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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第四章 混沌(こんとん)

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混沌2-3-①:偶然の裏側ー繋がり始める線

   三.


 帰宅して部屋に入った和は、制服のまま机の前に座り、寧々が口にした事件についてパソコンで調べ始めた。指先でキーボードを叩き、「親子 殺害 紫園」と入力する。検索結果にはすぐに該当する記事が並んだ。


(本当なんだ……)


画面を見つめながら、和は心の中で呟く。嘘を言っている様子ではなかったが、どこか現実味が薄く、すぐには受け入れられなかった。寧々の語り方があまりにも淡々としていた事も、その感覚を強めていたのかもしれない。


 普段の寧々からは、こうした過去を背負っている気配は感じ取れない。それでも、時折見せる影のようなものに違和感を覚える事はあった。だが、それがここまで重いものだとは想像していなかった。画面には「美人親子惨殺」という刺激的な見出しが表示され、その下に被害者の写真が並んでいる。


 紫園朱音さん(二十六歳)。

 莉子さん(四歳)。


(この人が、紫園さんのお母さん……)


和は写真を凝視する。整った顔立ちの女性だったが、どこか幼さを残している。二十六歳と記載してはあるが、これは死亡当時の写真なのだろうか。写り方のせいなのか、それよりも若く見える。制服を着ていても違和感がないのではないかと思えるほどだった。二児の母とは思えない印象だ。


 隣に写る莉子は、母親によく似ていた。色白で、大きな瞳が印象的で、まるで人形のような整った顔立ちをしている。見出しに「美人親子」と書かれている事にも納得がいく。


 一方で、寧々の顔立ちはこの母親とはあまり似ていないように感じられた。父親似なのだろうかと考えながら、和は視線を記事へ戻す。


 事件は平成十三年六月七日、午後二時から四時頃に発生したと推定されている。閑静な住宅街で起きた凄惨な事件と記されていた。現場には被害者二人の他に長女がいたが、二階で眠っていたため異変に気付かず、犯人とも遭遇しなかった事から難を逃れたとある。


 第一発見者は、その長女だった。


「本当に、紫園さんが……」


和は思わず声を漏らす。目を覚まし、階下へ降りた時に目にした光景を想像する。まだ幼い子供が、血に染まった家族を見つける瞬間。その衝撃は、言葉で表せるものではないだろう。


 記事を読み進めると、途中に犯人の似顔絵が掲載されていた。目撃証言を基に作成されたものだという。目撃者がいたにも拘らず、犯人は捕まっていない。該当する人物が見つからなかったという事なのか。和はその似顔絵をじっと見つめる。どこかで見たような気がした。


(……あ)


似顔絵の男は髪が薄いが、そこに髪を補って想像すると、どことなく自分の父親に似ているように感じられた。気の弱そうな表情や、全体の雰囲気も重なる部分がある。


 勿論、当時の父は、今もそうだが、特に髪が薄いわけではない。先日テレビに映っていた顔にも、しっかりと髪はあった。それでも、完全に否定し切れない何かが残る。和は無意識に息を呑んだ。胸の奥で、小さな違和感が形を持ち始めていた。


 似てはいてもこれが父であるはずはない。そう結論付けようとする自分がいる。髪型だけで判断するのは早計だとしても、そこまで単純に結び付けて良いものでもない。いくら何でも、あの父が小さな子供にまで手を掛けるなど考えられない。そんな事が出来る人間だとは思えないし、思いたくもなかった。


 だが、その似顔絵は見れば見る程、父の面影と重なっていくように感じられる。ただの偶然なのだろうか。他人の空似と言えばそれまでだが、寧々の家族を殺した犯人の似顔絵と、自分の父の顔が似ているという状況は、あまりにも出来過ぎている。まるで誰かが意図的に父の顔に寄せて描いたかのようにさえ思えてしまう。


 その考えに至った瞬間、和は無意識に息を詰めた。これ以上考え続ける事を、心のどこかが拒んでいる。それでも、目は画面から離れなかった。


 ――何かが引っ掛かっている。


お読みいただきありがとうございます。

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