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オマケ・メルラとレンと騒がしき新婚生活・7

オマケ最終話です。

レン様が我が家に来る。


レン様の手紙を読んで息を呑んだ。今までだってレン様が仕事で我が領地に来る事は有って、その度に家を訪れて下さっていた。レン様からのお手紙はいつも私を気遣ってくれて心温まった。レレン伯爵領を訪ねて下さると訪れた他領について話をして下さり、偶に国外へ出た時の事も話して下さった。それが楽しくて作品を書く事の下地にもなっていた。


ーー楽しかった?

私はレン様の話が楽しみだった? 楽しみだったわ。手紙も考えてみれば待っていたのかもしれない。

ーー待っていた。

ああ、そうだわ。私はレン様からの手紙を楽しみにして待っていた。ニコルを思い出す夜、眠れない夜、レン様からの手紙で慰められていた事もあった。レン様からの手紙も実際に会いに来て下さった時のお話も、領地と学園を往復するくらいしか出ない私の世界を広げて下さっていた。


今更、そんなことに気付くなんて。


……明日、レン様はいらっしゃる。執事にレン様が来る事を伝えて屋敷を整えておく事を頼む。客室の準備もしてもらおう。私も何か出来ること……ああそうだわ。レン様のお部屋に花を置きたい。その準備を私がするのはどうかしら。


「お嬢様は、お幸せそうですね。長くブレングルス様にお会いしていなかったから、とても嬉しそうだ」


執事に指摘されて、私は驚く。そう。そうだわ、私。ニコル以外で初めてこんなにも男性の訪れを楽しみにしている……。ニコル。私、あなたを忘れてしまいそうなの。怖いわ。

不安に押し潰されそうになりながらも、迎えた翌日。レン様が領地内に入った事がお父様から知らされた私は、ソワソワしながらもソファーに座っていた。でも落ち着かなくて。結局私は途中まで様子を見に行く、とお父様に伝えて屋敷から出てきた。出て少しした所で、レン様のお姿が見えた。何かを持っていらっしゃる。少しずつ近づいて、それが私が差し上げたハンカチだと気付いて足を止めた。そのままレン様を見ていると、私とレン様と揃いの結婚指輪を撫でている。


その姿に何故か視界がボヤけて来る。でもレン様から視線が逸らせなくて。私に気付いて下さったのか驚いた表情の後、私に近づいていらした。そのままレン様の腕の中に閉じ込められて。強く抱きしめられるその手が震えていました。その震えが、私に伝わってくる。

その震えに促されるように私は不安を口にしました。


「私は、ニコを思い出さなくなる日々が、怖いんです」


レン様は私の悩みを聞いて不安を取り除くように私の頭を柔らかく撫でて仰います。


「大丈夫だ。メルラ。ニコル君を思い出さなくなる日が来ても、メルラの心はニコル君を忘れない」


「……そう、でしょうか」


「ニコル君を忘れてニコル君のお墓参りに行かなくなるか? そんな事はないだろう? 大丈夫だ。思い出さないのは、心に封じるからだ。心の奥に思い出を閉じて必要になればまた思い出せる。忘れるわけじゃない。ただ心の中で眠るだけ」


「心の中で眠る」


「そうだ。私が最初の婚約者を亡くした時のように、彼女の思い出は普段は心の奥で眠っている。けれど彼女の命日には思い出される。私達は恋情を抱いたわけじゃない。でも互いに家族のような情は持っていた。だから私だって彼女のことを思い出す。普段は忘れているわけじゃない。ただ心の中で眠ってもらっているだけだ」


私はレン様に縋って泣き続けていた。その間レン様はずっと私から離れず、慰めて下さった。


忘れるわけじゃない? 心の中で眠ってもらうだけ? 私は……薄情では無いのでしょうか? ああでもそうです。私がニコルの命日を忘れるわけがない。だったら。


「だったら私は怖いと思わなくて良いのでしょうか」


「ああ」


「ニコは許してくれると思いますか」


「さてな。俺は分からないけれど、メルラなら分かるだろう? ニコル君はメルラのその考えを許してくれないのか?」


「……いいえ。ニコは許してくれます」


私はようやく泣き止んで、レン様に笑いかけた。レン様も嬉しそうに笑ってくれます。


「レン様」


「ん?」


「まだレン様への気持ちが何なのか分かりません。分かりませんけれど。……お帰りなさい、レン様」


「ああ“ただいま、メルラ”」


これから先もレン様に“お帰りなさい”を言い続けたいとは、思います。私がレン様にそう囁くと、俺もメルラに“ただいま”を毎日言いたい、と笑って下さいました。それと私はレン様にお願いをしました。


「もしも、私に子が授かりましたら、それが男の子でしたら“ニコル”の名を付けても宜しいでしょうか」


と。レン様は驚いた後に頷いて嬉しそうに笑いかけて下さいました。


「それは、俺との子が欲しいと思っている、ということで良いんだな?」


私は頷くだけに精一杯でしたが、その夜、レン様は客室ではなく私の部屋に泊まって行かれました。まだまだレン様は忙しいようですが、私はレン様より一足先に、レン様が賜わる予定の領地でレン様の帰りを待つ事にしたいと思います。


ーーニコル。私は、あなたを忘れるわけじゃありません。心の中で眠ってもらうだけ。ニコの命日にまた逢いましょう。


私の人生が終わるその時は、レン様と一緒に私を迎えに来てくれると、それくらいの夢くらいは見ていたいと思います。

ここまで本作をお読み頂きまして、ありがとうございました。


本作を執筆した時は、続編の需要があるとも思わず。続編執筆終了後は、オマケの希望があるとも思わず。


愛される作品に育った事を嬉しく思います。


本作は、本当にこれで完結です。この後は執筆予定が無いので皆様のご想像にお任せします。


お読み頂きましてありがとうございました。皆様の貴重な時間を割いて目を通して頂けたこと感謝致します。


それでは。

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