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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR5 『蠢くテロリストプログラム』
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第七話 『逃亡者』

 

 何かあるはずだ……! この状況から脱出できる術が……!

 俺は普段使っていない頭をフル回転させて思考する。

 そしてすぐにハッとなって顔をあげた。すぐに閃きが降りてきたのだ。

 脳裏に彼女が言っていた言葉が反芻される。


 ――ほら、あそこです。薔薇園の角っこに城下町へ降りられる抜け道があるんですよ。


 そう――フェレアさんは言っていたじゃないか……!!


「……薔薇園ッ……! みんな、薔薇園だッ!!」


「……なるほど、そうだわっ! フェレアさんが言っていた抜け道を使えば城下町に降りられるわ……! お手柄よ、セイギくん!」


 俺たちはすぐに城門から横に見えている薔薇園の中へと入っていった。

 かぐわしい薔薇の香りの中を奥へ奥へと急いで進んでいくと――


「あったよん! 抜け道だぁね!」


 山に埋まるように建てられたジョルトー城の真横は急斜面の岩場が広がっていた。城下町へと続く側は高い城壁が存在するが、こちら側は高い柵によって阻まれていた。

 その柵の下の一部をよく見ていけば、柵が折れ曲がって人一人がかがんで抜けられる程度の空間が開いているじゃないか。俺たちは四つん這いでその穴を抜け、敷地内から外へと出る。

 岩場に伸びていたのは人一人が通れるぐらいの狭い道だった。

 道は山頂方面に登っているが、フェレアさんの話からしてどこかで城下町へと分岐しているに違いない。

 もちろん舗装などされているわけもなく、獣道に近い。……かなり足場は悪いが選り好みしている場合じゃない。ふと見るとミヤの額に汗が滲んでいた。ミライを背負って城内を走り抜けたのでかなり体力を消耗したらしい。


「ミヤ、辛そうだな。足場が悪くなるしミライは俺が背負うよ」


「……優しくしても何もでないわよ」


「ふっふっふ、勘違いするなよ、ミヤちん。俺はCカップを背中に味わいたいだけだ」


「はい、トラ。ミライ背負って」


 ミヤちんは俺を無視してトラへミライの体を預ける。

 ちっくしょぉおおお! なんでこの口はすぐに本音が出ちゃうんだあっ!!

 思わず俺は涙を流しながら自分の頬を指でつまんだ。

 岩場を上へ上へと進んでいるとやはり分岐点があった。

 上――頂上に続く道と、下――城下町に続く道だ。

 そこから下に見えるジョルトー城に眼をやると、そこが謁見の間なのだろう、黒い煙がまだもくもくと立ち上っていた。

 俺たちは足を止めてその様子を見つめる。

 みんなが何を思ってジョルトー城を見つめているのかは分からないが俺の胸に去来しているものとそう違いはないだろう。俺の胸に去来しているもの、それは『しばらくこのジョルトー城へは帰って来れない』という予感だった。

 まさかこの城に来る前と来た後でこんなに状況が変わってしまうとは思っていなかった。

 まだうまく考えがまとまらないが、この後の俺たちの行動しだいではこの予感が的中してしまう可能性もある。

 もちろん、これから俺たちはこの予感を拭うために行動を起こしていかなければならないが……。


「……行きましょう。追っ手がくるかも知れないわ」


 ナーガの言葉に俺たちは城下町へと山道を下っていった。






 山道を下りてから少しの時間が経っていた。

 俺たちは今、城下町の裏路地に潜んでいる。もう俺たちが城内にいないのはバレているらしく、物陰から顔をだして確認すると城下町のあちこちで兵士たちの姿を見ることができた。

「こっちにはいなかった! くそ、どこに隠れてやがるんだ!」とか「探せ、探せッ! まだそう遠くは行ってないはずだ!」なんて叫びながら走り回っている。

 彼らからすれば俺たちは巨悪の根源。その表情からは『必ずや見つけだしてやる』という気迫が簡単に読み取れる。……ったく、男に追いかけられても嬉しくないっての。


「これからどうするの? かなりまずい状況よ、これ。まさかゲーム内で逃亡者になるなんて……」


 大通りからこちらへ視線を戻したミヤは気落ちした表情をしていた。


「にひひ、ログアウトして逃げちゃう?」


 お気楽なトラの発言にナーガが首を振る。


「そういうわけにはいかないわ。少なくとも私たちの嫌疑は晴らさなくてはならないわね。でなければこれからの行動に支障がでるもの。それに、フェレアさんがまだ捕まったままだわ。途中で投げ出すなんて薄情なことをしたらこの子がどれだけ暴れるか分かったものじゃないわね」


