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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR4 『偽りのディカイオシュネプログラム』
53/109

第九話 『実質の決勝戦じゃない!』

 

 本物の存在を証明すれば、嫌でも奴が偽者だと分かる。

 これでハッピーエンドだ。

 ナーガは偽者の元には行かない。

《ユビキタス》はこれまで通り馬鹿を言い合いながら気ままに『ワールドマスター』の攻略を目指すことになる。

 だけど、これはできない。

 ……できない。絶対にできない。

 二年前の出来事が最後まで片付くまでは――本物の“魔王”は存在してはいけない。

 だから、俺がナーガを引き止めることは――できない。

 俺はぐっと奥歯を噛んだ。

 そして努めていつも通りの表情を作る。


「……そっか。……そのこと、ミライには?」


「……まだ、話していないわ。……タイミングが、ないのよ」


 俺たちは黙り込んだ。パチパチと火が爆ぜる音が俺たちの間を支配した。

 その沈黙を裂くように戦闘を終えたトラとフェレアさんがやってきた。


「にひひ。討伐クエストクリアだよーん。報酬はなんだろねぇー?」


「なかなか良い相手でした。まだまだ私たちは強くなれそうです」


 二人は焚き火を囲むように座って、輪に加わった。


「レベル28対象のクエストだったしそれほど良い物でもないでしょう」


 そう言ったナーガの視線は小説へ戻っていた。わんわん泣いているミライに抱きつかれながら歩きにくそうにやってきたミヤも同じように円になって腰をおろす。


「何言ってるのよ、ナーガ! 現状でレベル28クエなんて受けてるのは一握りじゃないのよっ! ひっろい砂漠の中の砂粒一つぐらいの勢いで一握りよっ!? はっきりいって尋常じゃないレベルよ、私たち! 狂ってるわよ! 廃人じゃなく狂人よっ!」


「にひひ。セイギくんが目ざとくおいしいクエストを見つけてくれるからねぇ。高速道路を爆走するレーシングカー並に効率良くレベルが上がってるよねん」


「そうね。このクエストも私が斡旋所に行った時はリストになかったはずなのだけれど。セイギくんはどこかで何らかのフラグを拾ってきているのかしら……。不思議だわ」


 ナーガは親指で唇を押さえて考え込みはじめる。


「こいつ、リアルもゲーム内も行動が変だもの。普通の人じゃ拾えないようなフラグをぽんぽん拾いまくってるんじゃないの?」


 ひどい言い様だ……。だが今のところそう考えるのが妥当なので俺は黙っているしかなかった。


「……そういえばクノッソの村でも斡旋所でグラハドさんにいきなりアリゲイター討伐クエストを紹介されていましたね。やはりセイギさんには何かあるのでしょうか」


「いーや、まっだまだだよ、みんなっ! わたしたちが一番に『ワールドマスター』を攻略するんだからっ! このまま突っ走っちゃうよーっ! えいえい、おーっ!」


 ミライが一人で右拳を何度も天に突き上げる。


「にひひ。まあ、この調子だと一番も狙えなくはないんじゃないかにー? トップ集団の中でも半ばくらいには位置してると思うよん。って言ってもプレイヤーの人数が人数だから、俺たちよりも上は百人単位でいると思うけどねぇー」


「ああああっ! 忘れてたぁ!」


 急にミライが声をあげて立ち上がるので、俺たちは何事かと彼女に注目する。


「今日は〈エクスカリバー〉さんの試合がある日だよっ! 準決勝戦だよっ!」


「どうせ〈エクスカリバー〉の優勝だろ。観に行く価値なんてないってば」


 俺はこんがりと焼きあがった豚さんの串刺しをぶんぶん振った。


「そんなことないわよ。あの人の試合は観る価値あるじゃない。あんたみたいな低BQには分からないでしょうけど」


 悪かったな、低BQで……。ほんといつかミヤをぎゃふんと言わしてやるんだから!


「それで〈エクスカリバー〉さんの相手は誰なの?」


「えっとね、“魔王”の〈ジャスティス〉さんだよっ!」


 ミライが発した思わぬ対戦相手の名に俺たちは思わず固まってしまう。

 放心してしまった俺は食べかけていた【豚のこんがり焼き】をぽとりと地面に落としてしまった。





「こんなに急ぐ必要あるのかっ!? まだ始まるまで一時間近くあるんだろ!?」


「馬鹿ねっ! “聖剣”の〈エクスカリバー〉VS“魔王”の〈ジャスティス〉なんて好カードなら一時間前でも満員になってる可能性あるわよっ! 実質の決勝戦じゃない!」


 俺たちは城下町への帰路を急いでいた。といっても徒歩で帰っているわけじゃない。フェルゴというダチョウに似た生き物に乗って移動しているのだ。

 フェルゴはジョルトー城下町の初期クエストで手に入る長距離移動用のペットだ。【フェルゴの笛】を鳴らすことでどこからともなく自分専用のフェルゴが駆けつけてくれる。これが凄まじく足の速い動物で、人一人を乗せて走っているのに徒歩一時間の距離を三分で走破してしまうのだ。徒歩が時速5キロだと考えると、フェルゴは時速一二0キロで走っていることになる。

