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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR1 『始動するワールドマスタープログラム』
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第五話 『深刻なツッコミ不足』

「大丈夫かしら……あなた、顔が真っ青になっているけれど……」


「そうだよ! 真っ青だよ! 冷たい青色だよ!」


「あら? おかしいわね。私、今日は紫色を履いてきたはずなのだけれど」


「誰も下着の話はしてなぁあいッ! あなたの中では色の話=下着の話になっちゃうの!?」


「えへへ。わたしは今日、ピンク色だよー? ピンクかわゆいでしょー?」


「今まで黙ってたくせにこんな話にいきなり乗っかってくるなぁ!! もうボケるのはいいからはやく本題に入れよぉ!」


「分かったわ。本題に入りましょう。今日、私が履いている下着の色は黒色よ。嘘をついてごめんなさい」


「お前の下着の色を話し合うために俺たちは集まってたの!? なんなんだよ、その変態集会は! 次回開催はい・つ・な・ん・だ・よっ!?」


 俺は怒りのあまりバンバンと机を手の平で叩いてしまう。


「にひひ。全然、話が進まないねぇ」


 大抵のことに動じない虎雄もさすがにポリポリと頬を掻いて苦笑していた。


「フッ……。私がいる限り……これ以上先へは――進ませないわ……!!」


 ばっ、と永森さんはカッコ良く両手を交差させ戦闘態勢をとっていた。


「進ませてあげてくださいっ! 立ち塞がらないであげて! その台詞はもっとシリアスなシーンのためにとっておけよぅっ!」


 なんなんだこの深刻なツッコミ不足は……! どうしてボケ担当の俺が始終ツッコミに回らなきゃいけないんだっ……! くそっ、負けないぞぅ! 強引にでもボケて俺のペースに引き込んで永森さんを青色吐息にしてくれる……!


「まったく、頼むから早く用件を話してくれないかね。俺はこう見えて暇じゃないんだよ、チミィ。なぜなら保護愛溢れる俺ちゃまはこれから動物愛護団体の公演でスピ――」


「さあ、本題に入りましょうか! 私は『ワールドマスター』というCSNゲームにとても興味があるのよっ!」


 その上を行く強引さで永森さんに遮られてしまった。カッコつけて髪をかきあげた状態のまま俺は固まってしまう。……完全敗北だった。きっと俺はこの人に一生勝てないのだ。

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、飄々と永森さんは話を続ける。


「どれくらい興味があるか例えるならば『処女喪失ってどれくらい痛いのかしら』という疑問と同じくらい興味があるわ」


「お前のモノサシで話をするなああぁ! そういう例えはやめろよぉお! 俺は見た目以上にウブな少年なんだからどう反応すればいいのか困っちゃうだろぉ!」


 未来がオレンジジュースを噴き出しそうになって口を押さえ、けほけほと咳をする。

 その顔は茹蛸みたく真っ赤になっていた。ふん、カマトトぶりやがって。その顔と体なら星の数ほど男をひっかけているだろうに。


「にひひ。でも若干、話は進んだぁね」なんて虎雄は前向きなことを言っていた。


 いや、このままだと『ワールドマスター』のワの字に入る前に夜になっちゃうから!

 だ、大丈夫なのかCSN同好会は……。こんな状態ではさすがの俺も心配になってくる。

 いや、未来も伊達や酔狂で会長を名乗りでたわけでもないはず。BQも高かったしCSNゲームじゃ相当なヘビープレイヤーなのだろう。しかもCSN同好会なんて立ち上げるほど積極的な人間だ。

 きっと鶴の一声で場をまとめてくれるに違いない。


「明日野さんはCSNゲームどころかゲーム機を一度も触ったことがないのよね?」


「うん、そうだよー。でもねっ、CSN同好会の会長として頑張っちゃうよっ」


 可愛らしく鼻を鳴らしている未来に、俺はテーブルにゴチンと額をぶつけた。


「はい、ストーップ! よぉし、一旦みんな落ち着こうか! ひとまず冷静になろう! みんなでちゃんとしっかり一つの話題に絞って会話しようぜ!!」


 俺は立ち上がり、両手をあげて三人の注意をひきつける。


「あら、嫌だわ。なにをいきなり仕切りだそうとしているのかしら。恥を知りなさい」


「そうだよ、まぁくんっ。会長閣下はわたしだよっ! いくらまぁくんでも譲らないよ!」


「にひひ。一番冷静さを失ってるのは正義くんじゃないのー?」


「黙らっしゃい! いつまでもこんなナメクジ速度で進む会話に付き合ってられるかっ! 未来っ、お前は本当に一度もゲームをやったことがないのか!?」


「うん、ないよ? あ、ミヤちゃんもやったことないって言ってたよ」


 俺は思わず未来の胸ぐらを掴んでがっくんがっくんと頭を揺さぶった。


「誰だよっ、そのミヤちゃんってえぇえ! お前はもう少し順序だてて話せないのか!? それとも何かぁ!? お前はそのミヤちゃんってのを全国共通老若男女別なく誰でも知っているような有名人だとでも思っているのかぁ、あぁん!? 勝手に登場人物を増やすなよぅ! いい加減にしてくれよぅっ! もう俺はマジで限界だぞぉ!?」


