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1話 六年越しの再会

この作品を見つけてくださり、ありがとうございます。


優しい人たちが紡ぐ恋物語です。

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

「こんばんは、美しいお方。どうか僕と踊っていただけませんか?」


 煌びやかなシャンデリアが大広間を照らし、優雅な旋律が流れ始める。

 僕は深い青色のドレスを身に纏う彼女に、微笑みかけ、手を差し伸べ言った。

 彼女の瞳は戸惑いに揺れ、何か言葉を発しようと唇が震えている。


 周囲にいた令嬢たちがこちらを向いている。ヒソヒソと話しているのがかすかに聞こえるが、僕は構うことなく「レディ、お手を」ともう一度手を差し伸べる。

 二度目の誘いで、ようやく伸ばした手を取ってもらえた。


「……あなたは?」

 戸惑いを隠しきれないまま、僕の名を問われる。驚きからか、少し掠れた声ですら美しいと感じた。

「ノエルです。ノエル・アルヴェイン。ずっとあなたに会いたいと思っていました」

「えっと、どこかで……?」

 戸惑いを深くする彼女に黙って微笑みかけ、ダンスのために広い空間へとエスコートをして進んでいく。




 ようやく会えた。六年前、僕の命を救ってくれた、憧れの人に。






 六年前。十二歳だった僕は王立魔法学院に通っていた。

 同級生たちと比べ、魔法が得意だったこともあり、修行と称して王都近くの森へ一人で入った。小型の魔物を難なく倒し、調子に乗って魔物を追いかけていると気付けば森の奥深くへ。

 辺りは薄暗く草木が生い茂り視界が悪い。


 茂みが揺れる音がして振り返ると、魔物が一匹。明らかに当時の僕になんとかできるようなヤツではなかった。

 牙を剥き出しにしてこちらを威嚇する魔物と、どうすることもできず立ち尽くすしかない僕。

 飛びかかってきた魔物に目を閉じることさえできずにいた。もうダメだと諦めた時……


 一筋の青い光が魔物を両断していた。


「大丈夫?」

 魔物をいとも簡単に切り伏せたのは、青い刀身の剣を片手に持つ、黒髪のお姉さんだった。高い位置でひとつに結った髪をサラサラと揺らし、こちらを振り向く。

 アイスブルーの瞳と目が合った瞬間に心臓がバクバクと大きな音を立て始める。


「はい……」

 こう答えるのがやっとだった。今まさに命の危機が迫っていたというのに、それを凌駕する衝撃的な出会いをした。

 流れるような剣技、綺麗な瞳、美しく流れる黒髪、優しく澄んだ声……全てに衝撃を受けている。

「よかった」

 安心したように微笑む彼女に目を奪われた。なんて美しいんだろう、と。

「ここにいたら危ないから、王都まで送っていくね」

 動くことのできない僕の手をそっと握って歩き出すお姉さん。見上げた位置で結い上げた髪が揺れている。


「ここで平気?」

 気が付けば王都の入り口までたどり着いていた。

「あの、助けてくださってありがとうございました!」

 やっとのことで口から出た言葉は今さらだった。それにも関わらずまたお姉さんは微笑んでくれる。

「うん。危ないから、もう一人で森に入っちゃだめよ?」

「はい。あの、お礼をきちんとしたいので名前を教えてください」

 この言葉にお姉さんは静かに首を振る。

「そんなこといいの。無事でよかった」

 そう言って歩いて行ってしまう。その背中をただ見ているだけしかできなくて、でも忘れることも、いつまでもできないままでいた。





 煌めくシャンデリアの下で、あの時のお姉さんが僕の目の前にいる。

 戸惑う表情を隠しきれないまま、僕のリードで一緒に踊ってくれている。お姉さんのぎこちない足どりは戸惑いだけが理由ではない気がした。ダンスに慣れていない人のようだ。

 それでも僕にとっては、人生で一番楽しくて美しいダンスだと思う。


 夢のような一曲はあっという間に終わり、互いに挨拶のお辞儀を交わす。

「レディ、お名前を教えてください」

あの日の問いかけをもう一度。


「……クラリス・ベルモント、です」

 その声に心が歓喜する。



「ようやくお名前が知れました」


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