第9話「光明と月夜の目覚め」
### あらすじ
精霊の街スピリットに滞在するグレイリィは、光の精霊女王ホウメイの魔法「光癒」により3日間の眠りで心の傷を癒される。
相棒のルゥ(蒼白竜から氷珀竜に成長)はグレイリィにべったりで、ソルフェージュに引き止められつつも、グレイリィの作った料理や過去の冒険の思い出を振り返り、絆を深める。
闇の精霊女王アンジュは、グレイリィとルゥの強い絆を「深い青い線」に例え、癒しの時間を後押し。
アカリの提案で髪を洗い、乾かす和やかな場面を経て、グレイリィはルゥやアカリとお茶を楽しみ、水精霊の街の海へ水遊びに出かける。
お祭り前のゆったりした日常の中で、グレイリィはルゥとの20年以上の絆を再確認し、潮の香りに心を弾ませる。
精霊の街、スピリットに滞在している。
光の精霊女王、ホウメイの魔法"光癒"だろう。この魔法の名前は有名だ。
心に傷を負った者や軽傷から重症の怪我でも、光で優しく、眠るような心地良さに癒されるのだとこの世界ならよく言われている。
3日間、私は眠り続けていたみたい。
実際ホウメイ様がかけてくれた、眠りの魔法のお陰で、私の心も少し軽くなった気がする。
ルゥもちょっと雰囲気が変わったような、3日前とは少し違う気がする。
「ルゥ、くすぐったいよ。」
すりすりと1時間くらい、私に抱きついている状態である。
「随分と甘えてるみたいね。ルミナ」
「ソルフェージュ様、リンハン様」
『いつものことだよ。』
「あの時は、ホウメイを止められず、申し訳ありません。」
『ほんとう、酷いよ。』
「こら、ルゥ。」
リンハン様に当たる、ルゥを抑える。
「いいのです、大事な人になにかされて、怒ることは普通のことですから。」
さわさわと冷たいような、温まるような。
「まだ精霊灯篭の水送り祭まで、日にちあるからゆっくり羽を伸ばしてちょうだい。
アカリ、グレイリィさんをお風呂へ。」
「はい、ソルフェージュ様。グレイリィ様、こちらです。」
「ルミナは、私とお留守番よ。」
『えー、なんでよ!』
「グレイリィさんには、グレイリィさんの時間が必要なのよ。ゆっくりお風呂入らせてあげなさいよ。」
『それを言われたら、なにもできないじゃないか。』
私はアカリさんに手を引かれて、ルゥを置いて、部屋を後にした。
「ルゥ。」
ソルによって、引き止められちゃった。ボクもお風呂行きたかったのに!
「そんな顔しないで、せっかくの可愛らしい顔が台無しよ?」
『ふーんだ。』
「新鮮な木の実持ってきたから、これで許してちょうだい。」
『ふん!』
もぐもぐ、ソルめ、食べ物で許してもらおうなんて、もぐもぐ、そう簡単にいかないんだから!
この食べ物もいいけど。
『グレイリィの作った料理、食べたいな。』
「グレイリィさんの?」
『ノ=ラビットのシチュー、牛の乳が入ったシチューなんだけど、チーズも効いてて、濃厚で美味しかったんだよ!』
エッグ=バードの卵で作ってくれた、四角くて、ふわふわで甘い黄色くて、優しい味だった。
ポイズン=スネイクとウィンドボアとクロイ=ダイルの串焼き。トウカイで買ってた、桜チップスの燻製の香ばしさ、ユーハンの香草とスパイスの味はたまらなかった。
この毛皮の服、ウルフを討伐した時の素材で作ってもらったと言って、ボクにくれたんだ。首輪も指輪も、服の襟についている、ピンバッジ。
「良かったわね。その思い出も物たちも、大事にしなさいよ。」
『わかってる、ソル。』
サファールとの思い出もたくさんあるけど、グレイリィとの思い出も、もうこんなにあるんだな。
なんでか、ぼんわかと胸があったかいや。
「温かい。」
染み渡るというのは、こういうことだな。乳白色に花弁が浮かんでて、いい香りだ。
「思ったより、元気そうで良かったわ。」
静かな雰囲気なのに、凛とした声は
闇の精霊女王、アンジュ。
「いつまでも落ち込んでいたら、ルミナが心配しますから。」
「そう。あなたたちから深い深い青い色の線が見えるわ。一見繊細そうなのに、触れてみると意外としっかりしていて、簡単に切れなそうね。」
私にはなにも見えないが、アンジュ様が指先で優しく触れる仕草をする。
「ルゥとは、もう20年以上の付き合いですからね。」
召喚儀式では、ルゥの蒼白竜(今では氷珀竜)の姿を見たことなくて、幼い時はルゥだとわからなかったけど。
あの時キミに導かれて、本当に良かったと思う。出会えたこと、感謝する毎日だ。