「お、おちちちち、ついてててて、まままま、まぁくーん!?」


 永森さんと未来が言うにはCSN同好会にはもう一人会員がいるらしい。

 俺は『ミヤちゃん』がツッコミ要員であることを心の底から願った。


「ミヤちゃんは置いといて。コホン、議題は『ワールドマスター』というCSNゲームについてだ。散々噂は耳にしているがどういうゲームなんだ、永森さん」


「話して欲しいなら『永森様、教えてくださいブヒ』と言いなさい、卑しい豚が」


 永森さんの見下すような視線を受け、ぶちっ、と俺の血管がついに切れた。


「――ぶち殺がしちゃる……!!」


 俺はテーブルを持ち上げて永森に投げつけようとするが、慌てて未来と虎雄が俺を羽交い絞めにして止めに入った。


「うがあああっはなせぇっ!! ここまでコケにされて黙って――」


「――人類への挑戦状」


 不意に、永森さんが呟いた。真剣味を含んだ彼女の声は、今まで軽口を叩いていたとのはまるで違う声色になっていた。緊迫感さえ孕んだ声遣い。

 俺たちを黙らせるのは、その静かな声で充分だった。


「『ワールドマスター』はただのCSNゲームじゃないわ。これだけ話題を呼んだ理由は色々あるのだけれど、まず開発者が人工知能……ということにあるわね」


 俺はテーブルを下ろすと、ソファに腰を落ち着かせて腕を組んだ。

 そんな俺を見て、未来と虎雄はほっと胸を撫で下ろし、改めて永森さんの言葉に耳を傾ける。


「日本のサイバーネットワークを管理する人工知能〈US.G〉。……〈黒ウサギ〉が『ワールドマスター』の開発者なのよ。そして人類へ挑戦状を叩きつけたのも、彼女よ」


 サイバーネットワーク――全世界を相互に接続した巨大なコンピューターネットワークのことだ。

 人類はこのサイバーネットワークと人工知能により水道、ガス、電気、その生活のすべてを自動制御している。インフラ設備だけでなく、自動車、電車、飛行機といった交通機関もそうだ。これらのことを管理しているのが日本のサイバーネットワーク――ひいては人工知能〈US.G〉なのだ。


「〈黒ウサギ〉って……ネットで可愛がられてるあの子だよね?」


 未来の問いに永森さんは静かにミルクティの入ったカップから口を離す。


「未来が言っているのはおそらく〈白ウサギ〉と呼ばれるCSNサーバを管理する人工知能のことだわ。『ワールドマスター』を開発したのは日本を管理している〈黒ウサギ〉よ。余談だけれど、彼女らは姉妹という設定らしいわね」


 人工知能にはイメージ戦略で作られたキャラクターが存在する。

 日本で唯一、正一位の権威を持つ人工知能――〈黒ウサギ〉は表舞台にまったく姿を見せないのでどんなキャラクターをしているのか未知とされている……が、その妹、正二位人工知能〈白ウサギ〉は真っ白の髪からウサギの耳が生えた幼い女の子で、ゴシック・アンド・ロリータ調のこれまた真っ白いフリルワンピースを着たキャラクターだというのは周知の事実だ。

 アホの子と呼び声高い〈白ウサギ〉は、好奇心旺盛でよくサイバーネットワークに降臨なさって大きいお兄ちゃんたちに、からかわれ――もとい遊ばれ――……もとい……えーっと、教育してもらっているようだ。

 そんな〈白ウサギ〉の上位に位置する人工知能が姉の〈黒ウサギ〉である。

 天然の妹と、姿を現さない姉。世間にとって未知である〈黒ウサギ〉がCSNゲームを創ったというのだから、それだけで話題になるのは当然のことだ。


「公式で発表されている前情報を見たゲーマーたちが『ワールドマスター』を評する言葉を借りるなら……『攻略不可能』だそうよ」


「攻略不可能、な。まあ、あの〈黒ウサギ〉が創ったっていうなら頷けないでもないよな、その意見は。ってそれはゲームとして成り立ってないんじゃないの? ゲームは難易度が高くても攻略できる前提でなけりゃ面白くないんだけど」


「にひひ。まだパンドラの箱は開いてないからねぇ。プレイしてみないと何とも言えないと思うけどねぇ」


「死んだらデータが消えるのよ、このゲーム。それが攻略不可能と言われている理由よ」


 ……は? 死んだらデータ削除だって?


 俺が絶句していると、横から虎雄がいつもの軽い調子で補足を入れる。


「正確には成長させたデータだよん。早い話がレベル1からってことだぁね。銀行に預けた武器、防具、アイテムは残るからすべてが最初からってわけじゃーないねぇ。あ、死んだ時に持ってたアイテムや武具はロストするんだっけ?」


 充分に激マゾですけどぉっ!? なんでみんなそんなゲームをやりたがってんの!?


