005 街を散策してみる
おはよう。昨日はあの後全然寝付けなかった。眠いが、朝食に向かう。いつもと同じメニューのはずなのに、なぜか味がしない。
素材を換金してもらいに、今日も朝一でギルドへ向かう。宿を出ようとすると、
「ショータさーん!」
後ろから声をかけられた。若い女性の声だ、誰だろう?
振り返ると宿の入口あたりで手を振っている。顔に宿の女将さんの面影がある。娘さんだろうか。何の御用でしょーか?
「今日はお弁当買わないんですか〜?用意してますよ〜〜?」
ああ、その話か。今日は他の店で食事をしようかと思っていたんだが、、、
「じぃーーー……」
めっちゃ見つめてくる。買えという圧を感じる。にしても可愛いなあ、これがあざといってやつなのか。
「か、買ひまひゅ…」
すごく照れてしまい、噛んでしまった。だからこーゆーのは刺激が強いんだって、、、、
「お買い上げありがとうございます!いつも美味しそうに食べてくださっているの見てますよ!」
あざとい表情を一瞬でやめた。誘惑に釣られて買わされてしまった。ああ商魂たくましき。10Gを支払い、弁当を受け取った。そういえば、と名前を聞いたところ、リンというらしい。じゃ、今度こそギルドへ。
「いってらっしゃい、ショータさん☆」
そう言ってウインク。こちらも破壊力抜群だ。またあざとさを押し出す。明日以降も買ってねということか。
「いってきます、リンちゃん!」
こちらも反撃。年下 (たぶん)にやられっぱなしはちょっとね、、
「!?」
リンちゃんを少し動揺させることに成功!こそっと後ろにいた女将さんが、まだまだねといった表情をしていた。
うーむ、、どうしたものか…
歩きながら考える。マーガレットさんとリンちゃんのことをだ。勿論、すぐに恋愛に結びつける訳ではないが、恋愛経験0の俺はどちらの女性のことも魅力的に感じているのは事実だ。これが一目惚れというやつなのだろうか。うぐぐ、どうしても2人のウインクが頭から離れない、、、、
そうこうしているともうギルドの目の前だ。相手が俺の事をどう思っているにしろ、こちらは最善を尽くすだけだ。そう割り切ることにした。
今日も窓口ではマーガレットさんが待っていた。昨日のことなんてなかったかのように普段通りの様子だ。
「おはようございます。なんの御用件ですか?」
「素材の査定をお願いします」
そう言って、昨日得た魔石を全て出す。
「お、多いですね…」
すこし戸惑っている。当たり前だ。なにせ前はオーク1体倒すのがやっとだった駆け出し冒険者が、次の一日でもう乱獲してきたというのだから。
「森に入ったり、他の冒険者の所持品を奪ったりはしてないですよね?」
「してないです。本当に気になるなら面接の時のおっちゃんを呼んできてもらってもいいですよ」
きっぱりと言い切る。清廉潔白である、、はずだ。ほとんどチートのおかげだから微妙なところだが。
「なら良かったです。でも決して無理はしないでくださいね。眠そうな様子ですし」
眠いのを見抜かれてしまった、さすがの観察眼だな。まさかあなたのことを考えてて眠れませんでした、なんて言えるわけもない。
「ん〜??なんか理由がありそうですね〜〜??」
ニヤニヤしながら見つめてくる。
「そ、そんなのどうでもいいでしょ。ほら、もう査定終わったんじゃない?」
咄嗟に話を逸らす。ほとんどあなたを意識していますよと言っているようなものだが、俺の女性経験ではこれが限界だ。悲しいかな。
幸いマーガレットさんがこれ以上詮索してくることはなく、査定の結果を発表する。
「ゴブリンの魔石が69個、オークの魔石が21個で、合計2514Gになります」
「え?」
思わず戸惑いの声が出た。眠気も吹っ飛んだ。まさかここまで稼ぎが増えるとは、、、、
「大丈夫。数え間違えていませんよ。正真正銘あなたの戦果です」
そう言って、小袋を渡された。中には金貨25枚に銀貨1枚、それに銅貨が4枚。
「この後はどうなさるのですか?」
珍しくマーガレットさんが話を振ってきた。少し親しくなってきたからか。
「まあ冒険に行こうと——」
「ダメダメダメダメ!!三日に一回、できれば二日に一回は休まないと!」
食い気味に否定された。これを言うために聞いてきたんだな。期待した自分がバカでした。
「それに装備の手入れも必要よ。何か必要なものはないの?」
言われて思い出したが、剣が折れてしまったんでした。
「剣が折れてしまって、あと帰りが不安だったので地図的なものもあれば欲しいですね」
「ほら、やっぱりあるじゃない。剣もより良いものを使っていい頃合いなんじゃない?隣の道具屋で売ってるから探しなさい。ちょっと値が張るけど、そこには地図の魔道具もあるはずよ。買ってもいいと思うわ」
魔道具ってなんだ?
