリートしにきたのね」


「だとしたら〈黒ウサギ〉に言われてセイギくんをデリートしにきたんだねぇ」


 納得して作戦会議を終えようとしたミヤとトラを俺は両腕で引き寄せた。


「なぜそういう結論に至るんだっ、貴様らっ……! その腐りかけた脳味噌を働かせてもっとマシな見解を出したらどうだっ……! 本当に俺がデリートされたらどうするんだっ!」


「にひひ、そう言われてもねぇ。〈白ウサギ〉ちゃんって天然入ってるから何考えてるのか分からないかんねぇー。推測するのは難しいんじゃないかにー」


「あぁー、分かった。もしかしてあんた、〈白ウサギ〉に怒られるのが怖いのぉ~? あんなに可愛いのに~?」


 意地悪く笑うミヤに俺は見当ハズレもいいところだ、と言わんばかりに冷静に言い放つ。


「こ、こここ、怖くなんかないですぅうう……!」


「……開始一ヶ月半にして永久BANなんて。短い挑戦だったわね」とこれはナーガだ。


「不吉なことを言うなよぅっ……! 泣くよぉ!? しまいにゃ泣き叫ぶよぉ!?」


「ねぇねぇっ、だっこしに行っていい? くりっとしたおめめもかわいーっ!」


 真剣に話し合う俺たちをよそにミライは視線を〈白ウサギ〉と俺たちの間で忙しくしていた。

 それに俺たちは思わずため息を吐く。

 今さらながら彼女がリーダーだというのは大きな過ちだと俺は思った。

 顔を寄せ合い密談している内容をなんとか盗み聞きしようと思ったのだろう、〈白ウサギ〉がとてとてと走って物陰から出てきた。近くにいた果物屋の店主の足に隠れ、そろりと顔をだす。

 果物屋の店主は自分の足にしがみついた〈白ウサギ〉を不思議そうに見下ろしていた。


「ねぇ、もうこっちから声をかければいいんじゃないの、あんたが」


 ミヤが俺へと顔を向けた。


「なんで俺なの!?」


「それもそうだわ。こっちから声をかければいいんじゃないかしら、あなたが」


 ナーガも俺へと顔を向ける。


「だ・か・ら・なんで俺なのっ!? 本当にBANされたらどうすんのっ!?」


「えっぐ……! まぁくん……わたしたちのために犠牲にっ……!」


「なってたまるか!! よぉーし、何か言ってやれ、トラっ!」


「いってらっしゃぁーい」


 トラは笑顔で俺に手を振っていた。

 ひぎぃっ、この裏切り者があああっ!!


「まぁくん、頑張って! 〈白ウサギ〉ちゃんのお話を聞いてきてよっ!」


「よぉーし、ここは公平に【ダイス】で決めよう! 公平になっ!」


 このままだと流れで俺が訊きにいくことになりそうだったので、俺はその空気をぶった斬るため声を大にした。さらに『公平』という言葉を使うことで反論の余地を埋める。

『ワールドマスター』には【ダイス機能】が存在する。

 サイコロを振ると、0から999までの数字の内、まったくのランダムで選ばれた数が一つ表示されるという機能だ。レアアイテムを入手した時などによく使われる。複数人で一つしかないレアアイテムを入手すると誰に所有権を譲るか問題になりがちだ。そこで【ダイス機能】を使い、一番高い数字を出した人に所有権を譲る、といった具合でルールを定めてサイコロを振るのだ。

 この公平なやり方で決めてしまえば文句もでず、うまく場がまとまるというわけだ。


「言いだしっぺが負ける法則」


 ぼそりと言ったナーガの台詞に、ミヤが「ぷふっ」と笑った。


「ふん。笑うならダイスを振ってからにするんだな。いいか、一番少ない数が出た奴が訊きにいくんだぞ。一度きりだからな。『待った』無しだからな。いいか、一番少ない――」


「はいはい。分かったから。何度も言うんじゃないわよ。じゃあ、先に振るわよ」


 ミヤは手の平に突如出現したダイスを地面の上にコロコロと転がした。

 すると、システムメッセージがダイスの上に表示される。


【ミヤはダイスを振った! 結果は5だった!】


「くっくっく……あーっはっはっは! ギャーッハッハッハ! お前は天才かっ! 余裕ぶっこいて出した数字が『5』とか救いようがないなっ! ぎゃはははははっ!」


 俺は思わず爆笑してしまった。『5』というもはや起死回生の好機もない数字を出してしまったご本人は両手で顔を覆い、無言になってしまった。相当ショックが大きかったらしい。

 いい気味だっ、ざまぁみさらせっ……!


「あ、よゆーよゆー。さすがに『5』より下が出るとかないわー。あ、よゆーよゆー。負けるのが1000分の5の確率とか、あ、よゆーよゆー」


 俺は手に現われたダイスを転がす。


【セイギはダイスを振った! 結果は1だった!】


「………………………………」


 俺は表示されたメッセージに思わず両手で顔を覆い、無言になってしまった。


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