 上下に揺れる独特の乗り心地ではあるがバイクでかっ飛ばしているような爽快感に病みつきになるプレイヤーも多く、巷ではフェルゴレースなるものが流行っているのだとか。

 なんでもフェルゴには個体特徴があり、性格や足の速さが違うらしい。与えるエサによって【持久力】【スピード】【乗り心地】などが変化するため、自分のレベル上げをそっちのけにしてフェルゴの育成ばかりしている人たちもいるのだとか……。彼らにとって『ワールドマスター』はフェルゴ育成ゲームと化してしまっていることだろう。

 俺たちはルトワナ丘陵を抜け、マーセル湿原を突っきり、キラー・ビーの森を走っていく。次々と変わる景色よりも見ていて飽きないのが、フェルゴとミヤの関係だった。


「まだまだ遅いわよっ! そんな走りで私の足に勝てると思ってるの!?」


「ク、クケーッ!」


 俺たちの先頭をミヤが独走していた。ミヤはフェルゴに乗らず自らの足で走っているのだ。そんなご主人様をニ馬身ほど離れたところでミヤのフェルゴが必死に追いかけている。


「もう少しスピード上げるわよ! 私より後についたらエサ抜きだからね!」


「ク、クケェー!?」


 みるみるうちにミヤの背中が小さくなり、ついに見えなくなってしまう。

 ミヤ、お前のフェルゴ……心が折れてちょっと泣きそうになってますよ。ってか、ミヤちんがフェルゴレースに出場したら優勝するんじゃないの? 一儲けできるんじゃないの!?

 森を抜けジョルトー草原に入ると、今までまばらだったプレイヤーが至るところで見受けられた。草原には初心者から上級者までいるようだった。

 ジョルトー草原は城下町から近いということもあるが、モンスターの種類も豊富で回転数を上げれば金策にもってこいの狩場なのだ。経験値こそ少ないが効率の良い金稼ぎならば今のところ一、二を争うらしい。

 そのプレイヤーたちが呆然とした顔で城下町の正門を見つめているのはきっとミヤが通ったからに違いない。そりゃそうだろう。フェルゴより速く走っている奴を見たら驚くより他はない。もはやミヤはこの世界で自他共に認める最速のプレイヤーだろうなー。

 城下町の正門前でフェルゴから降りる。

 フェルゴにエサを与え、頭を撫でてやると一声鳴いて草原へ駆けて行った。……いつも、どこに帰ってるんだろうね。今度こっそり後をつけてみたいなぁ。フェルゴばっかりが住んでる集落があるかも知れない。


「い、急いで、まぁくんっ! 席がなくなっちゃうよ!」


 フェルゴを見送っていると後ろからミライの急かす声がかかった。

 俺たちは城下町の行き交う人込みの中を走りながら闘技場を目指した。案の定、途中でバテて失速するミライの手を引きながら闘技場の中へと駆け込む。

 観客席への階段を駆け上がると、目に入るのは溢れかえる人、人、人……。

 闘技場の客席はもうすでにすべて埋まっていた。

 当然だろう、なんせこれは『ワールドマスター』で行われている人類武闘会準決勝戦なんて単純な試合じゃない。CSNゲーム界の頂点を決めるような世紀の一戦なんだもんなー。まあ……“魔王”さんは偽者なんですけどね!

 俺たちは通路で立ち見しなければならなかったが、まだ観ることが出来るだけマシかも知れない。この分じゃあと一〇分もすれば闘技場にさえ入れない状態になるだろう。

 トラが闘技場に入る時に受け取った今日の対戦スケジュールを開く。


「準決勝戦は七位決定戦と五位決定戦の次だぁね。二試合前でこの観客数とはねぇ」


 舞台の上ではその七位決定戦とやらが行われていた。

 カードは《スクトゥム》セルズリーダー“盾姫”の〈ステラ〉と《ディカイオシュネ》の腹黒幼女……いや腹黒少女、こと“小悪魔”の〈アゲハ〉だった。

 あーあ、“盾姫”ちゃん空回っちゃってる……。

 人をくったような〈アゲハ〉の戦い方に素直な“盾姫”ちゃんは踊らされていた。

 アゲハと真っ当に戦おうと思ったってダメなんだよねー。『正直者は馬鹿を見る』という言葉を表しているような試合展開だった。

 うーん……“盾姫”ちゃん、がっちりぶつかり合える相手とは相性良いんだろうけどなぁ。《七雄剣》の【二つ名持ち】らと戦ってもわりと善戦しそうな実力はあるのに、よりによって“小悪魔”が相手とは……今回はくじ運が悪かったかぁ、残念。

 それでも必見の好カードには違いない。だというのに、観客の目線がさっきからチラチラと舞台から離れていることに俺は気づいた。

 その視線を追うと、そこには《ディカイオシュネ》の一団が観客席に座していた。

 そこに例の偽“魔王”様もいらっしゃる。

 偽“魔王”様は試合を観ずにあらぬ方向を見据えていた。

 俺はさらにその視線を追ってみる。そして納得した。

《ディカイオシュネ》の対角線上の席に《七雄剣》の一団がいるではないか。

 その中央に座る〈エクスカリバー〉も試合に眼をくれず偽“魔王”を見据えている。

 観客席で《ディカイオシュネ》と《七雄剣》はバチバチと火花を散らしていたのだった。

 あー、これは観戦にきた人も気になっちゃうよねぇ。いつ場外乱闘が始まってもおかしくない雰囲気だもんねぇ。こんなんで舞台の試合に集中できないよねぇ。


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