絶対に笑わ...ない?
ヴィステジア王国。
この国では国王直属の騎士団が国の防衛を担っており、古くから国の脅威であったマルヴォリオと呼ばれる魔物を騎士団が討伐してきた。
その騎士団に「絶対に笑わない」と噂される男がいる。この話は、その絶対に笑わない男が恋人にはデレデレになるまでの物語。
ヴィステジア王国騎士団に所属するリアム・ハワードは、8年前騎士団に最年少で入団した。異例のスピードで出世し、今は副団長を務めている。彼の恐るべき魔力と鍛え上げた武力は、騎士団でもトップを争うものだった。
彼は幼いころに両親をマルヴォリオに殺され、孤児院を転々として生活していた。しかし生まれつきの桁外れの魔力は時に暴走し、周りにいた人々を傷つけてしまったのだ。そのときから彼は一切笑わなくなり、人との関わりを極力避けるようになった。
そして力を正しく使う方法を独学で学び、最難関と言われる王立騎士団の入団試験に最年少トップで入団したのだ。
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ヴィステジア王国騎士団本部では、リアムが書類を抱えて回廊を歩いていた。
「おーい、リアム!」
同じく騎士団員のレイヴンが走って向かってくる。
「今日の夜、一緒にメシどうだ?」
明るく誘うレイヴンを見て、リアムは無表情のまま言った。
「...すまないが、今夜は宿直だ」
「そっか〜...最近一緒に飲めてないから今日こそと思ってたんだけどな。てか、また宿直かよ!お前いい加減仕事しすぎだからな!無理すんなよ、じゃ」
「ああ、またな」
そう言って二人は別れた。
リアムは宿直室に着くと書類の束を整理する。まだ他の宿直当番は誰もおらず、静かな部屋でひとり考え事をしていた。
というのも、国王がリアムの武功を讃え「お前になら妹を任せられる」と王女との見合いを薦めてきたのだ。リアムは最初「身分が違いすぎる」とすぐに断ったのだが、国王と騎士団長が結託し強制的に王女と会う日取りが決められた。
「はぁ...明後日か...」リアムはため息をついた。
騎士団は国王直属なので国王であるルイスとは入団時から交流があり、彼の剣の稽古はリアムが担当していた。年が近いルイスとリアムは盟友のような存在なのだ。しかし、彼の妹である王女とは面識がなかった。
「...適当に理由をつけて断りたかったが、王命だから仕方ないよな...とりあえず会うだけで...」
げっそりした顔でリアムは書類を読み始めた。
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お見合いの日、王城の庭にある東屋で正装したリアムが待っていた。騎士団の隊服に特別な式典などでつける真紅のマント姿のリアムを見た王宮のメイドたちが、あまりの麗しさにザワザワと騒いでいた。
「...すみません、少し遅れてしまいました」
透き通るような声がしてリアムが振り向くと、淡いピンクのドレスを見に纏った女性がお辞儀をした。
「ヴィステジア王女のサラと申します」
顔を上げたサラがあまりにも可憐で、緊張したリアムが椅子から立ち上がり敬礼して言う。
「騎士団副団長のリアム・ハワードと申します!王女様におかれましては、本日も麗しく...」
軍隊のように堅苦しい彼を見て、サラはクスッと笑った。
「...リアム様。そんなに緊張しないでください。兄から急に見合い話を持ちかけて、ご迷惑をおかけしてごめんなさい。...せっかくの機会ですし、少しお話しませんか?」
二人は王宮の庭を一緒に歩くことにした。
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「実は私、一度あなたに命を救っていただいたことがあって...」
「...え?」
突然のサラの言葉にリアムは困惑した様子を見て、笑いながら彼女は続けた。
「覚えてなくて当然です。...2年ほど前、国民の生活の様子が知りたくて、こっそり王宮を抜け出して町に行ったんです。でもそこでマルヴォリオが現れて...足を捻って逃げ遅れていた私を、リアム様が助けてくれたんです」
「そうでしたか...」
「兄からよくリアム様のことを"絶対に笑わない面白い男がいる"って聞いていたけれど、町で助けた子どもたちからお礼を言われたあなたが、一瞬笑ったように見えて......」
リアムはサラの言葉に驚いた。他人を傷つけてしまったあの日から、自分には笑う資格などないと思っていたからだ。「絶対に笑わない男」と呼ばれることにもすっかり慣れてしまっていた。
「俺、笑ってたのか......」
顔に手を当てるリアムに、サラが向き合って言った。
「あなたの笑顔がまた見たくて、あれからずっと好きでした」
風がそよいで花々が揺れるのが、スローモーションのようだった。リアムはサラの告白に顔を真っ赤にした。
サラも「...言ってしまった」と呟くと、あまりの恥ずかしさに走って部屋に戻ってしまった。
こうして「絶対に笑わない男」がのちにデレデレになる運命の相手と出会ったのであった。




