23話・やっかみ
わたしに気持ち悪いほどよく似た女性が満面の笑みを浮かべていた。その笑みに影響された男性達から「ほおっ」と、声が漏れた。
そして女性からは非難の声が上がる。
「なによ。あの女。どこから湧いて出たの?」
「いつの間にマニス王子に取り入ったのよ。信じられないわ」
「いつも王子を独り占めしていたシャルロッテ嬢がいなくなったと聞いたから、次はわたくしが注目される番かも知れないと着飾ってきたのに何よ、あれ」
「そうよ。あの邪魔な純情ぶった女がいなくなったと思ったのに……! きぃ。悔しい~」
ここもヌッティアの王城に集う貴族の令嬢とそう変わらない反応だ。人気の貴公子に自分を売り出す為に女は磨きをかける。わたしは王女だった為に直接の被害はなかったけれど、花形の騎士を射止めた女官は影で先輩女官に虐められて嫌味を言われていたりした。
その先輩女官にはわたしから他の騎士を紹介したので、今は虐めとかなくなっているはずだけど。
彼女らの姿にそのことを思い出した。女の嫉妬って怖いわよね。もし、シャルがわたしの正体を知ったならどんな反応をするかしら?
周囲が静まるのを待って一度は席に付いた王が立ち上がり、王太子らもそろって椅子から立ち上がった。いよいよ、発表の時ね。
「皆の者に今宵は知らせたいことがある。この度、マニス王子が婚姻する運びとなった。お相手はハートフォード家の長女である侯爵令嬢アロアナ嬢だ」
それを聞き、皆がざわめき出した。当然よね、きっとシャルは王子の許婚として公認だったに違いないし、皆、相手が違うと思っているはず。
「ハートフォード家のご令嬢? 他にいたのか?」
「そんなの聞いたこともないぞ」
「これはどういうことなの? シャルロッテ嬢に姉君が? うそぉ」
「あんな人、一度も社交界で見たこともないわ」
男性たちは困惑し、女性たちは口々に騒ぎ立てた。
「皆、静まってくれ。驚くのは無理もないと思う。皆が良く知る私の許婚であるシャルロッテ嬢は失踪し未だ行方が知れない。そこでハードフォード家が新たに養女として迎えたアロアナ嬢を妻とすることにした」
マニス王子の張り上げた声にざわめきが静まり返った。皆、今の言葉で何となく悟ったよね? どうあってもハートフォード家と、王家の結びつきは強いと。
ハートフォード家には正式な後継ぎがいない。シャルロッテという娘しか恵まれなかったので、彼女が婿にした者が後を継ぐのは当然とされている中で養女の存在が明らかになった。
これはどうあっても王家としては、マニス殿下の後見をハートフォード家に任せたい意向で、その為に養女を用意するのは厭わないということを。
「大方王子好みの女を養女に迎えたのだろう。ハートフォード家の婿どのはそこまでして王家と縁戚になりたかったらしい」
「やつは前宰相の愛娘を妻にしておきながら、蔑ろにしていた男だろう?」
「ああ。非道な男だよ。奥方が出産で苦しんでいる時には愛人宅に入り浸っていて顔も見せなかったから宰相殿は悔しがっておられたな」
「婿どのは愛人と暮らしているから、そちらの子ではないのか? 抜け目ない御方だ」
「婿どのの愛人は平民と聞いたぞ。庶子に貴族籍は与えられないだろう? それに舅のカウイさまは厳しい御方だからそんなことお許しにならないだろうよ」
「宰相職をカウイどのから奪ったのは、婿どのだと聞いたぞ。その彼なら王家相手に、汚い取り引きぐらいするのではないかね?」
さっきまで偽アロアナを美しいと称賛していた男達は、王達のいる席から少し離れた場所に控えている男をやっかんでいた。インテリ風の茶髪の男だ。背は高く眼鏡をかけている。シャルには似てなかった。
彼等の目線から、その男がシャルの父親にして現宰相であるのは違いなかった。皆が面白くない思いで色々言うのは仕方なかった。
あわよくば……と、思っていたのに、それをものの見事に打ち砕いてくれたのだから。しばらくハートフォード家への風当たりは強いかもしれない。




