17話 青い光
あたりの羽音が聞こえなくなった頃、クラリスさんは「そろそろいいわね」と辺りを見まわして剣を鞘に収める。僕は息が乱れ頬から顎に伝う汗を手で拭って頷いた。
「……クラリスさん、お怪我は、ありませんか?」
「ええ。大丈夫よ。ノエル様は?」
「大丈夫、です」
息を切らしていう僕に対してクラリスさんは呼吸ひとつ乱れていない。さすがクラリスさんだと憧れが増す一方、好きな人の隣にはまだ並べないことが、少しだけ悔しかった。
「……強くなったわ。私が伝えたこと、しっかり身に付いてる。たくさん努力したんですね」
「ありがとうございます……!」
彼女は僕の努力を認めてくれる。それだけでまた頑張ろうと思えた。
「暑いですね」
クラリスさんは首筋に伝う汗を拭っている。その時銀のチェーンが陽の光に反射したのが見えた。
(付けてくれてるんだ)
チェーンの先は服の中で見えないけれど、きっとあの青が揺れている。そう思えた。
「あの、クラリスさん」
「どうしたの?」
森の小道を歩きながらずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「クラリスさんの剣筋って青く光っていますよね。ユリウス兄様との手合わせの時は光ってなかったですけど、あの青い光って……?」
「ああ、話したことなかったですね」
ふわりと何かを懐かしむように彼女は微笑む。
「これは母から譲り受けたアジュールという剣なの」
「アジュール……」
「魔力を流すと淡く青色に輝くの。戦っている時に強く光って見えるのは流した魔力量が多いから」
立ち止まると「ほら」と剣を抜いて実際に見せてくれる。流す魔力量を変えて淡い光や強い光まで見せてくれた。
「きれいですね」
「ええ。母はとても強い人だったから、私の憧れ」
クラリスさんが憧れた人。今はもういないけれど、きっと受け継いだアジュールに大切な思い出が刻まれているのだろう。
「この青い光、ずっときれいだなって思ってたんです」
「……そうだったの。それは、とても嬉しいわ」
本当に嬉しそうに笑うクラリスさんに、きちんと僕の気持ちを伝えたくなった。
「はい。初めて助けてもらった時から、忘れられない美しい青だとずっと思っていました」
クラリスさんは少しだけ瞳を揺らして、それからまた小さく微笑んでいた。
太陽が強く輝く真夏の日々にも、クラリスさんと過ごす思い出が増えていく。
クラリスさんと領地の見回りをした帰り道に、以前エレナさんから聞いていた星祭のことを話してみる。
「アルヴェイン領の街で星祭があるんです。領地の中でも比較的ベルモント領に近い街なので、ここからでも一時間ほどだと思います。よかったら一緒に行きませんか?」
「星祭、ですか?」
クラリスさんは知らなかったのか、首を傾げている。
「元は秋の実りを願うとか、安らかに魂が眠れるよう祈るとか、そういうものだったみたいですけど。今はお昼から市場が盛り上がって、広場で歌やダンスをして楽しむ日ですね。夕方にはランタンを泉に浮かべ、星空を見上げるのが定番です」
「楽しそう……」
クラリスさんは思わず呟きが漏れてしまったようで、ぱっと右手で口元を押さえていた。なんだか心を許してくれた特別な姿を見れたようで嬉しくなる。
「楽しいですよ。夜には屋敷まで送りますから、ぜひ一緒に行きましょう」
「……はい。行きたいです」




