錯綜2-3-⑧:似ているから──少女たちの孤独
「だからって?」
「私が和に親近感を覚えるのは、きっと似ているからだよ。私たち二人とも、お母さんがいないから」
「そんなの関係ないと思うけど。言わなければ分からなかったことだし。世の中に母親のいない高校生なんて山ほどいると思うよ。みんなが似ているわけじゃない」
「そりゃそうかもだけど、言わなくても、どこか通じるものがあるように思うんだ、和とは
「意味不明……」
「あ、でも和には叔母さんがいてよかったね。一人は寂しいもん」
その時の寧々の目が、一瞬だけ暗く濁ったように見えた。
(ん……?)
「一人って……紫園さんにはお父さんがいるんでしょう?」
「いるけど……仕事でほとんど家にいないから。朝ごはんも晩ごはんも、いつも一人。だから学校で食べるお昼がいちばん楽しい。みんながいるから」
「そうなんだ……」
いつも明るい寧々にも、こんな一面があるのかと思った。
「お父さんと一緒にごはん食べられるといいのにね」
思わず、そんな言葉が口をついて出た。すると寧々は、少し驚いたような顔をした。
「和がそんなこと言ってくれるなんて!やっぱり和って優しい!」
「わ、私は別に……」
「でもダメなんだ。お父さんは、私と一緒にいたくないの……」
「え?」
「な〜んでもない。さ、早く食べよっ!あ、これちょうだいね!」
寧々はそう言って、和の弁当箱から卵焼きを素手でつまみ、自分の口に放り込んだ。
「ちょっと!」
寧々の一瞬見せた陰りが、和の瞼に焼きついていた。“一緒にいたくない”とは、どういう意味なのだろう?父親が娘を拒んでるということか?彼女にも誰にも言えない何かがあるのだろうか。そんな疑問が頭をよぎったが、その後の寧々は何事もなかったかのように明るく振る舞っていた。誰しも、心の奥に何かを抱えているのかもしれない。
それにしても、あの寧々が自分で弁当を作っていたとは少し意外だった。彼女は、どんな家に住んでいるのだろう。見たわけでもないのに、なんとなく広い大きな家に住んでいそうな雰囲気がある。その広い家で、毎日たった一人で暮らしている。朝、自分で起きて、朝食を準備し、お弁当を詰め、一人で食べる。夜もまた、一人きりで。喋る相手もいないまま、大きなテーブルでぽつんと食事をする寧々の姿が、なぜか頭に浮かんできた。
「どうかしたの、和ちゃん?」
夕食時、ぼんやりと箸を動かしていた和は、叔母の声で我に返った。
「あ、ううん。何でもない」
「何か、考え事していたみたいだけど学校で何かあったの?」
「そうじゃなくて、ちょっとクラスメイトのことを考えていたの」
「あら、珍しい。仲のいい子なの?」
「そういうわけじゃないけど。ちょっと前に転入してきた子なんだけど、帰国子女なんだ。ちょっと変わってて」
「変わっているってどんなふうに?」
「たぶん外国暮らしが長かったせいだと思うんだけど、思ったことをすぐ口にするの。遠慮がないっていうか」
「はきはきしてるのは、いいことじゃない。明るい子なんでしょう?」
「そうだけど、なんか……傍若無人って感じ。人の気持ち、おかまいなし」
和がそう言うと、叔母はくすっと笑った。
「その子のこと、気になってるのね。和ちゃんがお友達のこと、そんなふうに話すの、初めて聞いたわ。案外そういう子のほうが、和ちゃんには合うのかも」
「そんなわけ!」
「いいお友達になれるといいわね」
「それはないと思うし」
反射的にそう答えたが、その瞬間、昼に寧々が言った「私たち、似てるから」という言葉が脳裏をかすめた。似てるなんて、全然。そんなこと、ない。心の中で言ったつもりだったが、無意識に声に出ていたらしい。
「何?似てるって?」
「えっと……彼女もお母さんがいないって言ってた。でも私は叔母さんがいてくれるから、全然違う。叔母さんは私にとって……お母さん。ううん、お母さん以上だもの」
「和ちゃん……」
叔母の目が潤む。和は本気でそう思っていたが、今ここでこんなことを言うつもりはなかった。寧々のせいで、本当に調子が狂ってしまう。
「でもその子、お母さんがいないのにそんなに明るいなんて、強い子なのね」
「うん、それはそう思う。それにお父さんも忙しくて、ほとんど家にいないって言ってた」
「あら、だから和ちゃん、その子のこと気にしてたのね。そうだわ、今度うちに連れていらっしゃいよ」
「えっ……」
叔母の思いがけない申し出に、和は思わず目をぱちくりさせた。
「だって、和ちゃん、一度もうちにお友達を連れてきたことがないでしょう? 実はずっと心配していたのよ。友達ができないんじゃないかって。中学のときも先生に訊いたことがあったの。でも、クラスの皆と特に仲が悪いわけじゃないって言われて」
「叔母さん……」
「高校に入ったら、気分も一新して自然と仲の良いお友達ができると思っていたのよ」
「わ、私、別にその子と特に仲が良いわけじゃないから……」
「でも気になってるんでしょう? それに、いつも一人なんて可哀想よ。そうだ!今度、うちで一緒にご飯を食べましょうよ」
「はい?」
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