 ナーガの視線の先、路地裏の壁にミライは背を預けて座らされていた。まだよだれを垂らして幸せそうな顔でぐーすか眠っている。

 たしかにフェレアさんを放ったまま『ワールドマスター』を辞めるなんて言ったら本当に刺されそうだな。まあ、辞める気なんてさらさらないんだけど。

 ナーガはしゃがんでミライの眼前に指をやった。指で指を弾いてぱちんと鳴らすと、ミライが「ほえ?」と間抜けな声をだしてゆっくり眼を開いた。

 ミライは俺たちを見、周りの景色を確認する。そして急にがばっと立ち上がった。


「――フェレアさんっ!!」


 だがすぐにナーガが肩を押さえてミライをしゃがませ、もう片方の手で口を抑える。


「静かに。ミライ、私たちは追われているわ。分かるわね?」


 こくりとミライが頷いたのを確認してナーガは彼女の口から手を離した。


「フェレアさんを助けたい気持ちは私たちも一緒だわ。協力して頂戴。まず、彼女を助けるには私たちの疑いを晴らさなきゃいけないの。分かるわね?」


「……うん」


「……にしても、セイギくん。なんでウィルスなんか持ってたの?」


「あ、そうよ、セイギっ! あんた、どうしてウィルスを持ってるのよ!? あのナイフ、どうやって手に入れたわけ!? あんたまさか本当に《リベレイター》なんじゃないでしょうね!?」


 物凄い剣幕で詰め寄ってくるミヤちんをどーどーと俺は手でおさえる。


「……えーっと、あれは、だな……」


 俺が歯切れ悪く口ごもっていると、ミライが自ら説明を始めた。


「ち、違うのミヤちゃん! わたしがまぁくんにプレゼントしたのっ……! プレイヤーが開いている露店から買ったんだけど……まさかこんな事になっちゃうなんて……。……ごめんなさいっ!」


 ミライが身を折って頭をさげる。殊勝な態度の謝罪に、言及しようとしていたミヤの勢いも下火になっていった。少しバツが悪そうにミヤは鼻を掻く。え、あれ? ミヤちん、俺が相手だったらきっとバリバリに追及してたよね? なにそれ? え? なにそれ?

 俺がジト目でミヤを見るとミヤはつつーと視線を反らした。


「それってつまり、ナイフを売っていた露店商が《リベレイター》だった……ってことだよねん?」


「分からないわ。誰かから買ったものを売っていた可能性もあるわね。とにかく、その露店に行ってみましょう。店主を問い詰める必要があるわ」


「疑いを晴らすにはそれしかないよねん。真犯人を捕まえようよん」


 ナーガとトラの建設的な意見にミヤが俺とミライへと顔を向けた。


「二人とも、その露店が出ていた場所を覚えてる?」


「フッ、もちろんさ、ミヤ。この俺が案内してやろう! ついてこい!」


 俺は胸を張ってぐっと親指をたてる。


「あんたが威張るなっ!」


 ドヤ顔が気に入らなかったらしく俺はミヤに尻を蹴られるのだった。






 それから俺たちは行く先に兵士がいないか注意して裏路地を進んでいった。

 物影に隠れながら小走りで移動しているとなんだか誰かを尾行する探偵にでもなった気分になっちゃうなぁ。

 まあ、実際は追っているんじゃなく追われているんだけどね!


「……いないな」


「……うん、いなくなってる」


 俺とミライは物陰から人気の無い通りを見てそう呟いた。俺たちの記憶が確かであればその通りの真ん中に露店が出ていたはずなんだけど。


「は?」と後ろから威圧感がこもったミヤの声が返ってくる。


「いなくなってる。ははは、確かにあそこで露天を出していたんだけどな! こりゃ俺たち《リベレイター》にハメられたかな! はっはっは!」


 俺は場を明るくしようと努めて陽気に言ってみた。だがそれがミヤの癇に障ったらしい。


「…………。……あんた、いっぺん死ぬ?」


 ミヤがバキバキと拳の骨を鳴らした。

 ひぃいいっ! 眼がマジだってば、ミヤちーん!


「こうなると手がかりがないよねん。いつまでもここで見張っておくわけにもいかないし」


「……そうね。目的の露店商がまたここで店を出すかどうかも分からないわ。いえ、と言うよりもし本当にその露店商が《リベレイター》だった場合、ここで店を出す可能性は皆無と言っていいわね」


「そ、そんなぁ~~」とミライが情けない声をあげた。


 そこでふと俺はこちらを見つめる視線を感じ取った。

 まさか……例の露天商か……?

 きょろきょろと辺りを見回してすぐに俺は視線の主――人影を見つける。

 だがよほど注意深いのか、監視者の姿形が視界に入る前に大通りにある果物屋の物陰へ潜んでしまった。

 微かに見えた人影はどうやら少女、いや幼女のように見えたけど……。

 背丈はおそらく俺の腰辺りまでしかないんじゃなかろうか……。

 少なくとも、あの露天商ではなさそうだ。

 いや、よくよく見てみれば人影は隠れきれていなかった。

 頭頂部から真上に生えた白く長い耳がぴょこんっと陰から飛び出して日の光を浴びている。

 ……ウサギの耳……だよね、あれって……。

 ウサギ耳の幼女といえば俺はすぐあまりに有名な人工知能の存在を思い出す。

 ま、まさか、あれって――!


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