それにしても、アンジュ様は意外と喋るんだな。もっと寡黙の人だと思っていた。
「あの!」
「おや、アカリ殿?」
「髪洗うのやらせてもらってもいいですか!?」
きらきらとなにか期待する瞳に、私は断れなかった。しかし、アカリ殿が洗うととても気持ちよかった。
ソルフェージュ様にも、やっているのかもしれないな。髪を清めて、ゆったりとしたお風呂の時間だったが、静かで少し物足りなさも感じた。
もう私の中で、ルゥがいることが当たり前になっていることを改めて思った。
「ルゥ、おまたせ。」
『グレイリィ!おかえり!』
「ただいま。」
私の周りをくるくると飛ぶルゥ、とても氷珀竜に見えないけど、戦闘になると本当に頼もしい。
『あれ、グレイリィからお花の香りがする!』
「湯に花弁が浮かべてあったからな、それだろうね。」
「あ!ボクも髪乾かすの手伝うよ!」
ルゥが風魔法で、そよそよと温かい風が心地良い。
「あ、あの!」
「どうかしたのか、アカリ殿。」
「私もグレイリィさんの髪、とても綺麗で素敵だったから、乾かすのも手伝っていいですか?」
「ありがとう。私の髪は見ての通り長いから、乾かすのに時間がかかるんだ。助かるよ。」
「わぁ!さっきも思ったけど、本当綺麗…しかもさらさらで、ソルフェージュ様みたい!」
『海にいるグレイリィはもっと綺麗なんだよ!』
アカリ殿とルゥのおかげで、早く髪が乾いた後、ソルフェージュ様が様子を見に来たみたいだ。
今日はゆっくりしなさいと言われたのもあるが、ルゥが離してくれず、諦めて部屋にいた。
「こんな丸1日、部屋にいたのは初めてかもしれないな。」
『グレイリィは、じっとしてるの苦手だからね。』
それはルゥもじゃないかと言おうとしたけど、やめておいた。
「失礼致します。」
襖から精霊の特徴である光が見えた。襖が開けられると普段活発な雰囲気じゃなく、品があって少し驚いてしまった。
「お茶とお茶菓子をお持ちしました!」
「ありがとう。アカリ殿。」
『わーい!』
良かったら、アカリ殿もと誘い、お茶とお茶菓子を頂く。茶柱が立っていて、今日はいいことありそうだ。
「今日は水遊びに行きませんか?」
アカリ殿の提案で、水精霊の街の南側に海があるのだとか。
「この潮の香り、やっぱりいいな。」
『ん〜!きっもちいい〜!!』
爽やかな青が、太陽の光が反射して、きらきらしてて…綺麗で少し目の前が揺らいだ気がする。
『グレイリィー!泳ごうよー!』
ぼんやりとしたのを、振り払おうと瞬きをしたら、もうルゥは、あんな遠くに行っていた。
「早いな、ルゥ待ってよ!」
私はルゥを追いかけて、浅瀬に足を入れる。
「冷たい」
『グレイリィ!えいっ!!』
「え?うわ!!」
『へへーん!』
「やったな!ほれ!」
『わー!あたらないよ〜!』
ルゥとはしゃいで、アカリ殿からもらった、緑と黒いシマ模様の果物を割った。
「へぇ、中は赤いんだな。」
『美味しそ〜!グレイリィ、早く早く!』
ルゥに急かされ、さっさと切り分けて、赤い果実を齧った。
『あっまーい!』
「これは凄い水分だな、手が濡れてしまう程だ。」
「でも冷たくて、海で食べるのにぴったりだね!」
シャクシャクと食べ終えた後、海の中に潜りに行ったりして、ポリプ=コーラルやいろんなスモール=フィシュを見たりした。
ルゥのスモール=フィッシュと戯れている姿がとても可愛らしかった。
『ゆーやけ、こやけー!』
青かった海が今はオレンジ色に変わっている。
『はー、楽しかったね!』
「明後日か、お祭りは。どんななんだろうな。」
二人で魚を釣って、ソルフェージュ様とアカリ殿も誘って、4人で焚き火を囲んだ。
「これは美味しいわね。確かにルゥがあんな絶賛していたのがわかるな。」
『ふふーん!そうでしょ!』
「あはは、ルゥくんが威張ってどうするんですか!」
楽しく話していたら、いつの間にか星空に染まって、ルゥと天体観測もした。
『星がたくさーん!綺麗〜!』
「幻想な風景も相まって、本当に素晴らしいな。あれがシグナス、ライラ、アークイラだ。」
「3つ線で結ぶとトライアングルになるんだよね!」
「その通りだ。ルゥ」
『ふふ、シレッドに教わったからね!』
「そうか、お姉様か。」
『今日は、楽しかったね!』
「そうだな。こういう時間がいいよな。」
のんびりとした時間を、ルゥと楽しめたことが、本当に幸せだった。
ルゥが居れば、この先も私は大丈夫だ。
……To be continued