「デモ動画は公開されているし、存在するスキルなど多少の前情報はあるのだけれど……どんな戦闘システムなのか、どんな世界観なのか、どんなクエストがあるのか、どんなアイテムがあるのか……。その内容を知るのはただ一人〈黒ウサギ〉だけよ。

 私たちは一から何が出来るのか、どんな世界なのか、どんなアイテムがあるのかを調べて、攻略していくしかないわ。未開の地に足を踏み入れる冒険者になれということね。

 客引きとしてはこれだけでも充分だったのだけれど、さらに話題を呼んだのがもう一つの点……それはCSNゲームとしてはあまりにも異質だわ」


 永森さんは俺が購入したゲーム誌をぱらぱらとめくり、とんとんと指先で叩いた。

 そこに書かれていたのは『ワールドマスター』を最初に攻略したプレイヤーに賞金が贈られるという内容だった。

 まあ、攻略に賞金が出るのはそこまで珍しいことじゃ――って……!

 その額を見て俺は言葉を失い、眩暈がした。

 賞金一〇〇億円!? なんだよこれっ! このゲームの攻略は国家事業なのっ!?

 ふざけている。馬鹿げている。

 たかがゲーム攻略するだけで一〇〇億円が手に入るなんて眉唾な話が……マジなのかよ……。

 たしかに死んだらデータ削除という難易度や、一番最初のプレイヤーのみという条件は厳しい。だがそれらを考えた上でも眼を剥くような報酬額だった。しかも他にも豪華な副賞がついてくるらしい。

 虎雄が『知らなかったの?』という眼で俺を見ていた。聞いてませんけどぉ!?


「スポンサーだけじゃなく、政府からも何割かが出てるらしいよん。国民平均BQを高められるなら安いものってことだろうねぇー。そんなに天才超人を作りたいかね、政府は」


「きっと裏があるんだよっ! 陰謀だよ、陰謀!」と興奮気味に話す未来さん。


「政府の思惑はともかく、これが決定打になったわ。今までCSNゲームに興味はあったけどきっかけがなくプレイしてなかったという人、興味さえなかった人まで巻き込んで大反響を呼んだのよ。ゲーム雑誌では半年も前から毎週特集が組まれ、巨大掲示板サイト『電脳ちゃんねる』では今の時点で三五六〇〇スレを越すお祭り騒ぎ……ニュースでも連日取り上げられ、サービス開始三ヶ月も前から社会現象とまで言われる始末よ」


 永森さんは肩をすくめ、一旦言葉を区切った。


「サービス開始の今日までで累計販売本数はニニ〇〇万本。日本の六人に一人はもう購入している計算になるわ。CSNゲームのアクティブアカウント数から考えて現状でCSNゲームをプレイしている人間は全員が参加すると言っていい数字でもあるわね。いいえ、それだけじゃない。この先もっと増えるに違いないわ。はっきり言って――異常な現象よ」


 頬を、冷たい汗が流れる。

 世間がそんなことになっているなんて全然知らなかった。

 どうやら『ワールドマスター』は俺の想像を遥かに超える注目を受けているらしい。

 同時にクラスメイトたちが何ヶ月も前から『ワールドマスター』の話をしていた理由がやっと分かった。

 ゲームといえばCSNゲームが主流だ。学生の七割方はサイバーセルズに所属するといわれる現代で、彼らの関心を集めるのは容易いことだったろう。


「正義くんは知らないんだろうけどさぁ。発表された時、ネットもそりゃ大騒ぎだったよん。次から次に移住を決定したセルズの表明で毎日がお祭りって感じだったねぇ。『Bomb Cat Online』の《バンデット》も全メンバー移住するんだってー」


 ……へぇ、《バンデット》かー。CSNゲーム界で悪名高い有名セルズじゃん。あの山賊どもは『ワールドマスター』でも暴れまわるつもりなんだな……。


「現状最強セルズといわれる『Cosmo Fantasy Online』の《七雄剣》、その対抗馬である『Burn Shot Online』の《螺旋の騎士》や『ギミックゲート』の《鉄鋼連合》、『ゼロリアオンライン』の《ローゼンクロイツ》、『和国封物記』の《四天女》といった数々の大手ギルドも既に完全移住を表明しているわ。有名なゲーマーもブログで参加表明したりもしたわね。今までのCSNゲームじゃ有り得なかった事態よ、これは」


 思わず『ひゅー』と口笛を吹いた。それらセルズの名前はしばらくCSNゲームから離れていた俺でも分かった。どのタイトルでも名前の通った有名巨大セルズだ。

 しかし未来は全然話についていけず、頭の上に『?』を出していた。うん、ちょっと初心者には濃い内容だったかも知れない。物凄いことなんだけど伝わってなさそうだ。

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