「そんな基礎的なことも知らないの?妙な人ね。魔道具ってのはMPを注げば何か効果を得られるもののことよ。スキルを持っていない人でも使えるのが便利ね。”地図”スキルもみんなが持っている訳じゃないし」
「丁寧にありがとう。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。装備に使うお金はケチっちゃだめよ。よく考えて選びなさいね!」
話を振られた後から急にお嬢様口調な感じだったな。少し仲良くなってきたからだろうか。きっとあれが素の姿なんだろうな。
道具屋へ。まずは剣を探す。様々なものが一面に並べられているが、奥のもの程上級者向けで値段が高い。最奥には百万G近くするものが売られている。100%オリハルコン使用で、オーダーメイドの特注品になるようだ。流石にレベルが違いすぎるが、いつかはそこまでたどり着きたいな。
自分のレベルにあったものはここらへんだろうか。初心者の域を出て、1000~2000Gの剣が並べられたゾーンがある。店員から説明を受けていると、気になったものが一つあった。すこし青みがかった銀色の剣。2000Gだが、この価格帯でオリハルコンが入っている唯一のもの。切れ味がかなり悪いが、耐久性は抜群らしい。ほかにも色々あったが、これを買うことにした。きっと俺の全力でも折れずに耐えてくれるはずだ。
続いて魔道具売り場へ。地図の魔道具も売られていて、ひとつ500G。戦闘で壊されない限り何度でも使える。これも買うことにした。
会計へ、合計で2500Gだ。昨日の稼ぎがすべて消し飛んでしまったが、まあ致し方ないだろう。
店を出る。まだ正午くらいということで、街の様子を見て回ろう。弁当を食べてから大通りに沿って歩いてみるが、ほとんど屋台しかない。今君たちのことは別に求めてないよ、、、
埒が明かないので、動作確認がてら魔道具を使用してみることとする。カバンから魔道具を取り出す。手のひらサイズより少し小さくて、円形でまるでコンパスのような見た目だ。魔力を流し込むが、何も起こらない。一定量を注いで初めて動き出した。魔力が魔道具から吹き出て周囲に広がってゆく。しばらくすると頭に情報が流れ込んでくる感覚があった。”地図”を発動したときと似たような感覚だな。どうやら大通りを外れたところに飲食系以外の店は立ち並んでいるようなので、脇道へと入る。
脇道は日の光がよく入って明るく、治安も良さそう。服屋や雑貨屋が多い。若者が多く行きかっていて、活気がある。服は回復魔法で浄化できていて、雑貨も今は不要なのでスルー。奥へ進むと不動産屋が見えた。宿暮らしも悪くはないのだが、何せ部屋が狭い。今後の稼ぎもある程度目途がついた以上、家探しもそろそろしてゆきたい。
不動産屋に入店。店員の待つテーブルへ。何個か物件を紹介されたが大体1000G/月が基準で、これくらいの家賃で一軒家を借りられる。まだ宿の予約が残っているし、今はお金もないので、契約はせずに退店。めぼしい物件があったのでキープしてもらうようお願いしておいた。
地図によるともう一つ脇道に逸れても店が並んでいるというので、そちらへ行ってみる。急にじめじめとした暗い道になった。店もサラ金、怪しげな占い屋や風俗ばかりでほとんど人通りがない。その中で明るい装飾の店があったので見てみたが、奴隷商だった。いくら異世界といってもまだ奴隷には抵抗があったのですぐこの通りからは離れた。
夕方なのでそろそろ戻る。地図に従って歩いて帰ると、今日もマーガレットさんとすれ違う。挨拶しようとしたが、スタスタとそのまま通り抜けていった。俺には気づかなかったみたい。おなかすいてたのかな...?
宿に到着。俺の姿を見て、女将さんがリンちゃんに何か耳打ちしている。なんだろう。その後の夕食はいつも通りで、特に何もなかった。じゃあ、、と期待して入念に体を洗っておき、自室で待つ。だが、何もイベントは起こらず。夜も更けてきたので、諦めて就寝。




