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シンデレラ・リアリズム  作者: Aschenputtel
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1.継母

凍てつくような冬の風が、神聖ローマ帝国の端に位置する小国の、古びた石造りの屋敷を吹き抜けていました。

ヘルガの母、ヨハンナが病を得て没し、庭の小さな祭壇近くにある墓所、ハシバミの木の下に埋葬されたのはヘルガが10歳を迎えて間もない時のことでした。まだ冷たさの残る土の前に、少女はへたり込んでいました。


「お母さま!お母さま!」


墓に泣き縋るヘルガの小さな肩は、激しく震えていました。その背中に、そっと分厚い手が置かれます。元兵士の古株使用人で、今は庭師を務めるトマスが、痛ましげに目を細めて声をかけました。


「お嬢様、これからは家になかなかお戻りになれない旦那様に代わり、我ら使用人一同がお支え致します。料理番のアンナも、侍女のカミラも、みんなお嬢様の味方でございます。ですから、どうかお顔をお上げください」


ヘルガはトマスのひび割れた手を握ると、あふれる涙を袖で拭いました。その手のごつごつとした硬さが、幼い彼女にとっての唯一の寄る辺でした。


しかし、その誓いが交わされてから数ヶ月も経たないうちに、屋敷の空気は一変することになります。行政官としての職務に追われ、国内の裁判や帳簿にかじりついていた父フリードリヒが、新しい妻を連れて帰ってきたのです。

長旅の馬車から降り立った新しい家族は、この古い領主館の土を踏むなり、あからさまに不快そうな顔を隠そうともしませんでした。


「全く、なぜわたくしがこのような泥臭い田舎に嫁がなくてはならないのかしら。空気が湿っぽくて、ドレスの裾が汚れてしまうわ」


高価な絹の扇で鼻先を覆いながら嫌味を言う継母のエレオノールは、フランスの宮廷文化に染まった洗練を誇示するように、あごを傲然と持ち上げていました。その背後からは、同じように着飾った義姉のマリエルとパメラが、くすくすと笑いながら追随します。


「本当ね、お母様。王都といえば聞こえはいいけれど、ここはただ土と草の香りがするだけじゃない。洗練されているとはお世辞にも言いがたいわ」


姉のマリエルが、毛皮の襟巻きに顔をうずめながら同意しました。すると、妹のパメラが、わざとらしいなだめ声を上げます。


「まあお姉様、そうお言いにならないで。新しいお父様は、栄光あるシャリエール家に不足していたお金だけはもたらしてくれたのですもの。没落しかけていた我が家に免じて、このくらいの退屈は我慢しなければ。そう文句を言うものではないわ、お姉様」


彼女たちの会話は、この家に流れる古い実直な空気を、容赦なく踏みにじるものでした。

なぜ新しいお母さまやお姉様たちは、出会い頭にこのような酷いことを言うのだろうか。ヘルガは灰を帯びた金の髪を揺らし、深い緑の瞳でただ静かにその光景を見つめるしかありませんでした。

彼女たちが傲慢な足取りで館の中へと通り過ぎた後、それまで平伏していた使用人のカミラが、立ち上がりながら悔しそうに拳を握りしめました。


「旦那様……新興の官僚貴族として宮廷で肩身の狭い思いをされているのは理解できますが……いくら由緒ある血統を我が家に取り込まなければならないからといって、これではあまりにもお嬢様が不憫でございます」


カミラの言葉には、深い憤りと、これからの屋敷の行く末を案じる暗い響きが含まれていました。しかし、まだ幼いヘルガには、その言葉の本当の重みも、これから我が身に降りかかる過酷な運命の予兆も、まだ理解することができなかったのです。

⭐︎リアリズムポイント⭐︎

グリム童話の設定に従い、舞台は14世紀末の神聖ローマ帝国 (ドイツ)。

再婚した父が不自然なほど家庭を放置している=官僚貴族で家に帰れない事が想定されます。

再婚の理由= 官僚貴族であるフリードリヒは新興家系であり、宮廷で肩身が狭く、伝統はあるが百年戦争で財政が破綻しがちなフランスから妻を迎える事で、古い家柄との縁組による権威付けを必要としていた可能性があります。

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